第16話 違和感
光が見えた。その光は獣の形をしていた。あれは何の獣だろう。角があった。その獣は吸い込まれるようにして自分の目の中に入ってくる。
あれほど脈打っていた鼓動が嘘のように静まって、痛みも消えた。残ったのはよく分からない喪失感。代わりに得たものは目。
――私はエイド。千里。貴方の目となりましょう。貴方が見たいと望むものを見せましょう。貴方の望むことをしましょう。千里、貴方の願いは?
頭の中に響いてくる優しい女の人の声。その声にあらがうことなく、願った。
「清!自分を投げろーー!」
一拍置いたあと、自分の体が空高くに投げられた。ヒュ――、と風を切る音。パタパタと服が靡く。両手両足を広げて下を見た。下界には清と敵の姿。そして、世界と世界を区切る透明な壁。
あの壁を守る、それが自分の願い。
「できるものならやってみろ!」
エイドという女が一体どういうものなのかは分からない。ただ、やると言ったからにはやってもらう!
クリスタルの目が青い光を放つ。その閃光は清も敵も壁もすべてを覆い込んだ。世界が青一色に染まる。まるで時間が止まったように自分の体も清も敵も何もかもが静止していた。落ちていた体は宙に浮いた状態で動きを止め、恐る恐る踏み出した足が空の上に立った。
二本足で宙に立つ。
足を踏み出して、階段を下りるようにして下へ下へ下っていく。空から下を見たとき、青い世界の中に赤いところがいくつか見えた。疎らに散らばったそれらすべては壁についていた。
あれがそうなのか。
その中の一つ。その目の前に立つ。赤い。その赤の中心に手の平を置いてまた願った。赤を青へ。そうすれば手の平を中心にして赤が青に変わっていく。まだある。次の場所へ行こうと体の向きを変えたとき、あの仮面の者がそこにいた。
この青い世界の中では他の者は誰一人動けないものだと思っていた。どうやらそうじゃなかったらしい。仮面のものは普通に歩いていた。
「見つけた」
また、だ。左目が疼く。さっきみたいに酷いかゆみや痛みではなかったけれど、違和感があった。
「お前は誰だ」
「探していた」
「誰を?」
「見つけた」
「答えろ!」
「帰ろう」
「っ、話を……きけ、」
目眩がする。酷い吐き気もした。視界が揺れて体から力が抜けていく。願えば叶えると言ったのに、どうして……。女の声は聞こえなかった。代わりに……、
「千里!」
目の前に立ちはだかった背中。あぁ、この背中には見覚えがある。
「…………アイさん」
来てくれたんだ。朦朧とする意識の中で見た彼に安堵した。
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