第4話 魔術師

「それで、自分はどうすればいいんですか?」


 マキシムという世界の管理人。晴曰く「神様」とやらに出会ってから数日。一通りの話は晴から聞いた。


 この世界には「魔術師」と言われる人達がいるらしい。人には生まれながらにその素質を持っている者と持っていない者がいる。ただし、その素質を持っていても誰もが魔術師に成れるわけではない。魔術師に成るにはまず「体の一部」を無くさなければならない。それが第一条件だった。無くしたものの代わりに手に入れるもの。それが魔術を使う力。


 第二の条件、それは自分にその素質があり、魔術を使う力を手に入れたことに気づくこと。大抵の者は第一条件までそろっていても最後まで気づかない。


 そして、第三の条件。魔術を使う力を手に入れたことに気づき、それを使いこなせるようになること。この三つの条件を達成して初めて魔術師と名乗ることができる。


 自分は第二条件まで達成している。つまり、あとは第三の条件を達成すれば晴れて「魔術師」になることができるというわけだ。


 どこまで理解されていますか? というマキシムの問いにそう答えた。自分の口からつらつらと出た言葉によくもまぁこの短期間で理解したなと自分で自分を褒めたい気分だ。


「はい、そこまで理解されているなら結構です」


 パチパチパチと小さな拍手をするマキシムとは数日ぶりの対面なのだが、この前の出来事が昨日のことのようで、まだ頭が混乱している自分はただただその言葉にため息を吐き出して答えることしかできなかった。


「いやはや、飲み込みが早くて助かります」

「……はぁ」


 正直、まだこの状況を飲み込み切れてはいないのだが。ここは言うとおりに事を進めた方が早く終わるだろうと頷いているだけだ。


「それで今日は第三条件のことで呼ばれたということですね」

「そんなところです」


 えぇ、と返事を返したマキシムがパチンと指を鳴らすと、背後にある扉がギギギ――と音を立てながら独りでに動き出した。振り向き、その様子をぎょっとした目で見た。開ききった扉の向こう。誰か立っている? よく目を凝らして見れば、そこに立っていたのはパートナーの晴だった。こちらに背を向けていた彼女はこちらに振り返ると、遅い! と一声上げた。


「お待たせしました。では千里さん、行きましょうか」


 晴に向かって軽く頭を下げたマキシムが歩き出す。数歩遅れてその後ろについて歩く。扉を越えた向こうにあったのはだだっ広い空間。前を歩いていたマキシムは入ってすぐのところで横に逸れて足を止める。その隣に並んでマキシムを見ると、そのタイミングで彼は晴を見た。それにつられて晴を見ると彼女が口を開く。


「千里はそもそも魔術ってどういうものか知ってる?」

「……怪しいものとだけは文書で」

「ふふふ、そうだね。こういうものが魔術ですって説明するよりはまずは見た方が早いと思うし、まずは見ててね」


 そう言うと、晴は広場の真ん中の方へゆっくりと歩いていった。中心に立ち、その場で目を閉じて唱えるように言う。


「今ここに我の素(エレメント)、形を表し刀と成れ」


 小さな光の粒がポッポッポッと生まれいく。その光の数はあっという間に巨大化し、晴の体を覆った。数秒後、晴の周りには渦巻くように風が立ち、光がその渦に巻き込まれていって、最後には消えた。光が消えたそこには晴が立っていた。先ほどまで何も持っていなかったはずの彼女の手には一本の刀が握られている。


「刀?」

「どう? 分かった?」

「は?」


 こちらに向かって大きく手を振る晴は満足そうに笑っていた。もしかして今のが魔術、というものなのか? いや、いやいやいや。いくら自分の飲み込みが早いからってそれはないだろう。何が起こったのか、まったく分からなかった。


「おやおやおや、やはり彼女には無理でしたか」


 一歩前に出ていた自分の隣にコツン、と音を立てて並んだマキシムが苦笑しながら言った。


「あれは晴さんの素です」

「……素?」

「素とは、」


 素とは無くしたものの代わりに手に入れた力のこと。晴は右目を無くしていた。その右目の代わりに手に入れた力、素を形にしたものがあの刀らしい。素がどんな武器になるかは、形にしてみないと分からない。ただ、形などどうでもよく、それをよく知り使いこなすことが魔術師にはとても大切なことだそうだ。


「その素、が自分にも?」

「えぇ、ありますよ。今日はあなたの素の形を作ろうと思いまして、こちらにお呼びしました」


 あぁ、そうか。ようやくここに連れてこられた理由が分かった、と一人頷く。


「ではさっそく始めましょうか」

「始めるって何を?」

「そりゃあ、力の覚醒って奴でしょう?」

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