第13話何かがほしい。⑦

二年の歳月が流れ、香子も高校三年。


九割の人間は受験受験と呪符の様に繰り返している。


このご時世、高卒での就職は変わり者に部類されるマイノリティーである。

だが一つ言えることは、香子は受験勉強もしていなければ就職活動もしていないのである。


精神病患者との交流に味をしめてかかからこの二年、香子は探して求めていた「何か」を確実にその手中に納めていた。


もう私は何かを追うワナビーではない。

その思いが香子を強くした。マイノリティーは寧ろ褒め言葉であった。

実際、18にもなってビジョンすら掴めず、この後に及んでまだ大学だ留学だとモラトリアムに甘んじようとしている大多数の人間に対しても冷ややかな目で見ていた。


あれから二年香子は実に年間80人を超える人間を「観察」した。

人間は面白い。飽きることはない。


カヲリとの「面接」のあと、すぐにブログを開設した。

タイトルを「傍観記〜無責任なモニタリングブログ〜」

内容は勿論カヲリを始めとする精神病患者との面談を、似非心理学を交え(そこは香子も自分の力量の未熟さを認めている)有りの侭だが表現を駆使し面白おかしく綴った。


当初は反感だらけの焼け野原だった。

しかしそこはネットの面白いところで、ブログの炎上に合わせて閲覧数は飛躍的に伸び多種多様な人間が入り乱れる中、香子の不謹慎なブログに批判コメントを載せていた連中に対し、それを偽善と呼んで攻撃する勢力が出てきたのだ。

まさに焼け太りとはこの事で、火の手が上がればそれを祭りと煽り面白がって群がるのが群衆心理である。


日々のアクセス数は万の桁を割ることはないどころか数十万アクセスに届くことさえ屡々あり、今ではコメント欄の常連になった閲覧者さえいる。


数ヶ月前にアフィリエイトと言う言葉を知った。

要するにブログに広告を貼り、閲覧者が広告をクリックする毎にブログ主に広告収入が入る仕組みだ。


収入と言ってしまうと僅かなものだが実家住まいの香子にとっては実に小遣いと呼べる額以上の収入はあった。


「これではまだ終われない」

香子の中に僅かな欲が生まれた。


ブログは日々安定した閲覧数を確保しているが、有名人のそれには遠く及ばない。

香子の場合ブログ内容が内容だけにメジャーにはなれない。


炎上しすぎてもいずれ飽きられたら終わり、かと言って超人気者になる自信などないしこの路線を変えたくはない。


もっと上に行くにはどうしたら良いのか。


そのクエスチョンを抱えたまま数ヶ月が経った。


そして答えは天から、否、ドブから湧き上がってきた。


活字だけでは弱い。画(え)だ。動画だ。





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