第12話 何かがほしい⑥

これはテストだ。

これまでに身につけた知識を披露し、その知識に齟齬がないかを確認するテスト。


「私、いじめられてたんです、中学一年から卒業まで、、、」

内容はもとより、話し方にも気を遣った。

ハキハキ喋るなんて以ての外、かと言って暗すぎてもリアリティを欠く。

出しにくい言葉を捻り出すような区切り区切りの話し方を意識した。


「最初は、些細なことでした。私がある仲良しの子から借りた漫画を、又貸ししちゃったんです。又貸しした子が、本を、汚しちゃって。そこから、ギクシャクしだしたんです。大勢の集まりにも、呼ばれなくなって。それで、私も、どんどん暗くなっていって。そんな矢先に、男子のイジメが流行り出して。それに触発されたと思うんですけど、女子の中では私がターゲットになって、、、」

この話にリアリティがあるかどうかは香子にとっては案ずるところではない。

何故ならクラスで実際にあった話だからだ。無論香子にとっては対岸の火事で事の始終を傍観していたにすぎないが。


多少の脚色はあるがこれはノンフィクションだ。

「辛かったのね」

カヲリの口から汎用性の高い無難な言葉が出た。

香子はそのリアクションにいちいち反応せず続けた。


鬱病の人は感受性が高いと言う情報があったが、それは病気になる前の事ではないかと香子は思う。


人間誰しも自分が辛い時は自分がこの世で一番の不幸者あり、他人のことなど慮る余裕などないはずだ。


事実、こうして香子が他人から勝手に拝借した体験話(最早創作)を淡々と話している今もカヲリが香子の話を真剣に聞いているのかも怪しい。

話し手の時は前のめりだった姿勢はやや後ろに逸れ、意味のない頷きが「早くこの話終わらないかな」の感情を示している。


ショックは感じない。寧ろ楽しかった。

こうして自分が話してる間も、この女は実に色んな情報を発信してくれる。


香子の作り話が佳境に入るとカヲリの態度は更に露骨になった。

髪を触る。紙ナプキンを弄る。足を何度も組み替えるなど。

恐らくこの女は自分の話だけを聞いてくれる木偶の棒を求めている。


自分が一番可愛いのだ。


ああ、面白すぎる。下手なバラエティ番組よりも人間はバラエティに富んでいる。


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