僕は初めて自分の世界に光がないことに気が付いた



通学路の川沿いの道を北にそれると、すぐに学校が見えてくる。


沢渡中学校。――僕の毎日通う場所。

薄汚れた灰色の壁。乾いた色をした校庭。鮮やかさのかけた校庭の木々。いつもと変わらない学校。そこに向かって僕は足を動かす。



前は、こんなこと考えなかった。


魅力のない学校も、そこに通っていることも別に普通だった。学校が楽しくないことも、普通だった。世界がどうしようもなくつまらないことは、とても自然なことだった。特にどうも思わなかった。ごくごく普通のことだったのだ。




いつからだろう。それがとても残念なことだということを知ったのは。


どうして知ってしまったのだろう。知らなければ、そのまま何も知らずに一人平和に過ごせたのに。こんなに空虚な気分になることはなかったのに。





今、この僕の世界に光がないことを知っているのは、一度、世界が光で満たされたことがあったからなのだと、僕は知っている。



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