The Gifts of Holy Night(後編)第2話
クリスマスパーティの夜、7時半。
予定通り、吉野の部屋に3人は集まっていた。
「ったくお前ってさー、毎度毎度つっくづく強引だよな。しかも言い出しっぺはお前なのに、なんで集合場所は俺の部屋なんだよ!?さっぱり意味わかんねーしっ」
吉野は相変わらず迷惑極まりないという顔でリナに食ってかかる。
そんな吉野に、リナはきゅるんっとわざとらしく小首を傾げた。
「え〜、いいじゃなーい♡順なら何だかんだ言ってOKしてくれるっていう私の信頼の表れよっ♪♪」
「でも確かに、事あるごとに若い女性の部屋に男が複数押しかけるのもどうかと思いますしね……」
リナの切り返しに笑い出しそうになりながら、岡崎も至極真面目に呟く。
「そうよねー岡崎さん♡やっぱり飲んで騒ぐのは順の部屋が一番気遣いなくていいわよねっ♪」
「お前らなあ……」
「とにかく、みんなで集まれてすごく嬉しいっっ!♡♡クリスマスケーキ、美味しいお店のを予約しといたの♪それから100均にミニツリーとかキャンドルとかかわいいものいっぱいあったから、買ってきちゃった〜♪順の部屋、ちょっと飾り付けさせてよね♡」
「女子ってほんと好きなーそういう無駄なことして楽しむのが」
「無駄って何よっ!毎度のことだけどつくづくデリカシーない男よねあなた」
「クリスマスの飾り付けなんて、そう言えば子供の頃以来だな。ちょっと楽しいですね」
わいわいとそんな話で賑わいながら、リナの企画したクリスマスパーティはそれなりに華やいだ空気に包まれ始めた。
ひと通り飾り付けとケーキや料理の準備も整い、グラスにシャンパンを注ぐと、リナが明るく乾杯の音頭を取った。
「今年は、予想外の楽しいことが盛りだくさんすぎて、私的にはもう鼻血が止まらないくらいエキサイティングな一年だったわ〜〜♡♡二人のおかげよっ♪♪
これからも、最高に仲良しな私たちに!メリークリスマス!!」
「ってかどういう挨拶だよ今の?」
「まあまあ、気にしないで。こっちのことよ♡
……あ、そうそう、二人に渡したいものがあるの!」
そう言いながら、リナは二人に可愛らしいラッピングを差し出した。
「じゃーん♪」
「ん、何だ?」
「どうしたんですかこれ?」
「私から二人へのクリスマスプレゼントよっ♡♡開けてみて♪」
リナの言葉に、二人はそれぞれのラッピングを解く。
「ってかこれ……サンタの帽子じゃんか」
「俺のは、トナカイの角のカチューシャ……?」
「ねっ♡いいでしょー!絶対かわいいから、つけてみてほしいなあっ♪♪」
「…………」
せっかくのプレゼントだ。二人とも、とりあえず言われた通りに身につけてみる。
「……岡崎。トナカイの角、異常に似合うな」
「そういうお前も、真っ赤な帽子が全く違和感ないぞ」
顔を見合わせた途端、二人は思わず吹き出すのを必死に嚙み殺した微妙な顔になる。
そんな二人の様子に、リナは心から嬉しそうに微笑んだ。
「うん、やっぱりすごくよく似合うわ〜!
サンタとトナカイは仲良くしなきゃクリスマスは乗り切れないんだからねっ♡今日はずっとそれつけててよね二人とも♪」
リナの明るい言葉に、二人はどこか困ったように微かに微笑み合った。
✳︎
美味なケーキに程よく酒も入り、それなりにクリスマスらしい雰囲気を楽しんだ夜9時。
リナは、まるでタイマーでもかけてあったかのようにすっくと立ち上がった。
「それじゃ、私帰るわねー」
「えっ……リナさん、また帰っちゃうんですか」
突然のリナの申し出に、岡崎は俄かに心細げな顔をする。
「ええ、そうよ。
この後、女友達とクリスマスカウントダウンやる約束なの♪ごめんね〜岡崎さん」
「…………そうですか……」
岡崎の視線に、ざわざわと不安げな色が漂った。
「…………」
……もしかして……
今、無理やり二人きりにするのは、逆効果かしら……?
岡崎のあまりにも心細い様子に、リナは予定変更を考え始める。
そんな二人のやりとりを黙って聞いていた吉野は、手にしていたグラスを置くと、どこか優しくリナに微笑んだ。
「……そういう予定なら、仕方ないよな。
お前がパーティ企画してくれて、何だかんだ言って今日は楽しかった。
あとは俺たちでやるから、気をつけて帰れよ」
岡崎とは対照的に、思いの外あっさりとリナを送り出そうとする吉野の態度に、岡崎とリナは微妙に驚いた顔になる。
その瞬間、リナのキューピッド的なアンテナがぐぐっと反応した。
…………あら?
これは……
順、もしかして……??♡♡
やだ〜♪じゃあこの後のことはもうふたりに任せなきゃっ!!
うふふっ♪さっさと帰りましょっ!♪♪
心の奥に込み上げるそんなニヤつきを表には出さず、リナはさり気なく微笑む。
「うん、ありがと順。
それじゃーね♪まだまだ時間あるから、二人でステキなクリスマスを!♡
あっそうそう、なんかかわいいキャンドルたくさん買っちゃったから、部屋の照明落として火をつけてみてよ。多分すっごく素敵よ〜♪♪」
そんな楽しげな声を残して、リナは上機嫌で玄関を出ていった。
「へえ……ほんとにクリスマスっぽい感じになるんだな。女子の発想力ってマジですげー」
リナの提案を試し、リビングの照明を落としてキャンドルをテーブルにいくつも灯してみると、静かな聖夜の雰囲気が急に訪れた。
「そうだな。……蝋燭の明かりって、なんだか暖かくて、安らぐな」
岡崎も、その柔らかな火の色を見つめ、静かに呟く。
「……ところで……
クリスマスにカウントダウンって……普通やるっけか?」
「まあいいじゃんか。……女子はいろんな理由でパーティやるんだろ」
岡崎の独り言のような問いに、吉野はふっと微笑んで答える。
「…………」
さっきから何となく感じている違和感に、岡崎は吉野をじっと見つめた。
「ん……どうした?」
「いや……
……お前、なんかこれから別の用事でもあるのか?」
「別の用事?」
「だって……
リナさんもさっさと帰そうとするし……さっきから、様子がどこかおかしい気がするんだが……」
「…………」
「……なあ、吉野……
ひと思いに、はっきり言ってくれ。
むしろ、曖昧に引き延ばされるのは俺も苦しいんだし……
——これから誰かと約束してるなら、俺ももう帰るから」
そんなことを呟きつつ俯く岡崎に、吉野はやれやれという顔ではあっと大きなため息をつく。
「お前さあ……なんでそうやって、ひとりで勝手に話進めんだよ?
俺ってそこまで信用されてないのか?
……まあ、今までの俺を見てたら、それも仕方ないけどな。
別の用事なんて、あるわけねーだろ。
というより……
これからお前に、大事な用がある」
「…………は?」
「岡崎。
お前に、ちゃんと伝えておきたいことがあるんだ。
真面目に聞いてくれ。
——あのサボテンを、このままお前に返すわけにはいかないからな」
吉野は、姿勢を改めて岡崎に向き合うと、いつになく表情を引き締めた。
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