A Star-Studded Sky 第2話
10月末の週末。
リナの出した車を交代で運転しつつ、山合いのとあるペンションへ到着した3人である。天気も穏やかに晴れ、星空を眺めるには絶好のコンディションだ。
車を降り、豊かな緑に包まれたその風景を眺めながらリナは深呼吸をする。
「はあ〜〜。やっぱり空気が澄んでるわねー♪ここなら何にも邪魔されずに、星の溢れるような夜空が見られそう。すごく楽しみ〜〜!!」
そう言いつつも、リナの最大の目的は星空ではない。
相変わらずジレジレと一歩も進まない二人の距離を、半ば強引にでも縮める。何があったかはわからないが、とにかく異常にお互いを意識してギクシャク化した彼らが、なんとかもうちょっとスムーズに寄り添えるように……
思えば、なんでこんなに手がかかるのかしらこの子たちは。二人とも、天下無敵のハイスペックなくせに。もうその辺の小学生レベルにじれったい。
……まあ、気持ちはわかるわ。なんせ幼馴染だし……だから面白いんだけどねっっ♡♡
と思いつつ振り返ると、二人は微妙な距離を開けてそっぽを向き合っている。
その様子に、思わずリナは吹き出した。
「ほら〜〜、せっかく来たんだし、ちょっとは楽しそうにしなさいよ〜。普段二人とも忙しくて疲れてるんだから。ねっ♪」
「……だな」
微妙なテンションのイケメン二人を引っ張ってペンションへ向かいながら、ますます楽しげなリナである。
リナの予約した通り、部屋割りはリナがシングル、残り2名はツイン……ではなくダブルである。
「では、ご予約どおり、シングル一室とダブル一室、お部屋はお隣同士でよろしかったですね?」
ペンションのスタッフがにこやかに確認する。
「ええ、間違いないです」
岡崎の固い表情が、リナの言葉で更に固まった。
「……ダブル?
リナさん、今ダブルって言いました?」
「ええ、そうよ」
「…………
ってことは……俺たちの部屋、ダブルベッド一個だけ……ってことですか?」
「おい……リナ。間違ってるぞ。というかとんでもなく重大なミスを犯してるだろお前!!!」
「だあーーって。そこしか部屋空いてなかったんだもん♡それに、幼馴染の親友同士なのに、なんでダブルじゃ困るのよ?」
「———別に困ってないし」
ボソボソと不明瞭な二人の返事がシンクロする。
そこを突っ込まれると、二人とも一切反論ができない。拒否反応を示せば示すほど不自然さが丸出しになるからだ。
「そうよねっ文句ないわよねぇ〜。さあお部屋にGO♡ここは知る人ぞ知る隠れ家的ペンションなんだから、いい雰囲気なこと間違いなしよっ!
……あ、そうそう大事なこと言い忘れたわ。ここは天然温泉も楽しめるの。貸切の露天風呂もあるから、二人でゆっくり……」
「絶っ対それは無理っっっ!!!!」
これ以上揃いようのないハモリっぷりだ。
「——あらそう?なら一人ずつ時間をずらせばいいわね」
流石にそこまで強要してはかわいそうだ。それに、二人別々ならば、どちらかがいない間にどちらかと二人だけで話す時間が作れるし……それぞれの現状を聞き出すいいチャンスだわ。
よしよし、いい感じね♪
「じゃ、暫くそれぞれの部屋で休憩しましょうか。私もちょっと疲れちゃったし。少し休んだらそっちの部屋行くわね〜」
後は、二人きりの時間をしっかり作ってあげましょ♡
そう思いながら眺める窓の外は、少しずつラベンダー色の夕空へと変わり始めていた。
✳︎
「なあ、岡崎」
部屋まで来たはいいが、だからと言って向かい合わせに座る気持ちにはお互いになれない。
ギクシャクとした距離を詰めることができないまま、とりあえずベッドに座った吉野と窓際のソファで落ち着かない岡崎である。
「何?」
「……この間から、ずっと言いたかったんだけどさ。
お前、大事なこと決めるのに、チョコなんかに釣られんなよ」
「——なんだよ急に?」
吉野の投げやりな言葉に、どこかムッとしたように岡崎がこちらを向いた。
「だってさ。
あそこでちゃんとリナに断れば、こんな風にここに来なくてもよかったじゃんか?」
吉野は、素っ気なくそんな言い方をする。
最近、岡崎と会っていなかった。
二人で会う時間を、どう過ごせばいいのか……そう意識する度に、連絡しようとする指がどうしても止まった。
ただの親友だ、という気持ちに戻せば、楽になれるのか……
いや、きっとそうしたとしても、元の屈託のない自分たちに戻るわけにはいかないんだろう。
そんな気がした。
会って、どんな顔をしたらいいのか。何を話せばいいのか。
——純粋に二人でいる時間を楽しむ方法が、なぜか急にわからなくなった。
会わずにいれば、会いたくなる。
それでも……居心地の悪そうにしているこいつの顔を見るのが、辛い。
こいつを笑顔にできない自分が、辛い。
それは——岡崎だって、同じはずだ。
だから、今日のこの計画も——リナの強引な誘いを、なんとか断ってしまったらよかったんだ。
「……お前って、ほんっと鈍いのな」
吉野のそんな言葉に、岡崎は頬杖をついてはあっと盛大なため息をつく。
「は!?なんだよそれ?」
「お前、俺があの時本当にチョコにつられたと思ってんのか?」
「……違うのかよ」
「——こうでもしなければ、お前とちゃんと話せないと思ったんだ」
「…………」
「このまま放っといたら——なんとなく、俺たちもう会わなくなるんじゃないかと思った。
だから、俺は行くって答えたんだ」
そう言うと、岡崎は少し俯いた。
——もう、会わなくなるかもしれない。
そう思ったから——。
そうなのか。
——それぞれに、苦しかったんだな。
俺もお前も。
「会わない間……お前に、寂しい思いをさせたのか?」
「そうじゃない。
このままじゃ、自分の気持ちもどこかへ流れていきそうだった。
だから……そうなってしまう前に。
気まずいとかそんな理由でうやむやにしないで……お前とどうすんのか、ちゃんと向き合わなきゃと思ったんだ。
——せっかく、お互いの気持ちを確認したんだからな」
言いづらいことを一気に吐き出すようにして、岡崎はどこか照れながらもぐっと吉野を見つめる。
ああ……
そんな顔して、そんな台詞言いやがって。
なんだよ——やばいだろ。
うあぁやばいやばい。マジやばい。
すっっっっげえこいつかわいいんだけど…………!!!
今気づいたけど、今日こいつスーツじゃないんだよ。
黒のVネックの薄手のセーターと、ジーンズとか……なんかすっげえしなやかで、柔らかそうで。
あああーーくそおっっ。
今すぐ抱きしめたいに決まってんだろ!!?
これまでいろんな女子と過ごしたけど……こんなにも抑え難いウズウズを感じたことは……っ!!
だ、だが……!
もうちょっと待て俺。
そんな行動に出て、せっかくこうして二人で話す時間をまだ中断なんかできない。
吉野は立ち上がると、窓を開ける。
ひんやりとした夕風が、静かに部屋へ流れ込んだ。
「——煙草、吸ってもいいか?」
「ああ」
「……会いたくなかったわけじゃないんだ。
ただ——どうしたら、お前が安心した顔で笑うんだろう、と……最近ずっと、そればっか考えてた」
「——そうだな。
……確かに、ちゃんと笑えなかった」
そうして……二人はやっと、久しぶりに自然な笑顔で笑い合った。
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