第13話 ポリエスガール
深夜にヨミは辺りを見回して足音を立てずに廊下を歩いた。
そして暗闇の中リビングのドアノブを静かに回し何かを手探りで探した。
「ぐぇっ」
床に落ちてた鋭利な金属を素足で踏んでしまい暫く悶絶した。
「誰だよ、こんなところに鍵を落とした奴はよ。それよりリモコンだ。」
やっとのことでリモコンを手に入れた。
「またルルが爆音のまま消したろうな。」
全力の親指で音量を下げるボタンを押しながら電源ボタンを付けた。
するとみるみるうちに音量が下がり、映像のみ映し出された。
ヨミはテレビの前で静かに興奮していた。
消音になって何を言っているのかわからないが、近未来的な恰好の二十歳くらいの女性が腰をくねらせながらマイクを持って踊っていた。
「ポリエスガールきたぁ…まぢエロいな。」
クラスの男子の間で密やかに流行している深夜番組の美女の子守歌でしか出演しない歌姫のポリエスガールに夢中なようだ。
そして音量1にして微かに聞こえる歌声に耳を澄ませた。
厚化粧のポリエスは熟れたさくらんぼのような真っ赤な唇で観た者を挑発するような淫靡な声で唄っていた。
「やっぱり萌えるぜっ」
思わず大声を出してしまったヨミはすぐに口を塞いだ。
次の日ルルがリビングでテレビをつけた。
「あれ?なんで音が消えてるんだろう。」
めいは昨日リビングに落としていった鍵を拾い首を傾げた。
「ここ最近そうなのよ。どうしたのかしらね。」
その場にたまたまいたヨミは手を震わせながら上擦った声で応えた。
「さぁ…な。故障じゃねぇの。」
さっそくヨミのクラスでは美女の子守歌の話題で持ちきりだった。
「なぁ田代、昨日のチョロコちゃんサイコーだったな。」
「俺はムツミ派だな。おっぱいでかいもん。」
嬉々と語っている男子を見て、いつもの3人は遠くで引いていた。
「やだね、男の子って。あの番組って深夜にやってるエッチな番組でしょ。」
めいは下品な言葉が飛び交う様子に嫌な顔した。
「そういえば三浦も観てるみたいで真夜中に隣の部屋から奇声が聴こえるわ。バカなんだから。」
万智は呆れ顔で遠くで話に参加してる三浦の方に目を遣った。
「まぁ、これが中学男子のガキンチョでしょ。」
エリカはきっぱりと言った。
その隣でヨミは震えていた。
(口が裂けても毎週見てるって言えない。)
また美女の子守歌を観にリビングに向かった。
ヨミは慣れた手つきでテレビをつけ、ポリエスガールの出番を待った。
「早く出てくれないかな…」
彼女の背後から大きな影がふと現れた。
「ヨミ…」
「うっ…ひゃああああああっ」
ヨミは髪を逆撫でるくらい驚き腰を抜かした。
「めいっ…起きてたのか。」
「トイレに行った帰りよ。やけにリビングが明るいと思ったら。」
仁王立ちして引きつった顔のめいにジャンピング土下座した。
「お願いだ、みんなには内緒にしてくれっ」
めいは予想以上に必死になるヨミがおかしくて失笑した。
「もうおかしいわ…ヨミも心は男の子だし、薄々気づいてたわよ。」
「マジ?ありがとなっ」
ヨミは目を輝かせ、嬉しさのあまりガッツポーズした。
(ヨミってこんな子がタイプなんだ。)
二人は暗い中、静かにテレビを見た。
こんなやり取りは露知らずポリエスガールは躍っていた。
涼平、結婚おめでとう。
平成29年10月2日書く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます