「トキ」は神の子。母がいなければ、父もいない。山の女神が育んでくれていたけれど、ある日山の女神に「終わりの時」が来る――。
他の作品とは少し毛色が違うものの、鳴神さんの根本である表現力の高さや情景描写力の高さを感じさせる作品です。ただ、やはり書かれた年代が少々以前のものなので、粗削りな感覚を覚えるところもあります。小説の表現のひとつに、「漢字で書くところ、書かないところ」というのがあると思うのですが、このお話ではあえて漢字で表現することで、時代表現をあいまいにさせ、これが遠い昔のことであったのか、それとも思っているよりも近い昔のことなのか、判断を迷わせるようにしかけられています。
ファンタジーですが、胸を鷲掴みにされるような切なさを残す、存在感のある作品です。