怒る北嶋
めっさ大量の敵が俺に向かって襲い掛かって来る。
めっさ大量!そりゃ七万は大量だな。
楽勝だが、全部ぶっ飛ばすのは流石に疲れる。
そこで俺は威嚇した。
「死にたいのかゴラアアアアアアアアアアアアア!!!」
バン!と地を踏み、めっさデカい声を敵に向かって放ったのだ。
ビタァァァッッッ!と侵攻が止まる。
山羊やらフクロウやら羊やらの顔の悪魔達が、震えながら腰を引かした。
そんで俺はギロリンと睨み付け、再び吼えた。
「死にたくないなら消えろコラァ!!」
草薙を10cmばかり抜き、パキィンと鞘に納めた。
ビビって止まった悪魔達は、そのまま姿を消す。
「な、何だと!?お嬢様と契約した悪魔が、自ら還ったとは!!契約破棄のペナルティは最悪命を奪う事だと言うのに!!」
ジジィは目ん玉が零れ落ちそうになるほど見開き、顔面蒼白になって微かに震えた。
「そりゃ怖いなら逃げるのは当たり前だろジジィ。悪魔と言っても、生き物だしな」
果たして生きているのかは解らんが。まあ兎も角、そして俺は一歩ジジィに向かって踏み出した。
「大体ジジィコラ。七万は多過ぎだろジジィ。せめて十人くらいにしとけよ。いくら何でも卑怯じゃねーかジジィコラァ!!」
ジジィに向かって歩く俺。
残った悪魔も俺の前から避けて、道を開ける。
おかげで歩きやすい。
「ふ、ふははは!!これは戦争だぞ勝てばいいんだ!!勝った方が正義だ!!下級悪魔が恐れ、怯むと言うのなら、中級、上級悪魔を差し向けるまでだ!!」
ジジィがスッと手を上げると、蜥蜴みたいな悪魔達が一斉に動き出す。
「さっきの連中よりは強いって事か。して、何をやろうが勝てばいいか。俺もそれに乗っかるぜジジィ」
あっという間に俺の眼前に飛び出して来るトカゲみたいな奴等。
俺は鏡に手をかける。
「万界の鏡で奴等の弱点を探すつもりか!?ふははは!!間に合うものかよ!!」
ジジィが何か勘違いして高笑いを始める。
「弱点なんか知る必要あるかジジィ。本当なら瞬殺できるが、面倒だから相手にしないんだよ」
そう言って鏡を外す俺。
視界から蜥蜴が消え、ジジィの姿のみが 目に入る。
「はあああああああ???な、何故だ!?何故悪魔の攻撃が通じない!?槍も剣も炎も氷も、何故貴様の身体をすり抜ける!?」
ジジィが先程よりも目ん玉を西川きよし的に見開き、ムンクの叫びに似た顔に変わった。
ジジィがご丁寧に説明してくれたおかげで、俺にはトカゲが色々な攻撃を繰り出しているのが解った。
解ったが、別に知った事では無い。
ズンズンズンズンジジイに向かって歩く。
「鏡を外したから奴等の姿が見えなくなったんだよジジィ。見えない、聞こえない、感じない。故に知らない!!」
俺は遂にジジィの前に立った。
「ひいいやああああ!!!」
まだ何もしていないのに、この脅えよう。雑魚過ぎだぞジジィ。
「ジジィ、さっき言ったよな?戦争は勝った方が正義だと。じゃ、俺が正義だ」
ニカッと笑いながら手を振り上げた。
「なぁ、ななななな!!何をするつもりだ!?」
ジジィは固まりながらも、俺の手を目で追っていた。
その手をジジィの頬に振り下ろす。
ビタァァァァァァァンンン!!!
「ぶへ――――――――っっっ!!!」
ジジィは俺のビンタによって身体を三回転半ほど回転させ、滅茶苦茶吹っ飛んだ。
「見事なトリプルアクセルだなジジィ!だけど着地はド失敗だな!!」
惜しいとパチンと指を鳴らす。
とは言え、ジジィの回転は美しく無いから、フィギュア向きでは無いが、トリプルアクセルなのは紛れもない事実だ。
俺のビンタと言う反則的な回転だが、それは言いっこ無しにして貰いたい。
暫く地面をゴロゴロ転がり、パタンと止まるジジィ。
そんなジジィにダッシュで近付き、襟首を掴み、グインと持ち上げる。
「今度は四回転にチャレンジすっか?」
満面な笑みをジジィに向かって放った。
「き、貴様…鏡を外すと悪魔が見えなくなるのか!汚いぞ!卑怯者が!」
目を充血させながら睨むジジィ。
「俺一人に七万をぶつける事は卑怯じゃねーってのかジジィ。俺はな、自分は良くて他人はダメっつー奴が世界一嫌いなんだよ」
めっさカチンと来たので、そのままジジィを持ち上げ、思い切り地面に叩き付けた。
「ぎゃわあああああああああああああああ!!!」
ゴインと鈍い音がし、同時にゴロゴロと転がる。
その転がり様にイラッとした俺は、ジジィの頭を踏みつけ、止めた。
「おいジジイィ、お前昔は何かで有名人だったんだろ?遠慮しないで、お前の技を出してもいいんだよジジィ」
「き…貴様……絶対に許さん!!許さんからなあ!!」
ジジィは俺を払い退けて涙目になりながら立ち上がった。
「私は魔導師、ヨハン・ファウスト!!我が名において、地獄の縁から這い出て敵を喰らえ悪魔達!!」
ジジィが格好付けて、両手を広げて天を仰いで何か叫んだ。
「ふははは!我が忠実な下僕たる悪魔達に腸を引き摺り出されてくたばるがいい!」
ジジィが笑いながら自信満々に俺に叫ぶ。
「んで、お前の下僕ってのは、どこにいるんだ?」
キョロキョロと辺りを見回すも、この場に居るのは俺とジジィのみ。
つっても、俺に見えないだけで、悪魔はウジャウジャ居るんだが。
「あ!そ、そうか!貴様は視えないんだった!」
今度は頭を抱えて蹲った。
「なんか色々忙しいなジジィ。まぁいいや。そろそろくたばるか?」
俺を殺しにやってきた敵を生かす必要は無い。
殺すつもりならば、自分も殺されても仕方ないと思わなければならない。
その覚悟が無い奴、もしくは覚悟が薄い奴に、万が一にでも追い込まれる事は無い。
「ひいいいいいいいいいいいいい!!」
ゆっくり伸ばす腕を凝視するジジィ。だが、誰かに呼ばれたように振り返った。
振り返ったジジィに釣られて俺も其方を見る。
「あれ?お前何でここに?ああ、お前も俺の関係者だったな。失念していたぜ」
そこには裏山に住み着いている蛇、キングコブラが身をクネらせて地面を這っている姿があった。
俺は弱過ぎてお話にならないジジィを放って、キングコブラに向かって歩く。
「お前、ここは危ないぞ。取り敢えず俺の首にでも巻きついていろ」
キングコブラも俺に向かって這って来る。
いや、何かから逃げているような?
何か嫌な予感がして、走って駆け付けようとしたその時。
ブチュッ
俺の目の前、約5メートルの所で、蛇の身体が何かに潰されたように、内臓をぶちまけて、ペシャンコになった。
「え?」
突然の出来事に呆然とする。
「な、成程…鏡を掛けなければ視る事が出来ないのならば…鏡を掛けさせる状況を作ればいい、と言う訳ですか…」
ジジィに振り向く。
「……どういう事だ?」
「そ、その潰れて死んだ蛇を、誰がどう殺したのか、貴様自ら鏡を使って確認すればいい…も、尤も、殺したのは七王の一席…わ、私なら、わざわざ視て殺されるような事はしないし、お薦めはしないがね…」
本気でビビっているジジィ。
蛇を殺したのは挑発で、俺に姿を見せる為。
目的は俺を殺す事。
挑発にわざわざ乗る程お人好しじゃない。
無いが、『家族』をぶっ殺されて、黙っている程落ちぶれてもいない!!
俺は鏡を掛ける。
さっきまでは適当にやり過ごそうと思っていたが、今から敵は皆殺しにする方向にチェンジしたのだ。
潰されたキングコブラは、踏み潰されて死んだ。
そいつはキングコブラを踏んだ儘、俺を見てケラケラ笑っている。
――オメェ馬鹿だろ?たかが蛇を殺された程度で、死ぬ事になるんだぜぇぇぇ……
そいつは巨大な針鼠。見た事がある顔だ。
「確か強欲のマモンって奴だったな。お前、それ食うのか?」
――はあ?食う訳無ぇだろこんな蛇をよお!!
潰した脚を更にグリグリと捻り捲る針鼠。
「おい、そのチンケな脚を退けろ」
――お?怒ったか?ゲラゲラゲラゲラ!!こりゃ面白れぇ!!おっ?
カクンと前につんのめる針鼠。そのまま顔を地面に激突させる。
――な、何だ?いきなりバランスが…
針鼠は踏んでいた蛇の方向に目を向けて、そして思い切り叫んだ。
――なあああああ!?お、俺の脚が?前脚があああああ!?
キングコブラの亡骸の近くに、二つの脚が転がっていた。
その脚は黒い霧を発生させながら、徐々に消え失せている。
「斬られた事すら解らなかったか糞ネズミが。お前のせいで、この場に居る悪魔連中は全滅決定だ。だが安心しろよ。お前は今殺さない。仲間が殺されて行く中、次は自分の番だと、恐怖と絶望と後悔の中で死んでいけ……」
俺は草薙で針鼠の前脚をぶった斬ったのだ。
退けろと言ったにも関わらず、更に踏み付けたムカつく前脚を。
食う為の狩りで殺されたのなら文句は言わない。
家族でも。
だが、ただの殺しならば対価は支払って貰う。
その対価が、恐怖、絶望、後悔、そして命。ただそれだけだ。
――なあああああ!!オメェ、俺の脚を!!あああああああああ!!オメェはぶっ殺ぶっっっ!?
負け犬がガタガタうるせぇ。だから俺は尖っている口を斬った。
「お前少し黙れよ。うるせぇからさぁ…」
斬られた口は、黒い霧を発して、脚同様消え失せる。
――ぼほっ!!がほっ!!がほっ!!がはああああああああああああ!!!
痛みで転がる針鼠がウザイので、首から背中に掛けて斬った。
「誰が動いていいって言ったよ?お前は何も出来ずに、徐々に消え失せる自分に、次々に殺されていく仲間に恐れて死んで行けばいいんだよネズミ」
針鼠の喉に爪先で蹴りをぶち込む。
――ごっは!!
巨大な身体が宙に舞う。地面に落下する時に、その針で仲間の悪魔を巻き添えにした。
「今度は仲間殺しか?なんて酷い奴なんだお前はよ~?ハァッハッハッ!!」
目に映る悪魔を斬り捨てて、針鼠に接近する俺。
――ふーっ!!ふーっ!!
針鼠は怯えた顔をしながら涙目を俺に向ける。
「確かこうか!!」
ドカッと針鼠の腹を踏みつける。蛇を踏み殺した時と同じ模様を再現させてやったのだ。
――ぶへらあ!!
針鼠は徐々に消えて行く口から面白い悲鳴を挙げて、俺を楽しませた。
悪魔連中はそんな針鼠を助けようとしてか、俺に向かって飛び掛かも、草薙を一閃しただけで、バタバタと倒れて面白く無い。
「雑魚ばっかだな?まあ、魔王たるお前がその程度だからなあ。仕方無いか!!」
腹に草薙を突き刺す。
ブチュッと血が吹き上がり、悲鳴を上げる針鼠。
「あんまりやり過ぎると、仲間が死ぬ前にくたばっちまうからな。この辺で我慢しとくか」
些か不本意だが、仕方無い。
「さあて!!先ずはお前だジジィ!!」
草薙を振り回しながらジジィに接近して行く。面白いように倒れて行く悪魔達を尻目に、ジジィ目指して一直線に進んだ。
「ご、強欲を司る魔王を瞬殺する化け物に、どう立ち向かえばいいと言うのだ!!」
ジジィは後退りしながら悪魔を俺に向けた。最早戦おうと言う意志じゃない。取り敢えず、何が何だか、ただ暴れた。そんな感じだ。
「だから皆殺しだって言ったろうが?お前が差し向けなくても、斬り殺すから同じだ」
当然と言わんばかりに首を刎ね、胴を二つにし、縦に斬り裂く俺。
悪魔達は可哀想に、次々と霧を発生して消え去って行く。
「うわ!!ひっ!!ひっ!!!」
超へっぴり腰になりながら後退るジジィ。そんなジジィの胸座を掴む。
「俺ん家で生き物ぶっ殺しやがって!!」
そのまま投げると、ジジィの服が破れながらも、豪快に飛んだ。
悪魔に激突し、悪魔もろとも吹っ飛ぶジジィ。
そんなジジィに草薙で悪魔を斬りながら、ゆっくり近付いて行く。
「わ、私じゃない!!蛇を殺したのは強欲の魔王ではないか!!」
激突した悪魔の後ろに隠れながら弁解する。
一応悪魔はジジィを庇うように前に壁を作る。
そんな悪魔に草薙を薙く。
悪魔は首を飛ばして血飛沫を俺に浴びせた。
返り血で真っ赤に染まった儘、ジジィに蹴りを浴びせる。
「ぶはああああああああ!!」
ジジイは更に吹っ飛び、別の悪魔に激突する。
「お前が親玉なら責任取りやがれ」
部下(?)に責任を負わせて、逃れようなど、超ムカつくジジィだ。
周りの悪魔を斬り捨てて、ジジィを拳でバッキバキにぶん殴る。
「ぎゃあ!!やめ!ぐあ!!ひぎゃ!!待てがはっ!!」
いちいち弁解をしようとするジジィになどに耳を貸さず、俺は死なない程度に拳を振るった。
逃げようとする度に服を引っ張り、破き、口を開こうとする度にビンタをくれる事数分、ジジィはボロ雑巾のようになってしまった。
「見る影も無いなジジィ。そろそろ死ぬか?」
草薙の切っ先を徐々にジジィに近付ける。
「あ………ああ………悪魔………」
悪魔?俺の事か?成程、敵の返り血で真っ赤に染まり、情けの欠片も見せない俺は、ジジィにとって悪魔に見えるのか。
「悪魔使いに悪魔と呼ばれるとは光栄だな」
皮肉たっぷりに言い放つ。因みに全く光栄とは思っていない。
プルルルル…プルルルル…
ジジィのズボンから携帯の着信音が聞こえてくる。
「なんだお前、携帯で連絡取り合ってんのか?やはり文明の力が一番便利かジジィ」
ジジィのポケットから携帯を奪う。
「出ろよ。そんで、今の状況の説明をしな。七万の兵隊も七王も、北嶋 勇には全く通用しませんでした。てな」
投げ付けるように携帯を返す。ジジィは震えながら電話に出た。
「あ…アダム様…」
様ねぇ…そんな大層な奴じゃないだろうに。そう考えていると、ジジィはボロボロ泣き出した。全く心が痛まないが。寧ろ汚いと思ってしまう。
『やぁ、どうだいファウスト。そろそろ間男は死んだかな?』
「き、北嶋 勇は化け物です…私では手も足も出ません……」
『ふん?間男にやられて泣いているのか?やれやれ…ならば妻と交代したまえ。全く、とんだ見込み違いだよ』
幻滅しているような口調の敵の親玉。
俺はジジィから携帯をひったくった。
「おい、お前が親玉か?」
『!!間男?電話に出られるとは、余程余裕があるのかい!?』
間男?誰それ?
俺はこいつなんか知らんし、当然こいつの女を寝取った事も無い。
訳の解らん言い掛かりまで付けられて、ただでさえ頭にきているのに、更にプチプチと血管が切れそうになる。
「お前よ!!安全な所で威張り散らして無いで、此処に来いよ!!俺がぶっ潰してやるからよ!!」
『ふん?ああ、流石に電話越しじゃあ僕の威光は届かないか…良いだろう。君には勿体無いが、僕の姿を崇めさせてあげよう。それまで悪魔に殺されてはいけないよ?僕のお楽しみが減ってしまうからね』
「俺は弱い者虐めする事になるから心が痛むけどなあ!!ぶっ殺してやるから速攻で来いハゲ!!」
もう、超頭に来た俺は、携帯を地面に投げつけて破壊した。
「やいジジィ!!聞いての通りだ!!親玉が来るまでお前を虐めてやるから覚悟しとけって、あれ?」
ジジィの姿が無い?
辺りを見渡すも、悪魔の後ろに隠れている訳でも無い。
「逃げやがったなジジィぃいいい!!!」
怒り狂って地団駄を踏む。
そんな俺にビビってか、悪魔は遠巻きになり、俺を見ていた。
ムカついてムカついて仕方ない俺は、黒い霧をバンバン発生して消え失せるのを待つのみの針鼠に向かって歩き出す。
――ふーっ!!ふーっ!!
めっさ俺にガンくれる針鼠。いや、涙を流して懇願の表情だコレ。もうやめてってヤツだ。知ったこっちゃないけど。
「おいネズミ。お前の親玉すんげぇムカつくから、憂さ晴らしさせろ」
草薙の切っ先を針鼠に向ける。
途端にリーダーを守ろうとして俺に飛び掛かってくる悪魔達。
「別にお前等でもいいや。どうせ全滅させるんだし」
賢者の石に、俺の周りの空気を超振動させるように願う。
大気がめっさ震えたと同時に、向かって来た悪魔達はボボンと身体を破裂させた。空震ってヤツだ。
賢者の石は防御にも使えるが、転じて攻撃にも使える。
俺に近付く度に悪魔の死体が増える。それもみんなネズミの責任だ。
悪戯で蛇を殺さなければ、仲間が死ぬ事も無かったのに。
震える針鼠。恐怖と痛みで震えているのだ。
「だがさっきも言った通りに、お前は最後まで殺さない。簡単に楽にはしてやらないからな。ザマァ見ろ、だネズミ」
ゲラゲラ笑う俺。
と、その時、地中がグラグラ揺れて地響きが鳴り、地が裂けた。
「お?何だ何だ?」
地震?俺が創った亜空間で?
意味が解らずに考えているその時、地割れからバカデカい手がにゅーんと現れ、針鼠を捕らえて地中に引っ張って行った。
「はぁ?助けやがったのか?つまりお前、俺とやり合う事にしたのか!?」
屈んで地割れに向かってめっさ叫ぶ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
更に地響きが増す。
バカアアアアアン!!
今度は地割れから全身を現す黒い奴。めっさ遠い空にある赤い瞳で俺を見下ろしやがった。
「おい、黒いの。俺の仇を助けるとは、俺とやり合う事を選んだんだろ?いいぜ。来いよ。お前も仲間の仇を取らなきゃならないんだろうからな。悪魔王、サタン!!」
そいつは地獄の支配者、悪魔王サタン。
やり合う事は無いと思っていたが、奴にも立場ってものがある。それが望まない事であろうとも、だ。
――強欲もまだまだ必要だ。故に助けた。お前が家族の仇を取ろうとするように、俺には俺の立場がある…
赤い瞳を閉じたり開いたりしながら困ったように口を開く悪魔王。
だが、俺の知った事では無い。
俺の家族を殺した馬鹿野郎を、苦しませて後悔させて、じわじわとなぶり殺す。
その敵を助けやがった奴も、やはり敵になるのだ。
例えそいつの立場が何であれ。
「お前の立場は承知だ。だから汲んでやるって言ってんだ黒いの。おら、来いよ。真っ二つにしてやるからよ!!!」
草薙の切っ先を黒いのに向けて叫ぶ。
――本気で戦う事を選ぶのか?たかが蛇を殺されただけで、この悪魔王と戦うと言うのか!!
威嚇にも似た怒号。
大半の悪魔はビビって跪いた。
だが、俺は逆に怒りが増した。
草薙を赤い瞳に向かって薙る。
草薙の斬撃は、サタンの右頬を掠め、その頬から血が流れた。
――貴様…本気で……!!
ワナワナと震える悪魔王。
「馬鹿かお前!!今のは威嚇返しだよ!!証拠に黒い霧を発生させてねーだろ!!」
本気で殺すつもりなら、肉体はおろか、魂まで殺す。
黒い霧を発生させていないのは、俺が抑えただけに過ぎないのだ。
――成程…威嚇か…さっきの仕返し、と言う所だな。だが、如何に貴様が俺と戦いたくとも、俺は断じて応じる事は無い。故に早々に引っ込む事にしよう…
言葉通り薄くなり、消えて行くサタン。それを留めようと口を開いた。
「ほんっっっっとに馬鹿だなお前!!斬った先を見ろ!!威嚇は頬に斬り込んだ事じゃない!!」
ピクリと反応し、暫く押し黙った。
やがて草薙の痕跡を、とある場所で発見したようで、再び姿を戻した。
――貴様!!威嚇を通り越して脅しか!!
焦る悪魔王。対して俺は満面の笑みを浮かべた。
「ネズミを助けて逃げ回っても構わないさ。だが、俺はお前が何処に逃げようと、何処に隠れようと見つけ出す事が出来る。忘れた訳じゃないだろう?」
大抵は面倒だからスルーする。
だが、追い込む時は容赦しない。
――強欲はまだまだ人の世に必要だ!!それは知っている筈!!
「蛇は俺の家族だ。それを知らん訳じゃないだろう」
何もネズミを助けるな、と言っている訳では無い。
しゃしゃり出るなら、自分も俺に殺される覚悟で来い、と言っているだけだ。
対して俺も悪魔王に殺される覚悟を持っている。
互いの主張、立場が違ったら、勝った方が自分の主張を貫く事ができるだけだ。
「これ以上問答は無用だな。お前を斬って、ネズミも殺す。俺の主張だ」
草薙を一度振り、刀身に付いた血を払う。
――待て!!ならば見逃して貰う代わりに対価をやろう!!それならばどうだ!?
本気で斬り付けようとした俺に交渉を持ちかける悪魔王。
「対価とは?金も要らないし宝も要らん。欲しいのはネズミの命。釣り合う対価を用意できるのか?」
草薙を構えながら取り敢えず話を聞く。もしもつまらん対価なら、迷いなく草薙を振る。
――対価は貴様の伴侶に、俺の力を持つ者、言わば俺の分身を仕わせる。これにより、貴様の伴侶は聖書上での伝承の悪魔には殺される事は無くなる。どうだ?破格の対価では無いか!?
神崎に悪魔王の加護だ?そんなもんいらんと思うが。
「それは神崎が了承したら、だな。蛇の命と加護と釣り合うか、神崎に聞け。もしも無理やり納得させたら、もしも神崎が断ったら、お前だけじゃない、お前の大事な場所も破壊する事になるぞ」
先程放った『脅し』が効いてか、即答を避ける。下手な約束は身を滅ぼしかねない事を承知のようだ。
――…解った。必ずや納得させよう。それで文句はあるまい
そう言うしかない悪魔王。赤い瞳が決意を宿して更に赤く燃え上がる。
「約束…いや、『契約』したぜ悪魔王。せいぜい下手打つなよ。解ったら消えろ。不愉快だ」
手でシッシッと追い払う仕草をする。
――チッ、どっちが悪魔か解らんな…!
舌打ちと捨て台詞を残して、ゆっくり姿を消す。
消えた姿を確認し、呟く。
「ま、約束したのはネズミの命と奴の大事な場所の破壊を止める事だし。残りは殲滅決定だな」
グルンと悪魔の群れに顔を向けて笑う俺。
跪いていた悪魔達は、今度は俺にめっさ引いていた。
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