【1日目】優しくていじわる。

僕くんが倒れた。私を助けるために能力を使用して、気絶してしまった。









あ…





あああああああああああああああああああ




身体を締め付ける悲しさが私を襲う、嘆く暇も無く次の巨人の『影』が私達に向かってくる。

私は日陰にいる…が僕くんは太陽が照る土の上に倒れている。



私はすぐさま目の前にある彼の体を背負い。全速力で走り出す。

日陰に戻れば良かったと考えたが、そんな余裕は無かった。敵の影が迫っている。





『奴』も速い。でも、負けない。






もっと    速く






限界まで体を強化し、私は走る。

僕くんを背負っているので建物の上に跳んで逃げる事は出来ない。影もスピードを落とさず距離を詰めてくる。

もうすぐで校門だ

でも……このままじゃ追いつかれる。私はどうなってもいいけれど彼だけは助けなきゃいけない。





『———————だけは絶対に』




風が私の声をかき消す。じんわりと汗が毛穴から出てくるのを感じていた。

何の為に私は現代に来たんだ、やってやる。

覚悟を決めた私は『能力』を使用する。




『自身を操作する』





私の奥の手だ。『精神』で体を操り、身体の限界を越える。

震えが止まらない。体の限界に必死で歯を食いしばる。


校門まで残り5mの所で、私は僕君を背負ったまま"跳んだ"。



そのまま校門を飛び越えるが、着地出来ずに傾斜を転げ落ちた、でも彼だけは絶対に離さない。

身体が悲鳴を上げている、折れたのか腕が動かないけどそれは別に良い…影は来ていないの?


後ろを振り返るが『奴』は来ていなかった。安堵の音を口から漏らす。

彼は未だに目を覚まさない。どこか安全な場所に避難したいが体が動かない…万事休すってやつね。



---

はぁ…お腹空いた。

時計はないけどもう3時を過ぎた頃かな。


転げ落ちてから30分は立ったが体は動く気配はない。でもマナは少しづつ回復しているみたい。


「のど乾いた…何か食べる物が欲しいなぁ」

空腹の言葉を投げるが、反応する相手は居ない。

飲まず食わずだ。影に掴まれなくても、本当に死んじゃうわよ。




結局あいつは何だったのだろう。私たちを掴むだけの能力?いやそんなはずはない。

攻撃能力はなかったけど、殺しに来てる動きだった……

僕くんは「そいつは偽物だ。本物が居る」と言ってた…どういうこと?何でそんなのがわかったの?

私は、いつも下を見ながら考える彼の癖を真似しながら思考を巡らせた。

しばらくして…




「ん……最悪の目覚めだ。あれ?ここ何処?……ああ上手く行ったのか、よかった。」


起きた。やっと起きた。無理するなって言ったのに、無理しちゃってさ

ばか。あんたは"まだ"弱いんだから。私は目頭が熱くなるのを他所に、彼を見つめる。



「上手く行ったのか、よかった。…何で泣いてるの?ていうかその怪我どうしたの!?」


「全部あんたのせいよ…。でも良かった、生きてた。」

私は安心と同時にため息を漏らした。

嫌味も込めながら私は彼に事情を説明する。



「ごめん…」


「いいのよ、所で何であいつが偽物って分かったの?」


「街に大きな巨人が1体居ただろ?あの時、建物をすり抜けてた気がした。

それと、街に1体しかいないのに、グラウンドに3体いるのはおかしい。」


「なるほどね、でもだからと言って『本物が居る』って答えには辿り着かなくない?どういう事なの?」



彼は驚愕の言葉を発した。

「…勘」


「はぁ!?なんて根拠のない…」

なによそれ、必死に考えた私が馬鹿だった。

私は僕くんの頭を軽く叩く。



「…勘だけど、何故かわからないけど確信してる。何でだろう、確実に本体が居るって思えるんだ。」

ああ、そう言う事。簡単な答えに私は辿り着いた。

それはシンプルかつ、とてもわかりやすく、そして信じられない答えだった。



「あなたのマナの効果よ。赤でも青でもない『透明』の効果。『第六感』の強化でしょうね。」

…ちょっとムカつく。《魔法使い》でもない彼が特殊マナ持ちだなんて。

嫉妬の火を燃やす私に、彼は油を注いできた。


「うわぁ…赤が良かったなぁ。」


「しね」

間髪入れずに私は暴言を吐いた。当然だ。あったりまえ。







---

もう日が暮れそうだ。何時間学校に居たんだろう、空はほんのり秋色に染まってきている。

薄暗くなる前に家に帰りたいな。私の家じゃないんだけど。お腹空いた。


二人とも体が動くようになり、そろそろ帰ろうか。と言う話をした所で、私の右足首が折れている事に気づいた。骨折くらい1日休めば治る。赤マナの持ち主の特権ね。だけど帰るには歩かなきゃいけない。

仕方ない、もっかい自分を操作するか。


そう考えた所で、彼が私に提案して来た。



「おぶるよ、背中に乗…。」


無理やり話を切って私は言った。

「嫌よ。絶対。」



それだけは嫌だ。何としてでも阻止しなければならない。

命が掛かってるかの様に私は全力で拒否をした。

だけど…彼の性格は

"優しくて、いじわる"だ。




「『模倣』を発動する。『操作』を使用。」

身体の自由が利かなくなる。こいつ…


彼は、まるで天使のように微笑むと、私を背中に乗せた。

人肌の"温かさ"が胸と心に伝わる。良い顔しやがって、あくまみたいなやつ。



「やっぱり、使うと疲れるな、でも慣れてきた。明日から真剣に練習するよ。これからは、仲良くしよう

フィリア。」



心臓が焼ける音がした。鼓動が速くなって行くのを感じる。

どうしようもなく熱い。

―――私は何も言わず顔を背中にうずめる。

(この笑顔は卑怯よ…でも、ありがとう。)



私は心の中で礼を言い、明日からスパルタ指導をすることを誓った。

背中に宿る懐かしい香りを感じながら私は眠りに落ちる。

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