【1日目】黒い巨人

…戦闘すると意気込んだが良いけれど、どうしよう。

迷っているとフィリアが声を掛けてきた


「いいわ。やってやろうじゃない、特別授業よ。

まず黒い巨人3体の動きを観察しましょう、大きいからにはどこかに弱点があるはずよ」


未だに先生のつもりでいるフィリアだが僕は彼女の生徒であるつもりはない。第一、年齢が同じだと思う。

僕は、こんな事を考えている暇ではないとハッとし、思考を巡らせる。




観察、見る。




巨人は3体いる。最初に現れた1体の方が、残りの2体より先頭を歩いている。

三角形の軍列で、迷わずこちらに向かっている。

黒い巨人は一歩ずつこちら側に進んでは来ているが、攻撃してこようとする動きはない。

ただ、あと3分もすれば僕たちの前に到達して、踏みつぶされるだろう。

弱点は見当たらないが、巨人であるが故にあまり速くないのかもしれない。頭も悪そうだ。




自分達の状況を整理する。


フィリアの実力は未知数だ。だが必ず1体は止められる。


『操作』の力で触れた対象を完全に操る事が出来る



けど…


どうやって触るんだ?近づかなければならないし、黒の煙で出来ているから触れられない可能性もある。

もし毒性がある煙だと一発でおしまいだ。


でも、逆を返せば『触りさえすれば』1体は操れる。

1体操れば、もう1体と戦わせることが出来るし、上手くいけば2体とも倒せるかもしれない。




僕はフィリアの顔を見た。彼女も僕と同じことを考えてたみたいで、互いに頷き返す。



「巨人に石か何かを投げて、当たれば触れるはずよ。」

なるほど。そういう方法もあるのか。




考えれば考えるほど、時間は過ぎていく。もうすぐ巨人がこちら側に到着しそうだ。

グラウンドは広いが、逃げ回り続けてもいつかは体力が切れて負ける。早期決着で倒すしかない!



僕が切り出した。

「じゃあ、始めよう。」



「無理、しないでね」


フィリアは今にも泣きそうな顔で僕の目を見た。

…そういえばこのままじゃ僕は死ぬから彼女が来たんだっけ。



そう思いながら僕はグラウンドの隅にあった石を手に持つ。




マナを使え、感じろ。



全身を奮い立たせろ。体中にまとわりつくようにマナを巡らせろ。

自己暗示のように自身に問いかけ、マナを感じ取る。




難しい、身体強化が上手くできない。



はやく、はやくしないと。



焦る僕に対し、フィリアが言った。

「私が投げる!」

そう言った彼女は、石を持ちすぐさま巨人に向かって投げる。






速い。140kmは出ている。これなら敵まで届く。

僕は、何もできない自分に悔しくなったが、諦めずにマナを感じ取る練習をする。




40m以上あった距離だが、石のスピードは衰えず、一心に巨人に向かう。




当たった。それにきいてる。

当たった石はかなりの速さだったのか、敵の足に当たり、そのままめり込んだ。

巨人の表情も少し苦しそうだ。




これならいける。




と思ったその時、巨人から黒い影のようなものが伸びてきた。かなりの速さで、僕たちに向かって来ている。巨人は遥か向う側にいるのに、影はもう目の前まで来ている…やばいぞ。




嫌な予感しかいない。これに掴まれたら、おしまいだ。

「フィオラ!それはお前を狙っている!逃げろ!」


「言われなくても!」



彼女は全力で後ろへ飛んだ。跳んだんじゃない。まるで空を飛んでいるように跳ねた。

2mは飛んだか、グラウンドにある焼却炉の上に乗った。





これが身体強化…凄すぎる。




「授業を始めるわ。お察しの通り私は【赤色】よ。これがマナの使い方。

最初は身体に巡らせるのに時間がかかるけれど、慣れればすぐ出来るわ。」


余裕だなお前。でも凄い。

僕は素直に彼女の実力を認めたと同時に、自分の不甲斐無さに顔を曇らせる。

影は焼却炉の上までは追ってこないみたいで、諦めたのか巨人の場所まで縮んだ。




「石は当たった。後は触れるだけよ。僕くんは見ていて、私がやる」

フィリアがそう言って巨人に向かって走り出した。






凄く嫌な予感がする。






本当に触れるのか?






考えろ、考えるんだ。



「フィリア、止まれ!何か違和感を感じる。ダメだ、近寄るな!」


「石が当たったじゃない!いいから見ていて!能力の使い方を教えてあげる!」

ダメだ。自身の力に溺れていて話が通じない。



「いいから止まれ!」

僕はもう一度彼女を止めに入る。くそ、上手く説明が出来ないが明らかに何かおかしい。



僕の直感がそう告げている。


だが、彼女は離れてしまっていて声が届かない。

もう遅かった。







「やったわ!触れた!これであやつれ…」




そう言ったフィリアに『触れたはずの巨人から彼女に影が伸びる』




「は!?なんで!?」





わかった。違和感の正体が。






———————どうして街には1体しか巨人が居なかった?——————




僕たちが居るグラウンドよりも規模も範囲も広い。なのに何故1体しかいなかった?

逆に言えば、グラウンドには3体いる。これは不自然だ。

本当なら誰もいないはずの、校舎に3体の巨人が現れた。…とすると考えられるのは





「その巨人は囮だ!操っている奴がいる!しかも僕たちの能力を知っている可能性が高い!」


「それを早く言いなさいよ!影に触れたら、動けなくなったじゃない!」


「ばーか!だから止めたんだよ、ばーか!」


…子供みたいな言い合いをしている場合じゃない。

どうする?見たところ、この巨人に攻撃能力はない。幻覚のようだ。

さっき石が当たったように見えたのも『影』で受け止めたからだろう。





ただ、このまま影につかまれっぱなしじゃマズイ。

二人捕まれば飢え死にするか、新たな刺客が来る可能性がある。絶対にどこかに本体が居る。





どこだ。どこにいる。




考えても答えは出ない。なら…フィリアを助けるのが先だ。




「フィリア、痛みとかはないのか?毒とかじゃない?」


「ないわ。ただ動けないだけ。攻撃もしてこないしどうなってるの」




…この影を作ったのはあの『ゲーム脳の変な神』だ。イージーモードから始めると言っていた。

じゃあ必ず対処法がある。


「フィリア、影を消してみよう。」


「どういう事よ?影を消すって、私は動けないし攻撃もきかないわよこいつ。」


「出来るかわからないし、上手く能力が使えるかもわからないけど、やってみる」







———さあ、僕の時間だ。


今の所、見た事がある能力は

『炎』『木』『操作』の3つだけ。



使えなきゃおしまいだ、頼むぞ。僕。






僕は『模倣』を発動した。






「『木』を使用する。」








身体からマナが使われる感覚がした。

一気に脱力感に襲われる。模倣を発動するだけでもこれだけ疲れるのか。




———だけど、まだだ





僕は、体中のマナをかき集め、木の能力を使った。





フィリアの真下から大きな葉を付けた大木を生やしたと同時に、足に力が入らなくなる。


(木の影で巨人の影を覆い隠せば行けると思ったけれど、確認する余裕も…ないな)





そのまま体は崩れて土の上に倒れかかる。

言葉も出ない。喋れないみたいだ。たった1本生やすだけでこれだけ減るなんて燃費悪すぎだろ。







(強く…なりたいな)





僕は意識が無くなり、眠った。


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