【1日目】能力の秘密、そして初戦闘

「修行?」

僕は彼女に問いを投げかけた。



「そう、修行よ。といってもまずは座学からね。今日から1週間、先生になってあげる!」


不法侵入者に《先生になってあげる》と言われても乗り気にはなれないが、状況が状況だ。

通称『宇宙の神』の言う事が本当なら1週間しかない。まだ魔王の手下とやらも現れてはないが、今日から現れると言うし、背に腹は変えられない。僕は彼女に頼むことにした。




「わたしにまかせなさい!」

赤子のような頼りない笑顔で彼女は言った。

…本当に大丈夫なのかな?




僕たちは家の外に出た。



お昼時だからか外は少し暖かく、日差しが照っている。

僕は顔を上げ太陽を見ようとするが、つい眩しくて手で目を隠す。

良い天気だな。ここからどこへ行くんだろう。



電車に乗り、向かった先は学校だった。僕たちの街で、広い場所というのは学校のグラウンドくらいしかない。


だけどもちろんの事、土曜日なので校門は閉まっている。僕は校門の前に来たところで立ち止まった。




引き返すか。






が、




彼女は軽くジャンプした。軽くとは言ったが60cmは飛んだ。人間かこいつ。


校門の上に両手をつけて下に押し、両足で飛び超えた。




すたいりっしゅ。




僕もカッコつけたくなった。これでも男の子だ。

彼女の真似をして飛び越えようとする。






まあ?…誰にでも失敗はあると思うし?これから練習すればいいし?

フィリアに笑われながら、『校門』を操作してもらい開けてもらった。





顔が燃えるように熱い。きっと日差しのせいだろう。





グランドについた。昨日の学校の雰囲気とは大きく違い、人気も感じられない。

するといきなり、フィリアが話し出す。





「今から能力とマナ、そして魔術師と魔法使いについて説明するけど、まずはマナからね。マナって言うのは能力を発動させる際に使う≪精神力≫みたいな物ね。」

僕は彼女の目を真剣に見つめながら、話を聞き続ける。




「マナって言うのは自分の体に宿っていて、五感や身体能力を強化出来る。そして、人それぞれ能力が違うように、マナには『色』が付いている。この色によって得意な分野が変わるわ。

存在する『色』は2色。"赤色"か"青色"よ。

それ以外にも『色』はあるのだけれど…あまり解明されていない。

そして、色によって得意な事が変わってくるの。


"赤色"は【身体能力の強化】

"青色"は【五感の強化】

に特化しているわ、もちろん青が身体強化を行う事も出来るけど、どう頑張っても赤には勝てないのが現実よ。」




ふーん。僕はつい退屈そうな言葉を口に出してしまう。

案外シンプルなんだな。じゃあクリス先生は赤色なのかな。そういえば、全身赤のジャージ着てたけど

あれって関係あるのかな?



僕は考えを止め、彼女の説明に耳を向けた。




「次はマナの確認方法だけど、説明が終わった後にしましょう。

次は、能力について。個々に能力が宿っているのは知ってると思うからその説明は省くわ。」



僕は安堵の声を漏らす。

ありがたい。話が長すぎると疲れてくる。



「とっても大事な事を言うからよく聞きなさい。

能力を使う際にマナを使用するわ。この使用するマナを多く使ったほうが、『強い力』が使える。

でも、身体からマナが無くなる程使用すると――死ぬわ。


後は、【対価】と言うものが存在する。

使う能力に『制限』を付ける事で、その分強い力を使えるの。

『制限』は気持ちの問題よ。「もしかしたら破るかも」と思って制限を付けても、強化はされない。

覚悟を持って制限をつけなさい。…まぁわかりやすく言ったら漫画みたいな物ね。」



彼女が例えたように、漫画みたいだ。



…対価…か。

僕は何を差し出し、制限するんだろう。まだ思いつかない。





「最後に『魔術師』と『魔法使い』。"マジシャン"と"メイジ"とも呼ばれているわ。

違いを簡単に言うと、


≪才能≫よ。魔術師の方が『能力』の扱いが下手。魔法使いの方はセンスに溢れている。それだけ。」




なんだそれ。

アマチュアとプロみたいなものか?明らかな違いがあると思ったけれどそんな事はないんだな。

期待して損した。


僕は露骨につまらなさそうな顔をすると、彼女は真剣な表情で答えた。




「魔法使いは天才よ。世界中で今確認されているだけでも500人しか居ないわ。貴方は甘く見ているけれど

圧倒的に異質なの。初めて外国人の人を目にした時のように『私とは違う』と脳で理解出来る。

判断基準なんてない。ただ見たらわかる。それくらい違うの。強さも、才能も全てね。」



僕は軽く驚いた。魔法使いの凄さにじゃない。

あれだけ能天気に珈琲を飲んでた彼女がここまで真剣に話をしているからだ。

それくらい魔法使いという物は凄いのだろうな。


彼女は全ての説明を終え、具体的な修行を始めると言った。






---

時間はお昼を過ぎている。そろそろお腹が空いてきた。


「じゃあ今からマナの色、そして自身の強さを確認するわ。方法は簡単よ。

手でも足でも顔でもいい。エネルギーを出すイメージをして。」




オーラのようなもの…マナ…力…



僕は目を瞑り、イメージする。

体中に張り巡らされた血管から、流れている酸素やエネルギー。

それを自身の右手に集中する…


すると、ほのかに暖かい『風』のようなものが手のひらで踊っている。

でも…これって…





「ねえ、フィリア…これがマナだとしたら…」

「そう、それがマナ…だけど…」



フィリアと僕はマナが立ち込められている右手を見ながら息を詰まらせる。








――――僕のマナは白色だった。




いや、白と言うにはあまりに色が付きすぎている。『透明』なのだ。

手のひらが透き通っている。まるで、ガラス越しに手を見ているような

そんな美しさを、このマナから感じる。



動揺が抑えきれないフィリアに対して、僕は頭に疑問符を浮かべていた。





そしてそれは急に訪れる。






激しい頭痛が僕を襲う―

否、目の前の彼女も頭を抑えている事から、僕だけではないみたいだ。




痛い。


痛みと同時に聞き覚えのある『声』が僕の脳に響き渡る。



「おいすー宇宙の神でーす。神ちゃんって呼んでね。

今から魔王の手下を地球に送り込みます。戦闘は…初めてだから…優しくしてね?

なんて甘い事言ってんなよ?初日だからって手加減はしねえよ。

と言いたい所だけど、全滅されても面白くないから、最初はイージーモードにしてあげよう。

こんなに楽しい【ゲーム】をすぐに終わらせるなんてもったいねえし。

じゃあ漫画読むからー後は頑張ってー。あ、そうそう、倒した数によってレベルが上がって

特典を得られるようにしたから、『ステータス』って念じてみて。いい設定でしょ?」



『声』が切れた。

その『声』の主は、子供がゲームを楽しんでるかのような振る舞いで

僕は、ふつふつと泡のように沸く苛立ちを隠しきれなかった。

怒りの熱が全身を駆け巡る。お前が能力を与えなければ家族は死ななかった。

右手の握り拳に、後悔と悔しさの念を込める。




「おい、落ち着け」


誰かに頭を叩かれる。フィリアだ。居たのか。

彼女に目を覚ませと言われ、気持ちを落ち着かせる。

彼女の声は重みがあり、勇ましい言葉だった。



僕は彼女を見つめた。

理由はない、ただ一人ではない事を確認したかった。


そして、フィリアは慌てた声で僕に言った。



「僕くんヤバイよ!めっちゃデカい生き物が居る!

なによあれ、あれでイージーモードなの!?反則じゃない!!」



珍しくフィリアが慌てている。僕はゆっくりと顔を上げると、目の前には










――黒い巨人が居た。





デカイなんてもんじゃない



5mは優に超えている。学校の校舎よりも大きいかもしれない…




どうする。

すると、僕が悩んでいるうちに…




黒い煙みたいなのが集まって

もう2体生まれた。




絶望しかない。ははは、笑うしかねえ。




どうしよう。勝てるのか。僕の能力で何が出来る。透明なマナの使い方は?



街の方からも悲鳴や、何かが壊れる音がする。街を見ると、同じく黒い巨人が居るのがわかる。1体だけだが、僕たちが対峙しているものと大きさは変わらない。





考える時間なんてない、やるしかねえ、ぶっつけ本番だ。敵は5m越えの黒い巨人3体、

こっちは能力者二人。どこまで出来るかわからないけど…ここで敵を倒さないと街まであいつらが行ってしまう。それはダメだ。






「フィリア、倒すぞ」


「あんた本気で言ってんの!?第一、僕くん戦闘経験0じゃない!」


「誰だって初めてはあるもんだよ。」


「でも!」


「大丈夫。きっと倒せるよ。そんな感じがする。」



確信は無い。でも気休めじゃない。

頭は冴えきって、体も動く。風の動きが感じられマナが全身に廻っている感覚だ。







さあ、始めるぞ――初めての戦闘だ。




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