伝言の旅
tonami
01 集合場所
「いやいや、よくきたね」
彼女は得意げに頷きながら目を細めた。
砂漠の真ん中に鎮座する彼女は、なんだか景色から浮いて見えて、
鮮やかや色のスカートが眩しかった。
「積もる話もあるからね、まあここすわって」
持参してきたのだろうか、結構大きい織物を棒にくくりつけた自作テントの下、自分の右隣の大地をバンバン叩き僕を呼ぶ。
まるで遠方からきた親戚を向かい入れるが如き甲斐甲斐しさである。
少し気が抜けて立ち尽くしている僕を彼女は覗き込む。
暑い日差しが沈みかけ、空と大地の境目が淡くグラデーションを作り、
熱を溜め込んだ砂にサンダルが重く感じた。
「きみは初めての集合だってね」
僕は頷く。
「それも最近巡礼者デビューをしたばっかりなんだろ?
出発地点はどこだって?」
「テシール」
「テシール!!すぐそこじゃないか!
じゃあまだ分からないわけだ、この感動が!」
分からな分からない、僕は静かに頷く。
その様子を見た彼女は少し鼻を膨らませて目を輝かせた。
彼女が語り切ったとき、気づいたら一ヶ月がたっていた。
「次の集合場所は10年後、ここから東に進んだ場所だよ。細かい座標は星を見ながら見つけだすんだ。」
「遠いんですね」距離も時間も。
「そうだね、それが決まりだ」
彼女は少し退屈そうに足をぶらぶら揺らした。細かい砂が飛び散ってスカートを少し汚した。
「次会えるのは誰だろうね、それまで僕達はこの世界を旅して自分のなかに物語を溜め込むんだ。誰かに語ってはいけないよ。次の集合場所でそれを全て渡すためにね。」
僕が彼女の10年間を受け取り、僕の物語を上乗せする。
次の場所にたどり着いたら引き渡す。
巡礼の約束をお互い確認しあう。
沈みかけた斜めの日差しがテントを包み混んで、空中に舞う砂が煌めいて見えた。
伝言の旅 tonami @1073
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