33:お説教
33:お説教
「貴方達は!何を!やって!いるンですかッ!」
サーシャリアに怒鳴られたガイウスとエモンが、肩を落として小さくなる。
「しかし、事情が事情なのだ。どうか許して欲しい」
「すいません……」
前者がエモン。後者がガイウスの言葉である。
エモンは即座にサーシャリアから「口答えするか貴様ッ!」と怒涛の三連ビンタを受け、涙目に追い込まれた。
……ここは、集落のすぐ近く。
ガイウスとエモンは、馬車の脇で正座させられ、サーシャリアから説教を受けていたのである。
ダークとフォグは、生き残った女性の身を清め、介抱をしているところだ。
「あまりにも、あまりにも軽率に過ぎます!何が起きているかも分からないのに!敵の数も、構成も、状況も!そして敵が何者かも!何一つとして分からないのに!」
「ごめんなさい……」
「それにコート・オブ・プレートも着けずに、普段着そのままで斬り込んでいくなんて!危険極まりないです!」
「つい、カッとなってしまって……」
「ガイウス様は、村へ物資を持ち帰る役目がお有りでしょう!?もしものことがあったら、村の皆さんへの申し開きは、どうなさるんですか!」
「申し訳ないです……」
「それに、もし予想が合っていたらですが……これでガイウス様が、ノースプレイン侯・ジガン家のお家騒動に巻き込まれる危険性だってあるんですよ!」
「はい、本当に迂闊でした……」
くどくどくどくど、ガミガミガミガミ、と。暫くの間、サーシャリアによる説教は続き。
二人が解放されたのは、足も痺れて来た頃になって、であった。
◆
「亡骸を、埋葬してきます……」
足の痺れにふらつきながら、ガイウスがシャベルを持ち、しょんぼりと集落へと向かっていく。
エモンは更に痺れが酷かったのだろう。立ち上がることも出来ずに、その場で悶絶していたが。
まだ苛立っている様子のサーシャリアを見て、こぼすように、ぼそりと声をかけてきた。
「あー、やっぱり、オッサンも、こんなトラブルには関わらずに素通りするべきだったんかねえ」
「はあーーあああーーあああーああ!!??貴方何言ってるの!?ガイウス様がそんな薄情な真似を、なさる訳が無いでしょう!?ふざけないでよ!?ふざけるんじゃないわよ!?殺すわよ!?ぶっ殺すわよ!?死ぬの!?貴方そんなに死にたいの!?馬鹿なの!?馬鹿じゃないの!?」
「お前一体、何にキレてんだよ!」
物凄い形相で詰め寄るサーシャリアに恐怖したエモンが、悲鳴じみた声を上げる。
「さっき散々、説教垂れてたじゃねえか!お前結局、オッサンにどうして欲しかったんだよ!」
「うう……」
サーシャリアは、小さく呻いた後。溜息をついて、エモンの問いに答え始めた。
「……そりゃあ、ガイウス様に危険が及ぶのは避けたいわ。でもね、こうなるのは分かっているの。仕方ないの。あの人がああいう人だっていうのを、私達は知っているのよ」
「じゃあ、別にあんなに言わなくてもいいじゃねーか」
「駄目よ」
きっ!とエモンを睨みつける。
「分かってても、私は言わなきゃいけないの!止まらなくても、止めなきゃいけないの!やらなくても、やらせなきゃいけないの!それが、私の役目なの!私はそのために、あの人の側にいるの!」
「何だよそりゃ」
「別に分からなくてもいいわ。私だって、言ってて良く分からないんだから」
「……面倒臭いやっちゃな、お前」
「う」「る」「さ」「い」「わ」「ね」と手刀を連続で叩き込むサーシャリア。
打撃の数だけ、エモンが悲鳴を上げる。
「だから、ガイウス様が駆け出していった時。残念だったけど、でもやっぱり、嬉しかったわ。ああ、この人はやっぱり、こういう人なんだ、って再確認出来て」
ダークに制せられた時に感じた焦燥感については、伏せておくことにした。
「何かよく分からんけど、オッサンはあの調子は直りそうにないのか。面倒見てるお前も大変だな」
「良いのよ。賢しいだけの上司や、強いだけの上役なんて欲しくもないわ。あの人はああだからこそ、追いかけてまで側にいる価値があるのよ」
「……まあー、俺もあの時?確かにちょっと?オッサン、カッコイイじゃねーかとか思ったけどさ」
照れ臭そうに、ぼそりと言う。
「まあ貴方も、勇者王でハーレム大爆発とか目指しているんだから。それくらいの男には、なってみなさい」
サーシャリアは小さくクスリと笑うと。エモンの額を軽く、指で弾いたのであった。
◆
集落の生き残りは、女性が二名と、子供が一名だけであった。
そのまま放置する訳にもいかず、また、襲撃の背景を考えると、ノースプレイン領内に残すことも躊躇われた。口封じをされる危険性が高いからだ。
だが丁度、隣領のゴルドチェスターに親族が住んでいるという話だったので、一行は予定を変更し、大きく迂回しての帰還となった。
ノースプレイン侯爵領に暗雲が立ち込める気配を感じつつも。
やがてこの事件がコボルド村にまで重大な影響を及ぼすことになるとは、当時のガイウスには予想出来なかったのである。
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