コトワザのワザ

尻鳥雅晶

***

ことわざとか格言とか金言とか(メンドくさいから以後コトワザとします)の存在意義は何だろう、と思ったことはありますか?

あくまでも私見ですが、その役目というのは、次の3種類ではないでしょうか。


1.啓蒙

2.癒し

3.優越感


「啓蒙」とはそのままの意味、生きるための指針となる言葉です。

「癒し」というのは、迷いながらも生きている人や、その言葉通りに生きていると思っている人を、それでいいのだ、この生き方で間違っていないのだ、と癒し勇気付ける効用がある、という意味です。

そして「優越感」とは、オレはこの言葉の通りに生きてるぜ、だからオマエもオレに見習うがいい、とドヤ顔で言う意味です。


実態はともかくとして、ね!


さて、私が面白いと思っている点が、コトワザにはあります。

コトワザには、相反する複数の意味があるものがあります。なぜなら、そのコトワザを生み出した人と広めた人の人生観が違うからです。

ということは、どんなコトワザに注目するかによって、そこにどんな意味を見出すかによって、逆にその人の人生観が露わになるのではありませんか?


例をあげましょう。


ご存知の方も多いでしょうが、「情けは人のためならず」というコトワザには、

本来の意味であるものと、広く流布しているものの2つの意味があります。

仮に前者をAタイプ、後者をBタイプと分類します。

ド忘れした人のためにいちおう解説をしておきます。

(気遣いのデキる男の発言ですね!)


Aタイプは、

「他人に情けをかけることは、回りまわって自分のためになるのだから、他人には情けをかけるべきだ」

という意味です。


Bタイプは、

「他人に情けをかけることは、その人の自立を妨害するから、他人には情けをかけないべきだ」

という意味です。


どちらが好きだとか、どちらが正しいとか言っているのではありません。

(言いたくないのでもないけど)

ほぼ正反対の、そのような違いがあることが面白いのです。


Aタイプ。


助ける労力を厭わない人、自立をそれほど重要視しない人、

人間は助け合うものだと信じている人、他人に甘い人、

他人に助けられたことのある人、言葉の成り立ちにこだわる人、

そのいずれかに当てはまる人、あるいは人からそう見られたい人は、

Aタイプを自然に受け入れ、それが本来の意味であることを納得するでしょう。

Bタイプの意味しか知らなかった場合は、このコトワザそのものを軽視するでしょう。


Bタイプ。


助ける労力を惜しむことに言い訳が欲しい人、自立を重要視する人、

人間は所詮ひとりであると信じている人、他人に厳しい人、

他人に助けられたことなどないと思う人、言葉の普遍さにこだわる人、

そのいずれかに当てはまる人、あるいは人からそう見られたい人は、

Bタイプを自然に受け入れ、それが一般の意味であることを納得するでしょう。

Aタイプの意味しか知らなかった場合は、このコトワザそのものを軽視するでしょう。


私は「日めくり尻鳥」という、コトワザだか何だか判らない作品を書いています。

これは基本的にフィクションです。

どの言葉がそうだ、とは言いませんが、ダブルミーニングも偏見も皮肉もあります。


自分への、きっついブーメランもな!


それでも作品の体をなしている以上、そこには作者そのものが透けて見える気がしても、あながち間違いとは言えないでしょう。


そこが面白い、とは思いませんか。


そして更に、書いた目的のひとつは、これを読んだ貴方自身の人生観について色々と思い馳せて楽しむ、ということです。


深淵を覗き返すがごとく。


それではどうぞ、日々「日めくり尻鳥」をお楽しみください。

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