2ページ
小学校の修学旅行で僕たちは海に来ていた。丁度夏に修学旅行があったことと、マリンスポーツが好きな先生が居たことで、海水浴がスケジュールに入ったらしい。
学校指定の紺色の水着が砂浜と海に広がる。僕も友達と海ではしゃいだ。この頃の僕はまだ海が好きだったと思う。きっと暑いのがそんなに苦手じゃなかったのだ。
砂浜で山を作ったり、波打ち際で水を掛け合ったり、浮き輪で浮かんでぼうっとしたり。僕は海を全力で楽しんでいた。そして同じように全力で楽しんでいる子もいるわけで。
グンッ! と浮き輪が海に沈められ水面をたゆたんでいた僕の身体も海に傾ぐ。驚いて大きな声を上げると、負けないくらい大きな笑い声が聞こえた。
「あはははは! 驚いてやんの!」
「だ、誰だって驚くよっ!!」
「泣いても良いんだよ、この、泣き虫ちゃんっ」
そこにいたのは満面の笑みをした黒髪の彼女。彼女は小さい時から彼女だった。いたずら好きで強気で男勝りで。それなのに花みたいに笑う。
彼女は僕の浮き輪に捕まる。ここはもう足の付かない場所なのだ。
「あれ?」
そこで僕は気づいた。彼女とは同じクラスなので今朝も同じバスで来たのに、その時にはなかったもの。
「それ、どうしたの? か」
「えっ!」
言葉を言い切る前に驚いたふうな彼女がグンッ、と一気に距離を詰める。
「なっなに」
彼女は昔から距離感を分かっていない。だから近すぎるって。
僕は背中を反らして、小さな浮き輪の中で彼女との距離を取る。一気に日差しがきつくなった気がした。
「と、友達が貸してくれただけだし! あ、あたしがこんな可愛いの持ってるわけないじゃん! 似合ってないけど、髪の毛が邪魔だから付けてるだけだし!」
彼女は顔を赤くしてそう一気に言うと、ふんっ、と鼻を鳴らして浮き輪から手を離した。
「わ」
そして僕はその反動で背中から海にダイブ。浮き輪のおかげで沈まなかったけど、鼻に入った海水が痛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます