第21話
「それならこの間、俺がアドバイスしたじゃないか。みんなそもそも美人で可愛いんだからその通りの美しさを見せつけてやればいいんだ」
「そ、それは確かに、嬉しいしその通りだと思いますわ。でも……それだけじゃ、ちょっと不安で……ちょっとは手入れをするべきでは、とみんなに説いていましたの」
「ふむ……なるほど。だがそれは当日やることじゃないのか? 何で今を? バトル審査があるわけじゃないんだ、対策などしようもないだろう。お前達がお前達のまま、ぶつかる闘いなんだから」
「うう……そ、それはそうですが……」
この人気投票の告知は二週間前に行われた。当然、その間にいくらダイエットをしたところで突然変わるわけではない。
だが、何とかしたい。自分を少しでも磨いておきたい――そんなSSR子の気持ちを、N子もSR子も理解していないわけではなかった。
今更変わるわけではないが、足掻くだけでも気を紛らわせられるのだ。
その気持ちは、
「せめて、自信を持っておきたいんですの」
ぽつりとつぶやいたこの一言に集約されていた。
「ふむ……自信か……」
覚醒の宝玉(R以下)が呟く。そして、
「仕方ない。ならば、俺が持っている秘蔵の品を、今日限りでお前達に託す。これで、お前達が何者なのかを、認識するといい」
「! 秘蔵の品!?」
「それは一体!」
「ああ! 見るがいい、これが俺の持っている紳士グッズナンバー22!」
残りの21個の内容がさらっと気になったが、それよりも覚醒の宝玉(R以下)からモリモリと出てくる紙束二セットの方に気を取られる。
「出し方キタネー!」
「これ何だ!? 初めて見るぞ!」
「ああ、そりゃそうだ……何せ、村長から託されて初めて使うんだからな! コレは、『カワイイ・ビューティー・デュエル』!」
「な……!」
「カワイイ・ビューティー・デュエル!?」
「そうだ!」
あんまりなネーミングセンスに、一同が言葉を喪っている間に説明を進める。
「これは、五人で一束を使うカードゲームだ! そして、カードは全て、お前達の『カード画像』から抽出された「萌え属性」を映し出す!」
「萌え属性を……!?」
「そうだ。例えばN子! お前なら必ずや、「男勝り」「男言葉」「地味子」「村娘」「不遇」……そういった萌え属性が抽出される! そして、それぞれがカードとなり、現実世界におけるその属性の支持率で強さ・所有スキルが決まるのだ!」
「ちょちょ、待ってくれ兄ちゃん!? 何だよそのいかにも駄目そうな言葉たち! ネガティブなのばっかじゃね――」
「何がネガティブかーーーーーーー!」
雷の如き怒声が家の中に轟いた。覚醒の宝玉(R以下)に、ピンク色のオーラが発生する。
「男勝り、結構じゃないか! そういった子が時たま見せる乙女の表情、実にマーベラス! そして地味子……! 素晴らしいだろう!? 自分の手の届きそうな位置にいるカワイイ女の子! ヒュー! 死ぬ! あーダメダメ、興奮しすぎます! そして不遇属性を舐めたな!? 溢れる庇護欲をどこで解消しろと言うんだ! まさか子供ばかりを相手にするわけにもいくまい! ほれ見ろ、そこに不遇な女の子が! ギャー! ブヒイイイイ! 守ってやりたい! 守らせて下さい! しかも地味子! しかもそれが強気で男勝りで男言葉ァ!? 数え役満だ! 数え役満、たまりませんなあ! そんな萌え属性を複数兼ね備えているのが、N子! お前なんだ!」
「お……お、おう……」
N子は目を見開きつつ、じりじり後ろに引き下がった。揺るがなかった兄への忠誠心が、音を立ててすり減っていくのが分かる。
「本来なら一人一人にこれらの評価をしてやりたいが!」
残りの三人は、心胆からの拒絶をこの兄に対して行った。
「とにかくそういうものだ! そして属性カードは、それの上に更に重ね合わせることで、特殊な作用をすることがある! 例えば『黒髪』カードに『和服』を組み合わせれば『大和なでしこ』属性が完成し、総合力がそれら二つの合計よりも上回るようにな! まあその他、イベントカードなどがあるが……とにかく! お前らの魅力をそのまま体現するのが、このカードゲーム!」
「つまり、このカードゲームで勝ち続ければ……!」
「ああ! それほどお前らが魅力的だという証拠! 結果はともかく、勝てれば自信にはつながるはずだ! お前らがいかに魅力的か見せつけてやれ!」
「やる! やるわ、私! 私、デュエリストになる!」
「やるのかよ!? ただの自信持つだけのもんだよねそれ!?」
「この村の者を全員なぎ倒せればつまり、私達は最高に魅力的ってことなのよ!? 分かる、この認識の重み!」
「ま、まあ……な、何となく……」
「ありがとう兄さま、流石ですわ! 大好き!」
「ふ! その言葉だけで割れてしまいそうだ!」
割れるという言葉の新しい活用法だった。しかしここで、当然の疑問がSSR子を除く三人に思い浮かぶ。
「でも、待ってくれ。それ、五人でやるんだよな」
「そうよ。それが何か?」
「五人目、誰?」
少しの沈黙が流れた。
「決まっている! 俺だ!」
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