第20話

 超萌え萌え戦記・キャラクター総選挙。それはプレイヤー達の欲望のせめぎあいであり、愛情の押し付け力を競うものである。

 二ッチ需要は悉く潰され、正統派にいつだって可愛い子が人気投票一位になるという、皮肉にも総選挙という言葉を有名にしたアイドルグループのフォーチュン・クッキーを形にしたようなこの選挙は、キャラクターにとってはまさに夢そのものだった。

 レアリティが上がれば使用頻度が上がる。

 そうすればもう売却の憂き目など気にする必要も無い。

 メラメラと燃え上がる彼女達の闘志を焚き付けるように、ウンエイ神殿はあることを提案した。

 それは何と――キャラクター画像の一新。全てのキャラクターに新イラストを与える。

 つまり、彼女達を写真でもう一度撮影し直す、というのだ。

 可愛い子が一位になる――ならば、可愛く映ってやればいい。

 そうすれば画面の外の男どもはこぞって自分に票を入れるだろう! プリーズプリーズプリーズオーベイビ!

 この発表から、ファマゾンでは美容グッズが瞬く間にセールスランキング上位を独占した。肉類の売れ行きは格段に落ち、サラダの人気が天を射殺すほどに跳ね上がる。アサイーボウル、フルーツのスムージー、バジルシードなども鯉の滝登りである。

 二ッチ需要共。道を空けろ。

 我こそが、天に至る萌え道の覇者也。

 彼女達はそうして、積み上げ続けた。己の美を――


「シンレアリティ・ポイントっていうのはそういう意味じゃないわ! N子! R子!」


 そして今日は、撮影会の前日。

 前日になって対策をするという一夜漬け学生もビックリのこの連中の中心で、相変わらずSSR子がバカらしい大声を出していた。N子とR子は、冷めきった目で最高レアリティを見ている。


「ほーん。じゃあ何なの? そのポイントって」

「言ってみてよ、無知無能の愚者」

「いいこと!? シンレアリティ・ポイントっていうのはつまり! 可愛さが実力を凌駕する、特異点よ! どんなに実力が低くても観賞用として、趣味パ要員として使われる……イラストアドヴァンテージというものがあるわ! そのアドヴァンテージが実力と交錯する点が、シンレアリティ・ポイントのことよ!」

「いや、つまり上位5位を目指すってことでしょ? 何で話をややこしくしたがるの? 頭悪いの?」

「だってカッコいいじゃない! シンレアリティ・ポイントって! なんかよく分かんないけどカッコいいから言いたくなったの!」

「つまり私達はそのクッソどうでもいいものに付き合わされてたってわけか? SSR子。ん?」

「その件に関しては本当に申し訳ございません、毘沙門天様」


 SR子の本気の折檻直後は、この家のメンバーの誰も彼女に頭が上がらなくなる。それはSSR子も例外ではない。尻を高く上げての土下座という完全屈服の構えを決めた。


「でも、考えてもみなさい。周りは車検前の自動車の如くめちゃくちゃ対策しまくってるのに、私達だけはまるでそんな気配も見せていなかったわ。今からでも対策しないと、シンレアリティ・ポイントを突破なんて無理も無理よ! 今からでもなんとかしないと!」

「何とかっつってもなー。アタシがSSRなんてあり得ると思うか? 新SSRが今までノーマルだったワーウルフって、なんつーかこう、流石に申し訳ねえぞ? 組織票疑うレベルだぜ?」

「『ワーウルフ一位にして萌えブタ共泣かそうぜwwwwww』ってスレッドは立ってないみたいだから大丈夫だよ、N子」

「オ、オーディンは無いの!? オーディンは!」

「SSR子。それ、立ったらアウト系のスレッドだからな?」

「『オーディンとかいうBBAwwwwww』だったらあるけど」

「誰がBBAですってェーーーー!」

「黙れSSR子」

「ハイ」


 SR子の眼光に、今日一日は逆らえないSSR子だった。


「そもそも、今から対策しても同じだろう? 告知が出た日に、兄さんに相談してそれぞれの写真写りのコンセプトは決めたじゃないか」

「右に同じだぜ、SSR姉貴。そもそも今から何すんだ? 食べてお肌つるっつるになるような魔法のアイテムでもあんのかよ? そもそもアタシら現実じゃあり得ないような完璧素肌してんのに、今更必要ねえだろビタミンとか」

「むきー! 分かってないわ! 女の子はいつだって美の探究者であれ! 直前でも対策を練ってベストコンディションで臨むの! みんな4人で揃ってSSR昇格! 最高じゃない!」

「お前そもそもSSRだろ」

「アラ! ごめんなさーい! テヘッ☆」

「ムカつくんだよオルアーーーーー!」

「ガムィラス!」


 瞬間湯沸かし器ことN子の怒りが一瞬で沸騰し弾けると、SSRが宙を舞った。


「でもSR子、N子。確かにSSR子は馬鹿だけど、一理はあるよ。私達は確かに劣化しない肌は持ってるけど、お手入れとかっていうのは、見た目の美しさだけじゃない。『手入れをした』という認識も大事なんだよ?」


 R子が、覚醒の宝玉(R以下)を組み立てながら言う。


「何? そうなのか?」

「うん。ま、私の主観だけど、きちんと手入れしてると、その分自分を美しく見せようと思うから、振る舞いも自然にそうなるし。そういうのって、一葉の写真でも現れちゃうと思うから。大事だと思うなあ」

「なるほど、一理はあるな」

「何でR子だと聞くのよ二人ともォ! いけず! バカン! いやん!」

「ウルセー、ノイズ発生源! チンパンジーと元人妻、どっちの意見を採るかなんて明白だろーが!」

「チンパンジーとは失言ねえ!」

「ハイ、じゃあ52+9は?」

「529!」

「生物分類を『界』から変えろ」

「動物ですらなくなっちゃうの私は!?」

「よし、出来たよ。お兄ちゃんかんせーい」


 そしてここで覚醒の宝玉(R以下)が出来上がった。『スーパーバイザー』の張り紙も張り直され、R子の組み立て技術のおかげで心なしか艶も上がっているようだ。


「お兄様、お帰りなさいませ! ちょうどいいところで組みあがって下さいましたわ!」

「ああ、なんだか分からんがそれはよかった! で、何の話だったっけか、これ?」

「え、兄さん、認識してなかったの? さっき?」

「ああ。さっき、寝てた」


 数秒の沈黙が流れた。その間に全員の心の声は完全にリンクする。

 この人、睡眠の機能あったんだ。と。

 そして覚醒の宝玉(R以下)に内容を話すと、ふむと唸る。

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