第11話

「はっ!」

「ひっ!」

「ふっ!」

「へっ!」

「ほっ!」


 SSR子以下全員が、同時に目を覚ました。そこは彼女らの自宅であり、そのリビングに並べて寝かされていたのだ。

 体には包帯が巻かれ、手当てをされた痕跡が残っている。


「い、一体誰だ!? 誰がアタシ達を!」

「誰だ、とは随分な物言いだな、N子!」


 その尊大な声音は、聞き覚えのある声だった。勝手に拝借されたキッチンからのぞいたのは、九本の尻尾と気の強そうな顔。

 玉藻前だった。


「た、たまもっち!? 何で私達の家に!?」

「玉藻前だけじゃありませんわよ。まったく、起きて早々に騒々しいですわね」


 ジャンヌが、人数分の濡れタオルを持ってくる。


「あ、チョンヌだ」

「余計にパチモノ臭くするんじゃないですわ、R子!」

「ZZZZZZZ……ZZZZZZZZ……」


 アザトースが、寝ながらSR子の包帯をくるくると解き始め、新しく巻きなおそうとする。


「アザトース……えっと、ありがとう、でいいのか?」

「一番働いてたのはアザトースですわよ?」

「そうなの!? アザトース働けたの!? 寝てるのに!」

「わーい! みんな起きたんだ! よかったー!」


 楊貴妃は水を持って来ながら、満面の笑みを見せた。


「おう、ありがとな! 楊貴妃!」

「……N子って子供には甘いわよねえ」

「」

「ゴリアテ! 何か喋れ! お前ずっと描写ゼロだぞ! お前も働いてただろ!」

「」「」「」「」

「ゴリアテええええええ!」

「ゴリ!」

「テーピングだ!」

「ゴリ言うな!」


 結局ゴリアテは喋らなかった。


「しかし、どうしてみんな、私達を助けてくれたんだ? あー、こないだはほら、主にこのバカ二人がアレだったのに」


 SR子の問いに答えるのは玉藻前だった。またキッチンに顔を隠し、声だけで応対する。


「ああ。確かに酷いことはされた。が、しかし」


 お隣さんだからな。

 消え入るような声で玉藻前は言った。

 さしものN子もこれには茶化すわけにもいかず、静寂で応えた。


「それに、今はいがみ合っている場合じゃないんですわ。ゼウスを引き当ててから、大変ですの」

「あ! そ、そうよ! あのLR! ……って、ゼウス!? ゼウスって言った!? チャンク!」

「ジャンヌですわ! 何でR子の認識が移ってますの!?」

「ああああああ! ゼ、ゼウス! 遂に恐れていた存在が来ちゃったのねーーー!?」

「ど、どうしたSSR子! ゼウスの何がそんなに……!」

「馬鹿かSR姉貴! ゼウスを知らねえのか!?」

「ゼウスよゼウス! 神話史上最強にして究極の色魔で有名な! 私達、ゼウスが着地した時点で既に処女を奪われたかも知れないわ!」

「無い! それだけはない! アンタらギリシャ神話を何だと思ってるの!?」

「大人に叱られないラノベ」

「創作物元ネタ辞典よ」

「私はハデス善人説からかなあ」

「いちいちサブカル臭ぇーー!」

「とにかく、ですわ! もう、本当に大変なんですわ! 村長さんすらも太刀打ちできないものだから、その力を行使してやりたい放題してるんですの! もう支配者と言ってもいいですわよアレは!」

「やりたい放題? アザトース起こせば何とかなるんじゃねーの? こいつクトゥルフ神話のヤベー奴だし。他にもヤバいのそこそこいるだろ」


 N子は特に意味も無く、隣に座っていたアザトースのCDのイヤホンジャックを外した。


『あたまあたまあたまーー♪ あたまーーがーーーよくーー』


 そっとイヤホンを元に戻した。「何の意味があるんですの?」「なんかやりたくなる」N子はジャンヌに向き直る。その顔は渋かった。


「アザトースが完全に覚醒だなんてまずありませんわ。それに、それが出来ない理由があるんですの」

「理由……」

「とにかく、体が大丈夫であれば一度見に行くことを勧めますわ。今のこの村の、現状というものを」


 神妙な顔で言われたことを、彼女たちはたった数分後に実行するのだった。


「あ、私はお留守番しとくね。あんまし興味ないし」

「R子ォ!? いいのかお前はそれでえええええ!」

「さ、流石のドライさ……恐ろしい子!」

「だってそうじゃないと誰がファマゾン受け取るの?」

「「「「任せた!」」」」

「いいのかお前らはそれで……」


 一名を除いて。

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