第12話

 村には一見、特に変わった部分は無いように見受けられた。しかし誰一人として大通りを歩いている者がおらず、ゴーストタウンさながらの光景を4人に見せている。そう、誰かに怯え、息をひそめているかのように。

 そしてその原因は、村の中心部――広場にあった。

 広場の全てを自分の居室とすることを決めたゼウスは、その中心部にある玉座に深々と腰かけていた。最高の素材を使って作られた煌びやかで豪勢な、財宝のような玉座に腰かけ、頬杖をつく。隣には巨大な葉っぱでゼウスを仰ぐ侍女と果物が入った器を持った侍女がいた。

 SSR子以下4人と1個は物陰から様子を伺っている。声を潜めているが、近場に居た見張りにはバレバレのようで、ちらちらと見られている。それでも見て見ぬふりをされているのは、暴君への忠義の無さからであろう。


「ヤバいぜ……デカい葉っぱで煽がせるやつ! 帝王だ!」

「何てこと! 果物侍女まで完備してるわ! 帝王よ!」

「カイザー・ポインツ! 5!」

「お前ら静かにしろ! あと、カイザーポインツって何!?」

「なんてこと、SR子! カイザーポインツを知らないの!?」

「いや、知らないよ! 何なのそのポインツ!」

「カイザー・ポインツ……それは古代より存在する、帝王っぽい行為のことよ! 魔改造バイクに乗ったり、自分の師匠のお墓を作らせたりイチゴ味になったりすることでそのポイントはどんどん上乗せされていき……10を超えたら誰もが跪かなきゃいけないの!」

「知らないよそんなの! っていうかそれもうただの鳳凰拳の伝承者だろ!? アンタの中の帝王観は完全にそれだろ!」

「あいつのCVは銀河なオジサマで決まりだぜ……なんというカイザー力……アタシを僅かに上回る!」

「決まるか! あとお前にカイザーとしての資質ないだろNが!」

「んだとコラー!」


 広場には大勢の、ゼウスの私兵と化したキャラクター達が立っている。だがそれは忠義ではなく、恐怖による圧力からだ。事実上カカシも同然と、SR子は睨む。事実、これだけ騒いでいても見張りは一人も反応していない。


「おい、ちょっと、そこの。……ダゴン、おい、ダゴン」


 そして近場の兵士・青い肌をし、鱗のような飾りをいくつも装着した少女に声をかける。ダゴンは後ろに小刻みに歩き、一行の近くに収まった。幸い、ゼウスには気が付かれていない。


「何ですか? ゼウスに悟られてしまったら終わりですから、お早めに済ませて下さい」

「何なんだこの有様は。全員、ゼウスに屈してしまっているのか?」


 SR子の隣では「それはともかく」とばかりに、ゼウスの帝王っぷりを語る馬鹿2人と、ダゴンの尻を観察するスケベ球体が一つ。まともに状況を観察しようとしているのは自分だけだと悟り、SR子は追及する。


「いいえ、全員ではないです。貴方方のお隣のアザトース様達のように屈してはいない者もいますが……皆、貴女方が眠っている間のゼウスの所業に恐怖しているのです」

「あいつ、何をしているんだ? 一体何をこの村に……」

「単純です。自分への絶対服従を命じる。それだけです。自分の支配欲を満たすために、多くの見せしめも行っているほどです」

「! 見せしめ!? そ、そんなことも!」


 SR子は自分が受けた電撃の衝撃を思い出す。


「あんな雷を見せられては、とんでもないものな……そんなことまで!」

「いいえ、ある意味、それよりもっとタチの悪いことをしています。ゼウスは、見せしめに雷を使いません。雷以上の打撃を与える方法を知っているのです……」

「雷以上の? 何だ!?」

「それは――」

「おい、そこの」


 ギロリ、と。ゼウスの絶対的な力を示す眼光が向けられる。

 その先に居たのは、ダゴン――ではない。ダゴンの隣に居た、ドレッドヘアーのような黒髪を垂らしている灰色の肌を持った少女・ガタノソアだった。

 今ガタノソアは、設置していた流しそうめん機でそうめんを延々と食べている真っ最中だった。


「貴様、さっきから気になっていたが何故そうめんを食べている?」

「お弁当デス!」

「何でお弁当を流しそうめんにしたんだお前!? っていうかゼウス、注意するの遅くないか!?」

「毘沙門天さん、分け隔てなくツッコミに回りますよね」

「一口食べマス!? ゼウスサン! ピンクの入れてありマスヨ!」

「要らん。私を舐め腐ったその行為、審議すら不要。即時の断罪を行う」


 ゼウスは両腕を持ち上げた。すると、周りの兵士や果物侍女は身構え、己の眼を隠す。


「いけません! 皆さん! 目を隠すのです!」

「え!? な、何をするんだあいつ!?」

「いいですから!」


 ゼウスの構えは、素早かった。片腕を肘を曲げて地面と垂直に立て、その肘にもう片方の指先をくっつける。それは両腕を使った「L」字。


「アイ・アム・レジェンドレア!」


 その宣言と、見せつけられた「L」の字。

 それを受けたガタノソアは、手に持っていた流しそうめんのつゆを取り落とし、ガックリと膝を折った。


「う、生まれてきてごめんなサイ……時代遅れのSRでごめんなサイ、これからは冷や麦ダケ食べて生きていきマス……」

「ど、どうしたことだこれは!」

「あれが、ゼウスのアイ・アム・レジェンドレア。自分の絶対的な立場、生まれながらの超勝ち組であるということを示し、相手がいかに自分より劣った存在なのかを見せつける恐るべき奥義です」

「みみっちい! なんかみみっちいなレジェンドレア!」

「ですがアレを直撃した者は皆、ガタノソアのようになってしまいます。精神耐性がいかに高くともほぼ無意味という恐るべき奥義です」

「オイ、そこの。そいつを牢にぶち込め」


 ゼウスがダゴンに目を向けていた。ダゴンは渋々ながら「はい」と答え、沈むガタノソアを助け起こす。

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