④旅行途中で知らない娘と

学校行事のキャンプ旅行に来た。

旅行途中、電車の中。友達と談笑する。

楽しいね。楽しいね。楽しいね。とっても楽しいね。たのたのたのたの楽しいね。

窓の奥は薄暗い。朝の天気が電車に跳ねる。適当な話題に軽い相槌を返す。他愛のないことでも日常だ。

心の中で思っていたら、心の外でぶつかった。隣の人にぶつかった。

「あ、ごめんなさい!」

「いいですよっ。」

「って、その制服は、そっそそその制服は、柏木高校のお方ですか?」

「えぇそうですよ、ひょっとしてあなたは如月高校の?」

「そうなんですよぅ、ちょっとした修学旅行でして。あなたは?」

「わたしもそうですよ。ただ個人行動が主なもので。」

「こっちもそうですよ。途中までご一緒しません?」

「いいですよ!ところで何処で降りるんです?」

「船島という駅ですね。」

「まぁ、一緒です!すごい偶然ですね!」

「もしかしたら行先も同じかもしれませんねっ」

「ふふっ」

会話が弾む弾む。初対面の人でも案外話せるものだ。自分の新たな一面を発見した。もう一つ隣の友人のことなんか忘れてこの娘と話がしたいな。別に最高の友達って訳でもないし。より良い出会いを求めてこの娘と関わりたい。青春だぁ。この娘の側、この娘のそ、ば、この娘側、この娘そばで。ドキッとして、せばらちょって感じでぇ、内臓、心臓。ないぞ、しんぞ、ないぞ、しんぞ、ないぞ、ないぞ、しんぞ、ドキドキドキッ。あー緊張してくる。

「不思議なブレスレットしてるね」

「あぁこれね、お守りなんだ」

「へぇなんか、可愛らしい感じで素敵……だね」

言った後、あからさまな口説き文句みたいだぁと後悔。

「ふふ、ありがとっ。そう言ってくれると嬉しいなぁ」

だけど喜んでくれたやったぁ。

「そのリボン、制服に似合っているよ」

「へ?あ、あはは、ほんと?」

今度は逆に言われて戸惑うし照れる。

何だか波長が合う。

頭。首。制服。制服。足。靴。

どれも新鮮で緊張みたいにこの感じる。

それに電車の隣同士だから、足とか脇とか擦れて擦れてごすふらふらしゃっしゃっしゃ。さふらん。

目俯かせて、頬赤くさせて。どっちもそうで。

あれ、これ脈有りかい?

全くドキドキするね。知り合ったばかりなのに。

旅行先でいきなり、とか、熱い。

あっっっっっっっつい。

「おい、やぁ、お前」

すると他クラスの友達がやってきた。

前の席に。

「おーう」言った後

「ねぇ、この先の地図見せてくれない?」すぐ様この娘の方に言う。

「なんだなんだ、知らない学校のやつと偉く仲良さそうにしてるじゃないか」

「そうだけど」言った後

「はい、これ?」言って地図を見せてくれる。

「そう!どれどれ、やっぱり行く場所同じだねこりゃ」

「おぉー、ふふっ」

不純物を除菌したこの娘の笑顔、可愛い。

「なんか、仲良いな……」

「さっき知り合ったんだ。同じ旅行生らしくて。」

「……」

黙ってしまった。こんなやつより、この娘と話そう。

「ほーん。」

「それよりねぇ、このお土産屋さんとか面白そうじゃない?」

「……あ、このお店調べたよ!カスタードプリンが良さそうなんだ」

「うわぁ、楽しみぃ」

「……おい、加藤」

目の前の友人は会話に入り込むのを諦めて、忘れ去った隣のやつとの会話で妥協しだした。そうしてくれぇ。

「お、そろそろ着くね!」

「本当だ。楽しみだなぁ、旅行とか滅多に行かないから」

「貴重な体験だねっ」

旅行とこの娘、二種類の楽しみを抱えて電車を降車。あの二人は脳から削除して、階段を上る。広々とした駅を超えたら、自然と二人で隣接の多目的施設へと向かう。並んで歩いていると、フローリングみたいな壁がずーーーっと続く。

茶色を後ろに流している最中、突然この娘が告白する。

「実はうちら、この後、そのまま、お風呂入る予定なんだけど……」

「え」言うと固まる。

「一緒、何だけど……」

ぽわぁん。それって、つまり一緒ににゅにゅにゅ入浴。

この娘の肌色の身体、見るの?見てしまうの?見ていいの?

「と、とりあえず!お風呂場の前まで行こっか!」

「う、うん!」

口では頷くのに、首はあっち向いたりこっち向いたりしてしまう。だめだ、この娘の方をまともに見れないっ。

はるるぅあっ、しながら歩いてくと、お土産屋さんを横切る。

「あ、あれは後でいっか!」

「そうだねそうしよ!?」

恥ずかしい思いで意気投合。こんな状況でもやっぱ相性いいかも。

浴場特有のおしぼりボックス。

おしぼりいっぱい。おしぼりいっぱい。

その内装を抜けて。

過ぎる通路をてくてく。

そして、お風呂「女湯」の前に着いた。

「は、入ろ、、っか!」

「、、、行こ、っかっ!」

引き戸を開けたら。

旅行途中で知らない娘と。

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