第2話
ツンツン。ピンッ。
長さを測ったりで散々触った後なので恐る恐るではなく、興味本位で改めて指先で突いてみたり、でこピンをしてみたりをしてみる。
さっきは感覚まで気にしないで触っていたからあれだったが、こうして触ってみると指先で触っている感覚はあっても、ツノ自体からは触れているという感覚はなかった。
例えるなら、爪に触れているのに近い感覚だろうか。
まあ、そんなことが分かったところで、事態が解決したわけではないのだけれど。
「どうしよう、これ……」
不幸中の幸いか、ツノの重さで首が横に向けられたおかげで学校に行くまでの時間はまだある。
「フランケンシュタインの怪物のイメージみたいに、ボルトが側頭から側頭に刺さってるんだったら大ボリュームのお団子ヘアーにしていくんだけど……」
どう見てもツノは横向きではなく、前向きである。
「せめて、オス鹿みたいに後ろ向きに生えているんだったらなぁー。そうすれば、長い髪を縦ロールにして、それを支えるアクセサリーとしてなんとか誤魔化せるのに……」
一人呟いてみても、ツノは後ろ向きではなく前向きである。
「後ろ髪を前にもってきて包帯みたいに巻いたら……だめか。形がモロにでるからバレるか……」
たらればや案を出しては試しに髪を掴んで動かしてみても、浮かんでくる案は却下されるだけだった。
スランプ中の作家が多数の失敗作の紙原稿を放るように、うわぁぁーっと髪の毛をツノに向けて放っても、髪は重力に負けてボサボサになってわたしの肩に掛かるだけ。
重力が無ければ、この長い髪は空中に浮いたままでいるのだろうかという疑問が頭を過ぎったが、今はそんな場合ではない。
面白いネタが出てこない作家や漫画家のように頭の中が煮詰まっているのが自分で分かった。
……落ち着け、わたし。こういうときこそ落ち着くんだ。焦ったっていい案は出てこない。こういうとき、こういうときこそ、落ち着くんだ。そう、大人のように! できるサラリーマンのように!
「……でも、サラリーマンとかってどういう風に落ち着くんだろう……」
やはり、タバコとかでも吸うのだろうか。
タバコでも吸えれば落ち着ける……? と一旦考えると、初めて、サラリーマンのおじさんのようにタバコを吸ってみたくなった。
まあ、タバコを買う度胸も吸う度胸もわたしにはないのだけれど。
「あっ、そうだ。タバコで思い出したけど、昔、タバコのマジックを見せてもらったことがあったっけ」
あれはわたしがいくつくらいの時だったか。
そう。たしか、小学生の時だ。
親戚のおじさんが、「これからやるのはタバコの灰を一切落とさずに吸いきるマジックだ! 多少なら振っても落ちないから見てな!」と言って、やっていたのだったか。
あれのタネはたしか――
「あっ!」
マジックのタネから思い至った発想に、思わず声が出た。
あのマジックのタネを使えばイケそう、かも……。
たしか、あれに必要なのはある程度の強度がある芯があること。
確認のため、コンコンと指の関節でツノを叩いて強度を確かめてみる。
これなら……イケる!
それから、わたしは部屋に戻って、人生で初めてする髪型のセットの仕方をネットで検索したのだった。
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