第3節
彼がなぜそんなことを言ったのか、当時の私にはわからなかったけど、今ならわかる気がするの。
後になって知った事だけど、あの頃は次の女王を決めるために連日会議が開かれてたそうなの。私に補佐役をつけて女王にするか、私の次に王位継承権がある薇弥様を女王にするかで大臣たちはずいぶんもめたみたい。
霖狼国はそもそも実力のある神官が王になる国だったけど、この頃には世襲することが当たり前になってたわ。だから、信仰心を欠片も持っていない薇弥様が選ばれたりしたのよ。彼女が神にお仕えしてる姿なんて見たことなかったのに…。幼いながら、神様がお気の毒だと思ったわ。
でも、いのりが女中たちと噂話しているのを聞いて、少し納得したの。
「霧弥様が幼いから女王にしないなんて嘘よ…。霧弥様のお父様がどなたかわからないから…だから、ご両親のはっきりしてる薇弥様を選んだんでしょ?霧弥様が成長したら王位を譲るなんて…きっと今言ってるだけよ」
そう、いのりは言っていたわ。
私は、彼女の言うとおり、お父様が誰かわからなかったの。会ったことも一度だってないわ。
私が聞くと、お母様は「あなたは神の子よ」っていつも仰ってたけど、その神が誰を指すのか…はっきり教えてはくださらなかった。
でも、こんな事があって、負けず嫌いの私はついにお母様からお父様が誰か聞き出そうと思ったの。あの薇弥様に負ける理由になるような欠陥が私にあるなんて嫌だったもの。お母様から聞き出すことで解決するならそうしたかったわ。馬鹿な子どもよね。
それで、私は一週間ぶりくらいにお母様のお部屋へ向かったわ。でも、やっぱりお部屋には入れなかった。
私がお部屋の前に立ったら、前と同じく急に扉が開いて…あの子が出て来たの。
「ここには来るなって…この前言ったろ?」
彼はため息まじりにそう言ったわ。
「でも…。お母様とお話ししたくて……」
私がそう言うと、彼は呆れ顔になった。
「あの女はもう、ここにはいない」
「えっ…」
なんて言えば良いのかわからなかったわ。いつもお部屋にいらっしゃるお母様が、お部屋の外へ出られているなんて想像できなかったもの。
「そんな顔するなよ…。知らなかったのか?あー…。こーゆーの人間は“天に召された”って言うんだろ?めでたい話じゃあないか。別にめでたくはないけど…」
「天に召された…?」
私にその言葉の意味は理解できなかった。
「ああ。あんたより先に…神の元へ行ったのさ」
「まぁ!さすがお母様…!お母様は立派な巫女だったもの。きっと神様、お母様を早くお側に欲しかったのね。神様、喜んでいらっしゃるわね…」
私がそう言って笑うと、その子…何とも言えない表情になったわ。泣いてるわけでもなく、笑っているわけでもない難しい顔。
そんな時。お母様のお部屋から召使いが一人出てきたの。きっと何か頼まれたのでしょうね。その扉の内側から、薇弥様の笑い声が聞こえてきたわ。それがひどく不思議だった。
「どうして薇弥様がお母様のお部屋にいらっしゃるの?今まで薇弥様がお母様を訪ねて来ることなんて一度もなかったのに…」
その不思議はすぐ、口に出したわ。いつもならいのりが答えてくれるけれど…この時は違った。彼が代わりに答えてくれたの。
「それは…あの女が女王になったからさ。女王になったから、女王の部屋にいるんだ。母親の部屋を取り返したいんなら、あんたもいつか女王になればいい」と。
幼い私にも、その言葉の意味は理解できた。だから、その時から私は、この霖狼国の女王になりたいと熱望するようになったわ。
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