第2節
その子とはもう少しお話ししていたかったけど、それはできなかったわ。いのりが来たの。私を探したせいか…雪遊びのせいか、彼女はずいぶん疲れて見えたわ。
「霧弥様!ここにいてはなりません。あちらへ参りましょう…」
そう言った後、いのりは一瞬間その子を見たの。でも、すぐに下を向いて、いつも通り私にかしこまって見せたわ。
「いのり、静かに…。お母様眠っていらっしゃるの。大きな声で話すと起こしてしまうわ…」
私がそう言うと、突然いのりの目から涙が零れ落ちて、たちまち止まらなくなったの。私は訳がわからなくて、ただ見ていたわ。
「霧弥様…。参りましょう…」
もう一度、そして今度は消え入りそうな声で、いのりは言った。
その空気に呑まれて私はただ従うしかなかったわ。
「なくしたお兄さま、またお会いしましょうね」
私が小さな声でそう言うと、彼は静かに頷いた。
その日からは、よくわからないことの連続だった。
いつもみたいに綺麗な刺繍のある服を着たかったのに、なぜか白い地味な服を着せられて…同じ様な白い服を着たいのりに連れられ、しばらく外で立ったままだったわ。
最初はお祭りか何かだと思った。でも、みんな泣いてるの。だから、お祭りでないことは私にもわかったわ。お祭りは楽しいものでしょ?泣くなんて変だもの…。
それからずっと、どうしてみんなが泣いているのか考えてて…薇弥様を見て気づいたの。みんな白い服を着せられて、それが嫌で泣いているのだと。
だって、薇弥様はいつもみんなと違って、神に仕える者とは思えないようなギラギラした派手な服を着ていらっしゃったのに、この時ばかりはみんなと一緒に質素な白い服を着ていらしたんですもの。異常でしょ?
その後は…私も白い服が嫌だったから、みんなと一緒に泣いたわ。
「霧弥様、ご安心ください。私めがついております。どうかお気をしっかりとお持ちくださいませ」って、みんなずいぶん励ましてくれたのを覚えてる。
その夜は、泣きくたびれたのと立ち疲れたのとが重なって、お夜食を食べるのも忘れて朝まで眠ったわ。これほど不満で、意味無く疲れた一日はなかった。大好きな雪遊びも出来なかったしね。
だから次の日、朝起きてすぐ…いのりが起こしに来る前に、昨日の奇妙な出来事の報告をしようと思ってお母様のお部屋へ向かったの。でも、お部屋には入れなかった。
私がお部屋の前に立ったら、急に扉が開いて…あの子が出て来たの。心臓が止まるかと思ったわ。
でも、彼は私と違って冷静だった。まるで私が来るのを知っていたかのように。
「もう、ここへ来ちゃ駄目だ」
彼はおはようの挨拶も無しに、そうとだけ言ったわ。
諭すように、左目一つで私の両目を捕らえてた。
「わかったわ…」
私は、そうとしか言えなかった。
拒否権なんて、そこには存在しないように思えたもの。
「次はいつ、会えるの…?」
それでも、私は彼に会いたくてそう聞いたわ。
「また、会えるさ…。早く、自分の部屋に帰りな…」
彼はずいぶん眠たそうに、眼帯をしていない方の…左目を擦りながら言った。
「おやすみなさい…。またね…」
何度も振り返りながら去って行く私を、彼はしばらく呆れたように見てたわ。
それから。
「ああ、またな…」
ついに彼はそう言って、最後に微笑んだの。
それを見て、私は急に満たされた気持ちになって、スキップしながら部屋へ帰って二度寝したわ。いのりが何度声をかけても起きないくらいにね。
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