一人紡いでいく懺悔

 ——。


 アリアの治療。

 静寂な谷の底で、ひとり施術を続けていた。

 夜も寝ずに、ひたすら損傷部位の修復にいそしんだ。


 ひとつ、ひとつ。


 骨が砕けていれば、散らばる破片をはめ合わせ。

 肉が裂けていれば、筋肉の繊維をつなげ。


 数えればイヤになる程の処置を、ひとつずつこなしていった。


「……はぁ。ひとの命ってなんだろうね」


 アリアの手の形成が8割程度終わった頃には、空が明るくなっていた。

 体全体から見れば、まだまだ全然進んでいないのに、こんなにも時間が経っている。

 まだまだ続く気の遠くなる作業量に、思わず文句がこぼれ出てしまう。


 ひとつひとつ治していけば、じきにアリアの体は出来上がるだろう。

 ……でも、それだけでアリアは戻ってくるのだろうか。


 これでは、人形を作っているのと変わらない。

 組み立てただけで戻ってくるとは、直感的に思えないのだ。


 結局、生き物ってどういう存在なんだろう。

 骨と肉と血管と皮が正しい位置にありさえすれば、そこに心が生まれるのだろうか。


「まあ、考えていてもしょうがない」


 いったん集中を解き、エルフの体に触れ、魔力を抜き取った。

 骨、筋肉と、工程がひとつ終わるたびに、エルフから魔力を補給しないと、続けていられない。

 そして、補給のついでに様子見もしている。

 補給箱がなくなると、治療が一気にやり辛くなる。

 元気でいてもらわないと困るのだ。


 踏みつけているアタマから足をどかせば、普通は私の名を呼ぶ音がするのだが。

 今回は反応がない。

 ただ、寝息が聞こえてくるから、首環で分析するまでもなかった。

 魔剣が体に刺さったままだというのに、呑気に眠っているようだ。


 まあ、どうなろうが道具に情を移すことはない。

 気にせず次の作業に取り掛かる。


「次は皮、か……」


 口に出すと、人間をモノとして扱っている感覚がいっそう強まる。

 ここを治せば、ひとまず「肉塊」から「アリアの一部」として見られるようになるだろう。

 ……手だけ、だけど。

 

「また半日かかるかな」


 ここまでの時間と合わせて丸一日かけても、治療が済んだところは右手のみ。

 人形と割り切って作っていくにしては難易度が高すぎる。

 人間の体とは、複雑怪奇なものだとつくづく思う。


「まあ、時間はたっぷりあるさ」


 休憩終わり。

 目を閉じて、再び全ての集中を治療に向ける。

 膨大な量の情報にも慣れてきたし、治せば治す程情報が減って、よりラクになるだろう。

 アリアもどんどん元のかたちを取り戻し、私のモチベーションも上がっていく。


 辛いのは今だけ。

 頑張ろう。



・・・・・・・・・・・




 ——。


「…………マズい」


 顔に直撃する光と熱。

 それが真上から降り注ぐ日光だと気付くと同時に、眠ってしまったことを自覚した。


 いくら王の遺産のチカラを手に入れたとしても、人間は人間。

 お腹は空くし、眠くもなる。

 そんな当たり前のことを忘れるくらい、今の私がどういう存在なのかを見失って、作業を続けていたようだ。


 ただ、いまさらエリスを頼るワケにも行かない。

 幸いなことに、私が寝ている間にエルフが動いた形跡はない。

 しっかり拘束できていたようで、ひとまず安心。

 でも、ここから私が動いたときには、エルフが逃げ出すかもしれない。

 それもここから移動できない理由のひとつだ。


 水魔法を使い、アタマから水をかぶる。

 顔を洗って気分転換。

 全部、餓死しそうになってから考えよう。 


 もしかしたら、餓死すらできない体なのかもしれない。

 欲求はあっても、おろそかにしたところで肉体に影響はない。

 精神だけがダメージを受けるのだ。


「……どれだけ寝たんだろう」


 最後の記憶は昼。

 今も昼。

 体感としては、数十分の居眠りではなく、丸一日くらい経ったように思う。


「なんか、ヘンなにおい」


 おフロに入っていない自分の体のモノかと思ったら、においの元は違う場所に。

 目の前から。


「……もう。お姫様の出していいにおいじゃないぞ」


 アリアの体から漂ってくる、鼻をつくようなにおい。

 寝ぼけていた私は、その意味を理解していなかった。


「治ったら、一緒におフロ入ろうね」


 治療をしようと首環に魔力を通し、アリアの状態を確認——。




「………………え」


 治療が終わったハズの手の位置に、損傷のマークが付いている。

 まだ治療をしていないところは、もっと増えていた。


「ちょっと、待って」


 こうして見ている間にも、あちこちで新たな損傷部位が生まれていく。


「止まって、ちょっとアリア、何やってるの……!?」


 混乱して、アリアが自分で傷つけているのかと勘違いする。

 もしかしたらエルフの仕業かと、髪を引っ張って何回も地面に叩きつけるが、それでも止まらない。


「リ、リル……、ん、それ、激しいんよ……」

「うるさい!」


 どうしていいかわからなくなって、増え続けるマークを目で追うばかり。

 増えすぎて、アリアの体が矢印に覆われてしまう。

 ぎゅうぎゅう詰めの損傷箇所。

 もう増えているのか止まったのか分かんない。


「はあっ、はあっ……!」


 息が苦しい。

 深呼吸をして、ムリヤリ息を整える。

 歯を食いしばって、暴れそうになる体をおさえつける。

 そうしてやっと、傷が増えた原因を首環に教えてもらえばいいのだと悟った。


 アリアの手に発生したマークの、詳細。


「ふはい……」


 腐敗。

 腐ること。

 ナマモノは腐ってしまう。

 当たり前の常識。


「そんなすぐに……?」


 寝ていたとしても一日二日のこと。

 それだけで、ここまで痛んでしまうことが、信じられなかった。

 信じたくなかった。


「え、だって、手、治すのに、一日かかったんだよ……!」


 誰かがいるワケでもないのに、言い訳してしまう。

 心臓が大きな音を出して荒ぶる。

 体を治す速度と、腐っていく速度が違うということ。


「…………は?」


 こっちを治してもあっちがダメになる。

 物理的な損傷とは違って、腐敗はもっと、細かいところで治療が必要。

 対象は体を構成する小さな袋。

 そのひとつひとつにマークが立っている。

 袋の中には、沢山の内容物があって、それら全てが、壊れ、どろどろに溶けている。


「そ、そんなのっ!! どうやって治すんだよぉぉっ!!」


 初めて知る人間の構造。

 知らない桁の数の項目。


 103927592058:腐敗。

 108423492080:腐敗。

 158277102185:腐敗。

 243858297849:腐敗。


 どんどん増えていく。

 すごいはやさでふえていく。


「止まれ、止まってよ!!」

 

 アリアの全身に立った印をかき消すために、その印を叩く。

 それは私にしか見えないシグナル。

 腕を振り下ろせばアリアの肉の感触が、自分の手に伝わってきた。

 いくら叩いても腐敗が止まるワケもなく、アリアの体をさらに壊しただけ。


「……ぁ、ぁあ」


 無慈悲に増えていく損傷部の数に、打つ手がない。

 上げた手は目標を失い、自分の太ももに落ちていく。


 二回目の挫折。

 最初に圧倒された時とは比にならない絶望感。

 理解した事実を、言葉にしたくなかった。


「リルフィちゃん? が、頑張ってね……! 手を動かさないと終わらないよ……!」


 応援しているようで、煽りでしかないリリーの言葉。


「治せるって、言ったよね……」

「できるよ……! リルフィちゃんなら、きっと!」


 そう言うリリーに向けられるものは、契約の時に見せた顔と全く同じ。

 他のひとみたいに、光を失った瞳を向けられる方がまだ安心できたかもしれない。

 そうすればリリーの言葉が嘘だったのだと、こっちが勝手に察するから。

 でもそうじゃない。

 私がモタモタしているのを咎めるような、リリーの笑顔。


「じゃあ、やり方を教えてよ……」

「ご、ごめんね? しつこいかもしれないけど、契約者以外を治すのは、本来の機能じゃなくて、お姉さんもできるって言っちゃったけど、本当は初めての試みでね、それでね……」


 要するに正攻法は説明できないという内容を、長々と語られる。

 遮る元気も出ず、それを聞き流した。


「アリア、くさいよ……」


 意識すると、みるみる腐敗臭が気になってくる。

 言葉に出すほど強い刺激が、私の肺に満ちていく。

 目の前のモノに、触ってはいけないのだと、本能がアリアを避け始める。


「ぅぅぅぅ〜〜!」


 じゃあやめるのか。

 やめて精霊たちに好き勝手されるのか。

 八方ふさがり。

 やっぱりやめるワケにはいかない。


「なんでもいいからはやく生き返ってよ……」


 涙をほろほろ落としつつ、やけになって治療を再開する。

 もう、多少壊れていてもいい。

 腕なんて放っておけばいい。


 だって、アリアもよく、自分の腕を切ったり繋げたりして、平然としているじゃないか。

 魔法の攻撃でボロボロになった私でさえ、まだ生きているし。


 どこか大事なところを治せば生き返るんだ。

 きっとそういう部位がある。

 生き返るまで何回もくじ引きすればいい。


 首環を使いながらチマチマ修復するのは諦めた。

 自分の目で見てわかる箇所を治すことに。


 まずはアリアの顔が見たかったから、見た目だけ治してやる。

 入れ物がしっかりしていれば、中身がぐちゃぐちゃでも生き返るかもしれない。

 ちぎれた皮を手繰り寄せ、腕輪のチカラでつなぎ止める。

 ちょっとずれたけど気にしない。

 生き返ってから回復魔法で好きなように切り貼りすればいい。


 皮をムリヤリつなげるだけなら、腕輪のチカラでも大した労力じゃない。

 日が落ちる前に全部終わった。


 一応、アリアっぽい器ができた。


「アリア、アリア……!」


 ようやく肉塊から死体へと変化したアリアの頭部。

 そのかたちに、私の心も反応した。

 漂う腐敗臭はいまだ気になるけど、アリアの頭部を抱いた。

 ぐにゃりと、骨がないから柔らかい。


 感触はまだ肉塊で、一瞬だけ芽生えた感動が消え、アリアを元の位置に戻した。


「はぁ……。モノと人間の違いってなに……」


 見た目が治っただけで心を動かされた。

 どうしてそうなったのか。

 アリアの顔を見て、これまで一緒に過ごした記憶を思い出し、今の変わり果てたアリアとの差に心がいっぱいになった。


「心ってどういうことなの……」


 早くも治療への集中が切れ、連鎖する自問自答へと入り込んだ。

 手がかりを見つけるために、手身近な対象へ意識が移動する。

 

 ……魔剣を刺して、体が壊れかけているエルフは、押さえつけた手を離せば途端に喚き始めるはず。

 そして私が離れれば、おそらく死も顧みずに魔剣から逃れ、私を追ってこようとするだろう。

 このエルフは平気でそういうことをする、狂った存在だ。

 肉体が果てたって、心には関係ないのだ。

 死んでしまうと、心を表現する手段がなくなるだけ。


 精霊なんて、肉体がないようなものなのに、どれも自己主張が激しい。

 精霊にとっての肉体は、私が身につけている剣や首環。

 つまり、心が独立して、エリスやフローラというヒトガタを形成している。


 心と肉体は別に存在できるという実例。


 なら、何を治せばアリアの心が戻ってくるんだ。

 疑問が振り出しに戻ってしまった。


 ……とにかく、生きてさえいればいい。

 生き物の根幹を担う心を治せば、蘇生したことになるんじゃないか。

 生き返れば、回復魔法が効く。

 回復魔法が効けば、細かいコトを気にせずに修復できる。


 なんとかして、アリアの心を取り戻そう。


「……ふぅ」

「ど、どうしたの? やめちゃうの?」


 一呼吸置くと、リリーがすかさずネガティブな言葉を放った。

 生き返らせる目処が立った今、そっちの相手をする余裕はない。


「……例えば、魔力を入れる器を作って、そこにアリアの心がおさまれば」


 精霊も同じ仕組み。

 まず人間のかたちをした器があって、そこに心が宿っている。


「……いけるかも。うん、できる」


 成功しないと困る。

 何の根拠もない仮説だけど、やってみないと分からない。


「中身なんて放置だ。とにかくキズをふさごう」


 顔を治したように、すぐに他の部位も治し始める。

 入れ物に穴が開いていたら、心も逃げて行ってしまう。

 勝手に作り上げた仮説を信じて、作業の手を早める。


 変色したお腹の中身を押し戻し、大きな亀裂を思いっきり引っ張り合わせて繋いだ。

 足も手も、一気に修復。

 一度着いた火はとどまることを知らず、すぐにアリアは人間の形を取り戻した。


「はは、ぶっさいくー」


 とにかく表面のキズをふさぐことだけに気を回していたから、皮の張り方がイビツになっている。

 まるでボロ布を貼り合わせて作った人形だ。


「じゃあ、心を取り戻してもらいますか」


 どうやって戻すか、皮を貼り合わせている間に考えておいた。

 王の遺産の精霊は、魔力のカタマリ。

 魔力だけで動いている。


 逆に、魔力を失った人間は廃人となり、人形となってしまう。

 要するに、心は魔力にやどるのだ。


 大量の魔力を器に注ぎこめば、そこに心が生じる——。


「さ、魔力溜め、最後の仕事だよ」


 エルフのアタマを鷲掴みにして、一気に魔力の流れを解放する。

 私の手と、エルフのアタマの境目をなくすイメージ。

 それをした瞬間、視界が星でいっぱいになった。

 エルフの魔力に、五感が覆われる。

 高いところから低いところへ水が流れるように、膨大な量の魔力が自動的に流れ込んできて、めまいがする。

 気持ち悪くて、吐き出すものもないのに吐いて、アタマの中で痛みが暴れる。

 こんなモノを抱え込んでいるなんて、エルフの体の構造はどうなっているんだ。

 大過剰な魔力量に脳ミソがパンクしそうで、実際に血が吹き出てくる。

 腕輪による修復と拮抗してミシミシ聞こえる。


「グぅぅぅ……!!」


 アリアに、渡さないと。


 自分の中の魔力をおさえつけるのに全神経を注いでいて、本来の目的を忘れていた。

 自分のコトは放っておいて、ゆっくりとアリアに手を伸ばす。

 

 一生の時間を何周もしたような感覚。

 実際に、エルフの魔力に何度も殺されて、その度に腕輪に引き戻されているのだろう。

 先にアリアに触れておけばこんなコトにならなかったと後悔するも、すぐに意識が飛んで別の思考に切り替わる。

 魔力が渦巻き、私の人格を別のものに置き換えようと侵食してくるのだ。


 必死に自分を保ち、必死に指を動かし、必死という言葉通り何度か死んで。

 アリアに、届かせた。


 左手から吸収して、胸のあたりとアタマに溜まっていた魔力が、今度は右手から出て行く。

 ラクになるかと思いきや、急な流れは私の体をもっと傷つけていく。

 細い道に、通ってはいけない量の魔力が駆け抜ける。

 私の中身もアリアと同じように、ズタズタに引き裂かれているようだ。


 中身のないアリアに、容赦なく魔力が注ぎ込まれる。

 意識があれば、きっと私と同じような苦痛を味わっただろう。

 体が壊れていなければ、大きな魔力に全身の血管が破裂しただろう。

 しかし今のアリアには全部関係ないコト。


 自分の目から、鼻から、血が滴り落ちてくる。

 体温と、私という人格が流れ出てしまいそう。


「……ぅぁー」


 今の一瞬で、確実に「私」がどこかに行って、残された体から反射のような声が出た。

 意味のあるものではなく、魔力にアタマを揺さぶられて誤作動を起こした私の喉。

 細かな異常を発しつつも、すぐに腕輪に修復され、自分と自分じゃない状態を行き来する。


 それでも、エルフとアリアを繋ぐ手は絶対に離さなかった。

 しばらくして、エルフから私、私からアリアに流れる魔力が安定する。

 息苦しさは感じるけど、慣れたと思い込む。


 アリアの体に魔力が溜まってくると、移動する魔力も少なくなって行く。

 やがて私たち3人の中で均一になり、自動的に流れも止まるだろう。


「……戻って、きて」


 思い浮かべるのは、アリアと過ごした日々。

 旅をしてきて、アリアのコトをいっぱい知った。

 知れば知るほど、アリアに惹かれていった。

 

 この記憶もアリアの心の形成に役立てばと、たくさん思い出して、流し込むイメージをする。


「ふたりで幸せに、なろうよ……!」


 目から滴る液が、赤から透明に変わる。

 記憶が戻って封印されていた感情が、今になって戻ってきた。

 アリアが死んだ。

 生き返らないかもしれない。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!


「……!」


 動きがあったのは、エルフの方。

 全身が痙攣し始めて、魔力の供給が少なくなる。


「まだダメだよ……! アリア生き返ってない!」


 しかし、魔力の流れは段々と細くなり、糸となり、潰えてしまった。

 エルフを叩いても反応がなくなってしまった。


 これ以上は、逆に吸い取られる危険性がある。

 手を離さざるを得なかった。


「ど、どうしよう」


 散々注ぎ込んで、アリアと私の魔力量も、同じくらいになってきている。

 それでも、人間の持つ魔力としては桁外れの量だけど、一向にアリアの心は戻らない。


「アリアぁ、戻ってきてよぉ!」


 アリアのぶよぶよの体を抱き寄せて、生命の灯火を少しでも感じようと全身を密着させる。


「か、回復魔法を……!」


 生きていれば、回復魔法が効くハズ。

 学生レベルの下手な回復魔法を、アリアにかけた。

 初級魔法では回復量が少ないけど、それしか知らない。

 それでも、つい最近になって修得した無詠唱と、有り余る魔力を使って、何度も何度も同じ魔法をかけた。


「戻れ、戻れぇぇぇぇ!」


 アリアには私を連れ出した責任をとってもらわなきゃならない。

 まだまだその罪を償う期間は終わってないのだ。

 死んで逃げるなんて絶対に許さない。

 懲役は、私が死ぬまで。


「アリアァァァァッッ!!」


 ————裏返った声で、カッコ悪くアリアの名を呼んだ瞬間。

 アリアの体が、動いた気がした。


「っ!?」


 確かに動いた。

 絶対に動いた。


「アリア?」


 首環のチカラで、すぐに状態を確認する。


 ーーアリア・ヴァース・C・C・エルフィード。

 状態、危篤。

 所持している中級回復魔法の魔法石により、治癒が進行中。


「……あ、生き返った……」


 緊張の糸が、ぶちりと切れた。

 蘇生は成功。

 私の予想は間違っていなかった。


 それで、アリアはひとりでに回復している。

 魔法石が何なのか分からないけど、アリアは自分を治療する術を仕込んでいた。

 心さえ戻れば、私は用済みだったのだ。

 私の回復魔法は、動かないアリアのものより劣っている。

 やってもほとんど意味がない。


「……かなわないや」


 私が何もしなくても、もうアリアは自動的に戻ってくる状態。

 あっけない。

 首環を使ってその魔法石とやらを探し、情報を得る。

 ボロボロの服に絡まっていたそれに、余った魔力を注ぎ込んでおく。


 疲れ、安心、魔力酔い。

 色々な理由で、私の体はもうこれ以上、動かない状態になっていた。

 チカラが抜けて、後ろに倒れ込む。

 腕輪はキズを癒してくれるけど、精神はどうにもならない。

 結局、生き返らせるのにも腕輪はそこまで使えなかったし。

 今回はハズレを引いたと心の中で不満を言いながら、眠りについた。

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