地下街
隠し扉の向こうから現れた男に連れられて、その道の先にいくことになった。
もう少しでリルちゃんを襲えるところだったのに、また邪魔が入ってしまった。
なんかカミサマとかがわたしたちの恋路を邪魔してんの?
殺すよ?
今度こそリルちゃんの腕を離さないように抱いて、先の方にある淡い光へ向かう。
いままで通ってきた道よりも狭い通路を、男に触れないように5歩ぶん離れて、歩くこと数分。
通路を抜けると、広大な空洞があった。
王城がまるまるおさまってしまいそうな、広い空間。
私たちが立っている高台から下をみまわすと、所狭しに建物が詰められている。
上は、どれだけ手を伸ばしても届かないくらい高いところに、岩石が見える。
そして、この広い空間でも遠くまで見渡せるのは、火事と錯覚するくらいに満たされた、街のあかりである。
男の言っていた「地下の街」とは、まさにこの場所のことだ。
街の細かいところまでよく見てみれば、いっぱいの人間がうごめいている。
ダンジョンの中だということを忘れてしまいそうな活気。
そんな光景に、リルちゃんと一緒に見とれていると、男が高台の先に立った。
そして大きく息を吸い込み、街じゅうに響くような声で、叫び始めた。
「レディースアンドジェントルメン!! 今日はこの街に新たな仲間が増えたぜっ!! 見てみろっ! 可愛い子猫ちゃんたちだ!! 何があったか知らねえが、デカイことしでかしてきた目をしてるぜっ!! よろしくやって行こうじゃねえか!!」
男の声に、街が静まる。
わたしたちはあまり人前に出ていけないから、リルちゃんがわたしの手を引いて、逃げようとした。
しかし、男がわたしの襟首を掴んで、隣に立たされる。
リルちゃんも男に引き戻されてしまった。
この男、リルちゃんに乱暴したこと、覚えてろよ。
男の演説に、しばらくの静寂ののち。
『ウオォォォォォ————!!』
男の声に反応するように、街からひとつの歓声が挙がった。
『ウオォォォォォォォォォオオォォォ————!!』
そして、池に石を投げた時のように、歓声の波が広がっていく。
声以外にも、地面を足でふみ鳴らしたり、木の棒で金属を打ったりする音も混じってくる。
街全体が、わたしたちの来訪を祝っているような雰囲気。
「ははっ。いつ見てもこの街の一体感はいいものだ」
男は腰に手をやって、歓声が止むまで街を眺めていた。
「……知ってるからここに来たんだと思うが、紹介しよう。ここはレフォーマ。日の目を見られなくなった犯罪者が、コソコソと暮らす街だ。よくここまできたな」
犯罪者の街。
なんて都合のいい場所なのだろう。
男は、わたしたちがあらかじめこの街の存在を知っていたかのように言うが、まったくの偶然だ。
たまたま手をついたところが隠しスイッチで、たまたまたどりついた場所が
そんなありえないような偶然を引っぱってくるんじゃなくて、もっとリルちゃんとイチャイチャさせろよ。
「ここなら出歩いても大丈夫だ……! アリア、なんでも知ってるんだね。すごい!」
「え、あ、うん、まあ……」
リルちゃんに褒められたけど、ふくざつな気分。
でもリルちゃんが肩に手をのせてくれて幸せすぎる。
「でもみんなを置いて来たのはダメだよね。めっ!」
「いたっ」
リルちゃんがわたしにデコピンをしてきた。
さいきんのリルちゃんはこういうスキンシップも多い。
おでこに残るじんじんとした痛みは、リルちゃんを感じる時間が長引いてうれしい。
リルちゃんもまんざらではない様子。
これを指摘すると、リルちゃんがなぜかしばらくふさぎ込んでしまうので、この幸福は心の中に秘めておく。
「俺とはここでお別れだが、ここレフォーマでは守って欲しいルールがあるんだ」
リルちゃんとのひと時に水をさすように、男が関係ないことを抜かし始める。
「まあ、簡単なルールさ。ひとつはこの街の場所を外の人間に漏らさないこと。もうひとつは他人の過去を詮索しないこと。楽しく暮らすにゃあ、これだけは守らないとな」
言うだけ言って、高台の頂に立っていた男が、街の方へ降りていく。
街の人間の注目を浴びるのもイヤだから、とりあえずその後ろを追って、若干急な坂道をくだった。
「んじゃ、俺の家はここだから。またな」
男は軽く手をふって、街の入り口にあるほったて小屋に入っていく。
わたしたちはほとんど何もわからないまま、取り残されてしまった。
「アリア、これからどうすればいいの?」
うーん。
しかたない。
「あ、あれ? 街に行かないの?」
リルちゃんの手をとって、来た道を戻ることにした。
邪魔者がいなくなったからさっきの続きをしようね。
しかし、カミサマは許してくれないらしい。
登りにくい坂道を、滑らないように一歩踏み込んだ途端、家に入ったはずの男が前をふさぐ。
「おう。ちょっと街でゆっくりしてけや。頻繁に出入りされるとこの場所、バレるぜ?」
正直、魔法でも放って追い払いたかった。
でも、男に攻撃をすれば、手痛い反撃をくらいそう。
男の言葉に、わたしの心臓をわしづかみするような息苦しさを感じたのだ。
これが殺気というものならば、男の実力は計りしれないものがあって、手を出すのは危険。
男に肩を押されて、街の方へ戻される。
いつの間にかくるっと半回転していて、街が近づいているなあと感じて、そこでやっと自分の足が動いているのに気づいた。
抵抗をする暇がなかった。
どんな魔法を使ったんだ。
そう思うくらい、鮮やかな手つきだった。
「とりあえず、宿屋に行きなって。カネがなくとも泊めてくれっからよ」
そう言って街の中を指差し、わたしの背中を叩いてくる。
こいつ……。
気安くさわるなと抗議をするべくふり返ると、男の姿はすでに消えていた。
なんなのあれ。
「リルちゃん、いくよ」
「う、うん」
指し示された方向とはちがう方向へ、リルちゃんと歩き出す。
宿屋なんかどこにでもあるでしょ。
男の指図を受けるのは気にくわないから、わたしがいいところを探してやる。
宿屋ならぜったいに二人きりになれるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます