アサガオのせい
~ 八月九日(水) 藍川100、秋山100 ~
アサガオの花言葉 貴方に私は絡みつく
駅前の個人経営ハンバーガーショップ、ワンコ・バーガー。
今日は都合により十八時から貸し切り。
そのパーティー会場で俺と仲良くお座敷の上座に座る、
今日は軽い色に染めたゆるふわロング髪を頭のてっぺんに巻いて、そこに、支柱に絡まったアサガオを挿している。
だからね。
そのピンク色の支柱はおれんちのだってば。
明日でバイトを終える俺と穂咲。
そんな俺たちの為に、店長とカンナさんが常連さんを集めてパーティーを開いてくれたのだ。
嬉しいけど、恥ずかしいや。
「それにしても、二人のおかげで助かったよ。ほんとにありがとう。バイトを始める前にした約束通り、お給料は明日あげるからね」
店長は俺たち二人にお礼を言いっぱなしだ。
これ、居心地が悪いのです。
「店長、もうお礼はいいです。既にありがたみを感じない回数に到達してます」
「いやいや、だって、こんなに常連さんが出来たのも秋山君あってのことだし」
ん?
「それは穂咲のおかげです。俺は何にもしてませんよ?」
うんうんと頷く一同。
照れる穂咲。
慌てる店長。
「それにほら、お年寄り席とか」
「それも穂咲のおかげです。俺は何にもしてませんよ?」
うんうんと頷く一同。
照れる穂咲。
以下同文。
「お花を挿した店員さんで話題になって……」
「穂咲のことですね」
「トマトブリトーとか……」
「わざとでしょうか?」
うーん、店長がひきつった笑顔のまま固まってしまった。
カンナさんは厨房にいるからこの状況を何とかできるのは俺しかいない。
「じゃ、せめて得意な呼び込みでもしてきます」
俺が席を外せばよかろう。
そんな冗談と共にトイレへ行こうとしたら、店長に引き留められた。
「まって! えっと、あのサービスとか、ほら! 当店自慢の名ゼリフ!」
「なんかありましたっけ?」
「ご一緒に、ポテトもどうぞなのでお馴染みのワンコ・バーガー!」
「なのって言っちゃってるじゃないですか。それもこいつの功績です」
うーん、意地悪してる気は無いんだけどな。
皆が笑いをこらえてる中で、店長だけ針のむしろみたいになっちゃった。
「結果、いい宣伝になったとはいえ、ポテトをただで配り始めた時はどうしたもんかオロオロしたよ」
ここは、話題をこいつへ逸らすことにしよう。
俺が話しかけると、穂咲はポテトをもぐもぐしながら首を振った。
「今ならちゃんと言えるの。もうベテラン店員さんなの」
「ほう? じゃあ、言ってごらんなさい」
「ハンバーガーとポテトとご一緒に、道久君もどうぞなの」
「悪化したね」
これには一同揃って爆笑だ。
もちろん笑われている本人と、バーガーとセットで無料配布されそうになってる俺だけは笑ってないけど。
「俺は抜きなさいよ。なんで入ってるのさ」
「えっと、道久君抜きのハンバーガーとご一緒に、ポテトもどうぞなの」
「そこから抜くんじゃなくて。それに、結局ポテト配ってるぞ?」
「ポ、ポテト抜きのポテトとご一緒に、ポテトもどうぞなの」
やれやれ。
そう言えばバイトの間中、こんな感じでずーっとこいつの面倒をみていたな。
「店長、俺が役に立ってたもの、見つけました」
「そうだね。秋山君がいなかったらどうなっていたやら。本当にありがとうね」
店長とがっちり握手。
これで心置きなくお給料をいただけます。
「えっと、あたしとご一緒に、道久君もどうぞなの」
そうだね、それが正解だ。
…………って、ちょっと待て。
なんか恥ずかしいぞ、それ!
うんうんと頷く一同。
真っ赤になって照れる俺。
以下同文。
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