ホテイアオイのせい
~ 八月七日(月) 藍川1050、秋山250 ~
ホテイアオイの花言葉 移りやすい恋の悲しみ
駅前の個人経営ハンバーガーショップ、ワンコ・バーガー。
その二台のレジ。
隣に立っているのは、昨日瓶を割ったことも、ポテト用ミートソースにホットソースを大量に入れて店長に食べさせたことも、ぜーんぶ俺のせいにしたにっくき
軽い色に染めたゆるふわロング髪をうなじの辺りでゆったりお団子にして、今日は薄紫色をした六枚の花弁、その一枚だけに模様が浮き出る不思議なホテイアオイの花を三つほど挿している。
そんな珍しい花を写そうと、お年寄り席からひっきりなしにパシャパシャとシャッター音が鳴り響く。
ついさっきまで開催されていた携帯カメラ講習会のたまものだ。
そしてシャッター音に紛れるように聞こえてきた、十一時半を知らせるアラーム。
俺はおばあちゃんたちを解散させると、お座敷をかたずけ始めた。
皆さんは今日も楽しかったと、帰り際に夕飯用のお惣菜を買って笑顔でお店を後にする。
そんな後姿を見送りながら、こんな老後、ちょっといいかもと感じていた。
俺が爺さんになっても、このお座敷が残ってると良いな。
その時にはおばあちゃんになった奥さんと一緒に来るのかな?
ちょっと想像がつかんが。
それに、一緒に来ることになるお相手って……。
なんとなくレジの方に目を向けると、ドリンクも、バーガーも、お釣りさえピッチングフォームでお客様へお渡しするバカの姿がそこにあった。
うん。なんかいろいろ台無し。
しかし穂咲のやつが俺とキャッチボールしたかったとか、予想外だ。
あさってに飛んだボールを追いかけて走り回る遊びをキャッチボールと呼ぶかどうかはかなり怪しいけど。
お座敷を畳んだスペースにテーブルと椅子をセットした俺は、お客様の列が途絶えている隙に、穂咲へ声をかけた。
「最近見たドラマに野球物でもあったのか? なんで急にキャッチボールなんてやりたくなったんだよ」
「急じゃないの。昔からなの。あと、別にあたしがやりたいわけじゃないの」
「…………待て。別に俺も、お前とキャッチボールなんかしたくないですよ?」
「キャッチボールしたいお相手、道久くんじゃないよ?」
え!? ちょっと待て、何か雲行きが怪しい。
まさか一学期の間に野球部の誰かが気になったとかそういうことじゃあるまいな?
だとしたら、キャッチボールの練習に付き合わされる俺って……。
「パパがね、キャッチボールしたかったみたいなの」
「………………ああ! おじさんか! そうなんだ、そりゃあよかった!」
「良かったの? 何がなの?」
「なんでもないです。そう言えば、おじさんに誘われたことあったな、多分断ったと思うけど。でも、キャッチボールなんてどうやる気?」
「お盆にね、お墓参りに行ったときキャッチボールしようと思うの」
「うそでしょ? 墓石と?」
うん、じゃねえですから。
ほわっと幸せそうな微笑み、とかじゃねえですから。
それはダメです。
周りにいる人が通報するって。
そもそも君が行くと、お花泥棒と間違われるんだから。
「だからね? 道久くんに、キャッチボール教えて欲しいの」
「人並のコントロールをお前に授ける自信がありません」
「そうなの? じゃあ、野球部の人にお願いするの」
「実は、今のキャッチボール世界チャンピオンにフォームを教えたのは俺なのだ。すべて任せておけ」
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