パイナップルのせい
~ 八月四日(金) 藍川950、秋山850 ~
パイナップルの花言葉 あなたは完璧
駅前の個人経営ハンバーガーショップ、ワンコ・バーガー。
その休憩室。
隣に座っているのは、新商品開発に余念のない
軽い色に染めたゆるふわロング髪が、今日はパイナップルに結ってある。
でも、たぶん誰もが想像するパイナップルとはちょっと違う。
頭の上にパイナップルを乗せて、それを髪で結わえているのだ。
これはもう髪形じゃない。
ただのお中元だ。
そんな新商品開発チームの主任は、新作の蜂蜜たっぷり大学芋をカンナさんに味見してもらっている最中。
俺はここまで甘いものはちょっと苦手なので、正直助かっています。
「大学芋はありだな。コスパがいい」
「へえ。サツマイモって高いイメージあるけど」
「一本から何食分作れると思ってるんだよ。じいさんばあさんからあんまり金を取っちゃ可哀そうだから、同じ金額設定でバーガー以外の品をいくつか置かねえと。よし、穂咲。次は若造から搾れるもん考えろ」
そう言われるまでも無かったようだ。
穂咲は、ホットソースと共にミートソースのようなものを出してきた。
「ああ、トマトの余った部分をミートソースにしたのか。でもこれ、どうすんだ?」
「ミートソースポテトなの」
なるほど、これは上手いね。
でも、ホットソースはやめた方がいいよ?
カンナさんはミートソースの入った器とポテトを持って、休憩室から出て行った。
店長に味見させるつもりだろうけど、あの人の味覚、あてになるの?
「あ、これも無いとだめなの」
そう言って、穂咲がホットソースの瓶をぶら下げながらぽてぽてとカンナさんの後を追う。
これは阻止せねば、また時給が下がる。
穂咲だけならいいんだけど、絶対俺にもとばっちりが来る。
「穂咲。俺もミートソースポテト食べたいんだけど、ホットソースちょうだい」
「だめなの。店長さんが先なの」
倒れちゃうよ、店長。
「お前がなんでバイト始めたのか一緒に考えてやるから。ほら、こっちにパス」
そう言って両手を構えると、穂咲はぱあっと笑顔を浮かべて俺に興味を示した。
小細工を仕込めばこんなもんだ。
こんなの簡単に予想できる。
でもね、君が放り投げた瓶がめちゃめちゃ遠くまで飛んでガチャンと割れたのは予想外。
「…………そこまでノーコンだったっけ?」
いや、運動神経がちょうちょ結びな君じゃこれが当たり前?
「あ! これなの! 思い出したの!」
「なに? バイトの目的、ソースの弁償なの?」
瓶の破片を拾うために、何の道具を使ったらいいのやら。
悩んでいた俺の手を握った穂咲は、楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。
「キャッチボールなの! 凄いの道久君、なんで分かったの? 完璧超人なの!」
「こ、こら。手を握りなさんな。でも、キャッチボールするためにバイト?」
「グローブとボールが一個ずつ欲しかったの」
「……グローブ、一個じゃ足りないだろ」
「だから道久君もバイトに誘ったの」
こうして、俺の初めてのお給料で買うものが強制的に決められた。
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