ギンセンカとキンセンカのせい
~ 八月三日(木) 藍川900、秋山900 ~
ギンセンカの花言葉 ういういしい愛
キンセンカの花言葉 さびしさに耐える
駅前の個人経営ハンバーガーショップ、ワンコ・バーガー。
その座敷席で子供に絡まれて目を回しているのは、
軽い色に染めたゆるふわロング髪に二つのお団子を作り、それぞれにキンセンカとギンセンカをこれでもかと突き挿している。
今日は情緒も何もない。
ただただ、バカである。
そんな穂咲は、朝からご機嫌だった。
よっぽどドラマが気に入ったらしく、通勤途中も俺に夢中で解説しながら、最後には感極まって泣き出す始末。
そんなに感動するなら俺も見てみようなどと、ついさっきまで呑気なことを考えていたのだが……。
「今日は泣きっぱなしだね、君は」
「うう、お花を抜いちゃダメなの~」
今日はおばあちゃん席に、お孫さんが一人混ざってる。
子供はバーガー店にとって神様みたいな存在だ。
これはビジネスチャンスとばかりにカンナさんがお相手を命じたのが穂咲だった訳なのだが、それはちょっとばかり人選ミス。
穂咲は子供が大好きなのでちょろちょろ寄っていく。
そして仲良くなっては、こうしていじめられてしまう不憫な生き物なのだ。
「カンナさん、子供も集めようとしてるみたいですけど、俺たちがいなくなったらどうする気なの?」
「大丈夫。早速何人かスカウトしたら快く引き受けてくれたよ」
そう言って指差す先は、お座敷席。
「ああ、なるほど。おばあちゃんを雇うのアリですね」
おばあちゃんの相手はおばあちゃんという訳か。
子供の面倒もみてくれるだろうし、いいと思うなあ。
「で、昼からは若いバイトに来てもらえばいい。高校生とかに、じいさんばあさんの相手させるのは可哀そうだからな」
言ってることは正しいけど、やってることが違うのはどうなんでしょ。
穂咲、ギンセンカを全部抜かれて半べそかいてるんですけど。
さすがに手を貸そうと俺がフロアへ出ようとしたら、おばあちゃんが一人立ち上がって男の子の手を取った。
「こら、タカくん! お姉ちゃんに謝りなさい!」
へえ、珍しい。
ちゃんと子供を叱れるおばあちゃんなんていないと思ってた。
「あの人、雇う予定なんだぜ」
なるほど、それは実に頼もしい。
そんな頼れるおばあちゃんはぐずる子供の手を引いて、穂咲の前に連れて来た。
「ほら! ちゃんと謝って!」
「……ごめんなさい」
あら素敵な光景。
俺はほっこりしながら三人のやり取りを見つめた。
「ちゃんと謝ってくれたから、もう平気なの。そのお花、綺麗?」
「うん」
「じゃあ、あげるの。お家に帰ったら、花瓶に生けてあげて欲しいの」
そう言われた子供は嬉しそうにえへへと笑って、穂咲にしがみついた。
よかったね、二人とも。
おばあちゃんに感謝だ。
でも、そんなハッピーエンドにニヤニヤしていたら、意外な形で俺に被害が降りかかって来た。
「僕、お姉ちゃんと結婚する!」
「ふえっ!? えと、その……」
よくある子供のセリフをきっかけにお座敷から沸きあがる、あらまあの大合唱。
口元を押さえながらちらりちらりと俺を見るのはやめてください。
って、穂咲も俺をちらちら見なさんな。
なんの真似ですか。
「秋山ぁ。小僧に取られちまったな~、可愛そうに」
「いやいや、なに言ってるんですか。別に俺は穂咲のことなんて……」
「あたしは花の事を言ったんだぜ? なんで慌ててるんだ? ん?」
そう言ってニヤニヤし始めるカンナさん。
くそう、男の純情を弄びやがって。
「いいんですよ。半分残ってるし」
「その残ってるキンセンカの花言って、たしか……」
「いやいや、なに言ってるんですか。別に俺は寂しくなんて……」
「『乙女の美しい姿』、だったよな? え? 何が寂しいんだ?」
「……………………客寄せ行ってきまーす」
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