オシロイバナのせい
~七月二十八日(金) 藍川1000、秋山1250~
オシロイバナの花言葉 私は恋を疑う
駅前の個人経営ハンバーガーショップ、ワンコ・バーガー。
その二台のレジ。
隣に立っているのは、新メニューの開発チーム主任である
軽い色に染めたゆるふわロング髪を二つのお団子にして、それをピンクと黄色のオシロイバナで埋め尽くしている。
今日は久しぶりに、直球勝負のバカだ。
新作、トマトブリトーは大好評。
小ぶりなせいで、一つ試しにと召し上がってくれたお客様のほとんどがその場でリピート購入して下さるとか信じがたい売れ行きだ。
午後になると口コミで訪れたお客様のおかげでさらに売れ行きが伸びて、一週間分を想定していた材料が半分も無くなってしまった。
そんなお客様の大行列を休憩も無しにさばいていると、隣のレジから甲高い声が聞こえてきた。
「あれ? 大人気だって言うから来てみたら、藍川さんだ!」
「はうっ!?」
金縛りにあったように穂咲が見つめている相手。
あれは穂咲にちゅーしようとしたお騒がせ女子、赤崎さんだ。
赤崎さんは穂咲の手を握って、ぴょんぴょん飛び跳ねながら世間話を始めた。
ちょっと、困るよ。
それに、また恋バナなの?
誰と誰が怪しいとかやめてよこんなとこで。
それに今、君が名前上げた二人、どっちも男子だよ?
さすがにこれはまずかろう。
後ろの人たちが怒り始めちゃったよ。
「赤崎さん、ゴメン、後にしてくれ。お客様の迷惑になるから」
声をかけたら、なんと逆効果。
今度は俺にも話しかけてきた。
「あ! 秋山君だ! ねえねえ、秋山君なら今の二人、どっちが好み?」
どっちも男子ですよ!
それより今度はこっちもレジが止まっちゃうってば!
完全にお客の流れを塞いでしまった赤崎さん。
どうしたものやら困っていたら、背中越しに張りのある大声が飛んだ。
「今お並びの皆様! 口頭でいいので、ご注文どうぞ! 先に作っちゃいます!」
ちょっとカンナさん!
無茶だよ何言ってるの!?
案の定、赤崎さんのせいでイライラしていたお客様八名ほどが、ばらんばらんに注文してきた。
こんなのまともに聞き取れやしない。
そう思っていた俺に、カンナさんは涼しい顔で指示を出してきた。
「秋山、ポテトSがツー、Mがスリー、マッシュポテトワン、ナゲットツー、バニラアイスツー。店長、ブリトーセブン、チーズバーガーツー、バーガースリーで一つはピクルス抜き。ドリンクはあたしが淹れるから、穂咲はレジ打って」
……うそでしょ?
今の、全部聞き取ったの?
おっと、呆けてる場合じゃない。
俺も忘れないうちに動かなきゃ。
ええと、ポテトSが二つで……。
慌ててキッチンへ入るために手を洗っていた俺の耳に、またもや赤崎さんの甲高い声が響いた。
「素敵! あたし、お付き合いするならお姉さまがいい!」
今度はレジカウンターを飛び越えてカンナさんに抱き着いてる!
ああもう、この人どうしたら?
俺と穂咲とカンナさん。
揃って絶句していると、意外にも店長が完璧な采配を振るってくれた。
「秋山君。いつものあれをお願いしてもいい?」
……おお、了解しました。
あれですね、お任せを。
嫌がる赤崎さんを無理やり引っ張って外に出る。
客寄せしながら脅威を排除だ。
彼女がいなくなるまでお店には戻れない。
けど、この暑さだ。
彼女はすぐに音をあげて、俺に文句を言いながら帰ることだろう。
そう思っていたのだが、どういうことだろう。
赤崎さんは嬉しそうな声を上げて、俺に抱き着いてきた。
「秋山君、強引! かっこいい! あたし、お付き合いするなら秋山君がいい!」
もう、君のお付き合いしたい基準がなんだか分からんよ。
炎天下だというのに腕にまとわりつく赤崎さんに心底難儀しながら、俺は丸一日、外に立たされることになってしまった。
……そしてなぜだか、いつもはうるさいくらいに話しかけて来る帰り道。
穂咲はずーっと膨れたまま、俺と一言も口をきいてくれなかった。
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