グロリオサのせい
~七月二十七日(木) 藍川1500、秋山1550~
グロリオサの花言葉 栄光に満ちた世界
駅前の個人経営ハンバーガーショップ、ワンコ・バーガー。
定位置である隣のレジに立ちもせず、店内を走り回っているのは、この店をおばあちゃんの楽園にするという野望を持つ
軽い色に染めたゆるふわロング髪を今日はサイドに大人っぽくお団子にして、そこに赤い妖艶な花びらをまるでワシの爪のように閉じた不思議なグロリオサの花を一輪挿している。
バカなことはバカなんだが、ちょっと素敵にも見える。
さて、明日から新発売となるトマトトマトバーガーの準備で忙しいというのに、今日はさらに面倒なことが一つ発生している。
いや、こいつが面倒なのはいつものことではあるのだが……。
「穂咲。ちょっとやり過ぎ」
「でも、これならお客さんがたくさん座れるの」
テーブルをひとつ片付けてスペースを作り、畳を二つ床に敷いて、横長のローテーブルなど置いてしまったのだ。
「バーガー屋に、お座敷作っちゃったよ……」
お茶はセルフで無料。
お茶請けのピクルスは仕入れ値での提供。
新商品発売の慌ただしさの隙間を縫って橋頭堡を築きあげたこの軍才。
こと、親切については頭が働くやつである。
ここは穂咲という英雄が築き上げた理想郷。
お座敷を埋め尽くすおばあちゃんたちの前で、英雄は拳を突き上げていた。
「我々は、陣地を手に入れたぞ!」
『おー!』
「おばあちゃんだって、お肉を食べよー!」
『おー!』
「若者から憩いの場を奪い取れ!」
『おー!』
「でも、ずーっとはダメなの」
ローテーブルの真ん中に置かれた大きな目覚まし時計には、『一時間だけなの』と書かれた張り紙が垂れ下がる。
そんなおばあちゃんたちが何かしら困っていると、すっかり常連になった中学時代のクラスメイトのみんながテーブル席からフォローしてくれる。
和気あいあい。
ああ、変な店。
「……カンナさん。そんな顔せずに」
「するっての! 今、四人で大変な思いして維持できてるんだろうが。お前らがいなくなったらばあさんたちを追い出すの、誰の仕事だと思ってるんだ!」
そっか。
俺達はお盆までの短期バイトだもんね。
この楽園、三日天下とは言わないまでも、短い栄光なんだ。
そんな未来を知ってか知らずか、英雄は仕事もせずに再びこぶしを突き上げる。
「洋風のものを、もっとたべよー!」
『おー!』
「お茶は飲み放題!」
『おー!』
「でも、たまにはコーラにもチャレンジして欲しいの」
まあ、売り上げに貢献してもらわなきゃいかんからな。
でもそれは無茶。
穂咲の願いは、十分後に大量のしゃっくりを生み出した。
「無茶しなさんな。かわいそうです」
「うん。ちょっと反省なの。…………へけっ!」
「あと、お客様から頂き物しなさんな」
「へけっ!」
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