???のせい
~ 七月十九日(水) 藍川900、秋山700 ~
???の花言葉 騎士道
駅前の個人経営ハンバーガーショップ、ワンコ・バーガー。
その二台のレジ。
隣に立っているのは、飲食店だというのに頭に花を飾る
軽い色に染めたゆるふわロング髪が低い位置でまとめられて、そこに白から紫へとグラデーションする妖艶な花を生やしている。
今日はちょっと和風でしとやか。
でも、俺はいろいろと気が気でない。
……さて、一昨日まではいつでも席が空いてるよ! がキャッチコピーだったこのお店が、昨日からずっと超満員となった。
たった一日で話題になった理由は、もちろん俺の見事な客寄せ。
な、はずもなく。
この、隣のレジでニコニコあわあわ接客する人気者、穂咲のおかげだ。
そんな穂咲の頭が、いつもとちょっと違う。
いくら何でもその花はまずいと俺が泣き叫んだせいで、器用なおばさんがあっという間に作ったプラスチックケースでおでこから先を覆っているのだ。
……いや、それでもこの花はまずいと思うけど。
「まあ、魅惑的なお花ね!」
「ありがとうなの。ご一緒にポテトもどうぞなの」
うん、何回教えてもそうなっちゃうのね君は。
ただであげてどうすんのさ。
とは言え、穂咲のおかげで売り上げは桁違いになったらしく、店長はこの暴挙を容認していたりする。
しかも、このバカなサービスも話題になって、今日はレジが長蛇の列だ。
だけど当然穂咲を目当てに来るお客ばかりじゃないわけで。
今も、穂咲のレジ前に来たお客が怪訝な顔を浮かべていた。
「なんだこの変な店員は! 客をバカにしてるのか?」
凄く納得いくクレーム。
けど、他のお客様が不快になる。
穏便にご説明しよう。
「すいませんお客様。入り口に書かせていただいた通り、当店にはこのようなスタイルで接客させていただく者がいるのです」
「だからって衛生上いいわけねえだろ! このセット、我慢して食べてやるからタダにしてくれねえか?」
うう、怖いよ。
でも、丁寧に接客しないと……。
「えっと、バイトなのでサービスはちょっとできませんが、店長と相談いたしまして次回ご来店の際に必ずサービスさせていただきますので……」
「こんなシケた店、二度と来ねえってんだよ! まったく気持ち悪い花だな! 食欲も失せた!」
そう言いながら、クレームお兄さんはポテトを一気に口に入れた。
「これで勘弁してやるから、お代わりよこせよ!」
うーん、困ったな。ほんとに困ったな。
がまんできそうにない。
……今、穂咲の花をバカにしたよね?
「……お客様、すぐに病院へ行かれることをお勧めいたします。今、あなたの態度にちょっと腹が立った私が、この子の葉っぱを一枚ポテトへ入れてしまいました」
「はあ!? 訴えるぞ! このや……」
「そしてこちらのお花、トリカブトと申します」
俺の一言に、お客様真っ青。
彼が慌てて外へ駆け出すと、ほとんど穂咲目当てというお客様皆さんから大歓声が沸き起こった。
「秋山! ナイス機転! かっこいい!」
「ほんと素敵だったわ店員さん! あらよく見たら、秋山さんとこの子じゃない!」
「あんな嘘で騙すとはな! 爽快だったぜ、兄ちゃん!」
拍手喝采。
そして秋山コール。
あのね、みんな。
確かに葉っぱは入れてないけど、機転とかそう言うのじゃないのです。
勘違いしないで欲しいのですが……。
……これ、ほんとにトリカブト。
真実を告げることも出来ずに立ち尽くす俺の肩が、優しく叩かれた。
店長さんだ。
「あのね、秋山君。感動的だけど、今のはダメ」
「ですよね。ごめんなさい、どうしましょう」
「彼は馴染みの酒屋の息子だから、連絡しとけば平気だ。私に任せておきなさい」
おお、危なかった。
危うくこの店を営業停止にしちゃうとこだった。
「でも、やっぱり看板だけじゃ説明足りないかな? ……頼める?」
「…………外?」
意外と頼りになる店長さんは、にっこり笑って俺を炎天下へ送り出した。
※この作品は、フィクションです。
ぽーっとしたまま道久を見送る穂咲に免じて、もろもろご容赦願います。
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