第36話 祝辞

 祝辞、祝いの言葉。また、祝いのスピーチ。


 12月20日、寒い地下は人が犇き合い。熱気に満たされていた。

それも仕方がないことだろう。新型ロボットは誰もが待ち望んだのだ。


「いよいよですね」


 新型機には大きな幕がかけられて見えなくなっている。

その前には各社のお偉いさんが何やら話をしているが、鈴木と梶原は調整のために働き続けていた。


「はい。楽しみです」


 胸が躍らない方がおかしいだろう。

ロボットと言うだけで男ならば胸が熱くなる。それも自分が手掛けた新型ともなればその思いは一塩だ。


「えーお集まりの皆さん。長らくお待たせしました。新型機のお披露目に移りたいと思います」


 司会を務めるのは中小企業の吉川社長だ。

AKAGIと中小企業との提携で新型ロボット関係に至ったが、その背景には様々な会社が手を貸してくれている。

 その中でも中小企業の後ろ盾となった黄島重工業の社長が今日は来ているのだ。

そのため吉川社長は司会に徹して、お披露目式の中央には赤城社長と黄島社長が並び立っている。


「此度の新型機は酸素と水素を主体にエネルギーを作り出します。環境に優しく。装甲は薄く今までの三倍の速度を実現しました。さらに、薄くなった装甲の代わりに大型の剣を左右に装備できるようになり、使わない間は左右を守る装備になり、使えば怪人も一刀両断できる最強の武器となります」


 吉川社長が新型ロボットの説明を始め、鈴木は来賓の方々に不満がないようにホストとして走り回る。

赤城 龍牙の姿も見かけたが、その顔には苦虫を噛み潰したような苦悶が見て取れたため声をかけなかった。


「それではいよいよお披露目です」


 吉川の合図と共に大きな幕が下ろされる。

現れた新型ロボットのホルムは美しく。それぞれのカラーに合わせた機体も鮮麗さを増している。

この五体が合体すれば、今まで以上の最強のロボットが完成するのだ。


「それではお祝いの言葉を黄島社長からお願いします」


 吉川に名前を呼ばれ、黄島社長が前に出る。

黄島社長は元々はイギリス人であり、技術者として日本に来ていた。

そこで黄島夫人と出会い、大恋愛の末に結婚したと聞いている。

 50を超える男性だが、魅力的な容姿と生気に溢れた力を強さを発してる人だった。


「AKAGIの技術と中小企業と技術が組み合わさった最高のロボットができあがりました」


 黄島の挨拶が始まると、鈴木は気にしていた赤城 龍牙が会場が飛び出していく姿が見えた。

気になってしまい、鈴木は龍牙の後を追いかえる為、一歩を踏み出す。

 一番大事なときに席を外すのはどうかと思うが、どうも胸に引っかかるものがあるのだ。


「鈴木さんどちらに行かれるんですか?」

「すみません。どうにも気になってしまって」


 鈴木の慌てように何かを梶原は察したのか。


「わかりました。後のことは全てやっておきます」

「ありがとうございます。お願いします」


 梶原の言葉に頷き、鈴木は赤城を追いかける。

そんな鈴木を梶原は、笑顔で見送った。そんな姿を耄も見ていた。


 鈴木は龍牙を探して地下から地上へとエレベーターに乗り込む。

龍牙が地上に向かったと言うことまではエレベーターの階数を見れば判断できるのだ。

 地上に辿りついた鈴木は龍牙がどこに向かうのか考え、ロビーへと向かった。

もし外に出たのであれば受付が見ていると判断したのだ。


「すみません。こちらに赤城課長はいらっしゃいませんでしたか?」


 鈴木は受付嬢へと話しかける。

鈴木の慌てように、戸惑いながらも受付嬢は誰も出入りしていないことを告げてくれる。


「ありがとう」


 鈴木は礼を述べて、社内に戻った。

赤城が行きそうな場所を考え、休憩所、開発部、営業部と順に回って行き。

屋上で目的の人物である龍牙をみつけた。

 但し、龍牙の向こうに人影が見えた。


「やっぱり俺にはお前しかいないんだ。俺とよりを戻してくれ」


 龍牙は誰かに復縁を求めるようだ。

鈴木は聞いてはいけないと思いながら背中を向けようとして。


「何を言っているのあなたは。そんなことありえるはずがないじゃない」


 聞き覚えのある声に、もう一度龍牙達の方に視線を向ける。


「わかってくれ。望!俺にはお前しかいないんだ」


 龍牙の言葉に鈴木の胸が早音で打ち始める。

望が龍牙の彼女……鈴木の頭は混乱していた。


「バカじゃないの!私には太郎さんがいるの。あんたなんかお呼びじゃないわ」

「お前こそバカだ。お前とあんな冴えないオッサンが釣り合う訳がないじゃないか!」

「どういう意味よ」


 龍牙の言葉に望が聞き返した。


「お前は黄島重工業の一人娘なんだ。そんなお前と釣り合うのは俺しかいないだろうが」


 鈴木は龍牙のセリフに衝撃を覚えた。

望が黄島重工業の一人娘?そんな話はきいたことがない。

 確かに名前は黄島と同じだが、まさか黄島重工のお嬢様が、中小企業などで派遣社員をしているなど考えるはずがない。

 二人の会話に動揺した鈴木は、屋上への扉を押してしまう。


「誰!?」


 望の鋭い声に鈴木は姿を現す。


「太郎さん!!!」

「お前!!!」


 望と龍牙が鈴木の存在に驚きを示す。

そんな二人に鈴木は呆然としたまま、望を見続けることしかできなかった。


「太郎さん。これは違うの!」


 望は咄嗟に何か言い訳をしようと言葉を発した。

しかし、そんな望を遮るように龍牙が望と鈴木の間に割り込む。


「丁度よかった。お前に言いたいことがあったんだ。いいか、望は俺の女だ。確かに一時はすれ違いがあった。だがな、望は俺の女なんだよ。手を出してんじゃねぇよ」


 龍牙の一方的な物言いに、鈴木は望に向けていた視線を龍牙に合わせる。

望は何かを発しようと前に出ようとするが、龍牙によって遮られる。


「いいか。もしお前がこのまま望に手を出すようならな。俺にも考えがある。AKAGIと中小企業との契約を破棄する」


 龍牙の言葉に鈴木は反応した。

今まで呆然と望を見て、赤城を見ていた目に光が宿る。


「何を言っているかわかっているんですか?」


 鈴木は言葉は丁寧に、それでも必死に何かを抑え込んだ物言いで龍牙に問いかける。


「分かって言っている決まっているだろう。貴様がどれだけの功績を上げようと俺の一言で全て水の粟となるんだ。貴様はちっぽけな存在でしかない。それに比べて俺には力がある」


 龍牙は鈴木に拳を突出し笑い始める。


「よくわかりました」


 笑い続ける龍牙に対して、鈴木は顔を伏せ何かを言った。

望には不安が募っていた。龍牙の言っていることは本当なのだと望は知っている。

 龍牙の一族は結束が強く。龍牙は次期党首なのだ。

その龍牙が父親に頼めば龍牙が言ったことは叶うと望は思っている。


「何がわかったんだよ」


 龍牙はバカにするように鈴木の肩を突き飛ばす。


「やればいい」

「はぁ?」

「やればいいと言ったんですよ。ガキの戯言に左右されるような会社ならばそうすればいい」


 鈴木は真っ直ぐに龍牙を見つめて、ガキの戯言だと宣言したのだ。


「お前!自分が何を言っているのかわかっているのか!」


 龍牙は声を荒げて叫んだ。


「ええ。わかっていますよ。会社とは人です。もしあなたが言うように私が気に入らないからという理由で契約をするならばやればいい。そんな損得の計算もできない経営者がやられている会社に未来はありませんからこちらから願い下げです」


 鈴木の言葉に龍牙の額に青筋が浮かびあがる。


「あと、望に関しては彼女が決めることです。私は彼女を愛している。手を出したや釣り合いが取れないなど確かにあるのかもしれませんが、全て彼女が決めることです。あなたが決めることではない」


 龍牙に宣言して、望に視線を向ける。


「どうしますか?私と来ますか?」


 鈴木は望に手を差し出す。


「はい!」


 望は涙を流していた。鈴木からハッキリと愛していると言われるのはこれが初めてなのだ。

自分から好きだと告げることはあっても、鈴木からは照れくさそうに好きだと言われるだけだった。

 それがこんなにも堂々と愛していると告げられて、嬉しくないはずがない。


「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!!お前は何なんだとオッサン。お前が現れてから周りがおかしくなってんだよ。全部お前のせいだよ」


 望が鈴木の手を取ろうとすると、龍牙暴れ出した。

二人の間に割り込み。鈴木を罵りながら拳を振り上げる。


「危ない!!!」


 望が咄嗟に龍牙を止めようとするが、望の制止を振り切り龍牙の拳が鈴木に向かう。


「本当にガキだな」


 鈴木は迫る拳を交わしながら、龍牙を投げ飛ばした。


「なっ!」

「えっ!」


 投げられた龍がも制止しようとした望も唖然とする。


「三か月間、ほぼ毎週耄さんに鍛えられていたからね」


 鈴木は三か月間、合気道を止めずに続けていたのだ。

その成果は実戦でこそ活かされる。鈴木は冷静だった。

 龍牙の拳から目を逸らさず、龍牙の力を利用して投げ飛ばしたのだ。

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