第32話 役職

 役職、役目や職務のこと。特に管理職のことを指す。 特に組織の最上位の意思決定機関(例: 取締役会)の構成員である場合には、「役員」と 呼ばれることも多い。 一般論として言えば、役職は一般に何らかの責任と職権を伴う。


 赤井部長が出て行こうとした扉から現れてた人物に、その場にいた全員が様々な思いで驚いた。

赤井は目を見開き、耄は唖然として、鈴木と吉川は状況が分からず。

 梶原だけは驚きながら、口元には笑みがあった。


「遅いじゃないですか、道臣ドウシン取締役!」


 梶原が、現れた人物に声をかける。


「またせてすまないね。確約を取るのに手間取ってしまってね」


 道臣と呼ばれた男は紛れもなく、上野ウエノ 康正コウショウその人だと耄は確信していた。


「どうしてあなたがここに居られるのですか?」


 赤井は先程までの横柄な言葉使いではなく。ちゃんとした敬語を使って問いかける。


「君にもちゃんと伝えていたはずだが、赤城課長の代わりに一人追加でメンバーに加えると」

「確かに打ち合わせのメンバーが入れ変わる話は聞いています。ですがどうして道臣取締役なのですか!」


 赤井も訳が分からないと最後の方の語尾が強くなる。


「君は根強いAKAGIの思想に使ってきた者だ。私の考えなどわからぬかもしれんな」


 赤井の問いに対して、道臣と呼ばれた男は赤井の肩叩くだけで答えた。


「さぁ打ち合わせの続きをしましょうか。改めましてAKAGI取締役、道臣ドウシン 康正コウショウと申します。耄さんには全て分かっていると思いますので。あえて説明は省かせていただきます。今回の契約……五分五分で組ませていただけないでしょうか?」


 道臣取締役は席にもつかず、立ったままでいる鈴木達に向かって浮かぶかと頭を下げた。

鈴木は状況についていけず、耄の顔を見る。

 耄は天を仰ぐ。数秒後、正面へと顔を戻し頭を下げている道臣を見た。


「約束は守られるのでしょうな?」

「必ず。そのために私はここにいます」


 二人にはその言葉で全てが伝わったようだ。


「ならばよろしくお願いします」


 耄は自ら手を差し出し握手を求めた。

それは契約成立を決定づけるものとなった。


「どうなってるんや?」

「赤井さん。どうやら時を超えて、男同士が友情を取り戻したようです」


 腰を抜かして座りこむ。

赤井の横にいつの間にか吉川が立っていた。


「時を超えて?どういう意味や?」

「あの二人は嘗て、20年来の友だった。しかし、会社の思惑が違ったために引き裂かれてしまった」


 吉川の言葉に5年前の事件が赤井の脳裏を過る。赤井も課長職にいたが、事件自体には関与していない。

そのときの担当を勤めた男、それが目の前の取締役。道臣であり、かつて上野と呼ばれた男だった。

 耄と道臣には積話があるのだろう。

しかし、契約を結ぶ方が先なのだ。


「ではこちらにサインを」


 鈴木は耄と道臣が握手を交わした後、すぐに話を契約の方に切り替えた。

契約内容の確認、変更点を話し合い。

 道臣と吉川のサインが書類に書かれる。


「この度は誠にいい縁をありがとうございます」

「いえいえ。こちらとしても末永いお付き合いをお願いします」


 吉川が話を締めくくり、道臣がそれに対して答えを返した。

二人が握手を終えて、鈴木達はAKAGIビルを後にした。


 帰りに昼飯を食べるため、立ち食いソバ屋に入ると、宇宙怪人とヒーローの戦いが繰り広げられていた。

前回取り逃がしたカメレオン怪人は新たな怪人と結託し二人の怪人をヒーロー達は相手にしている。

 しかし、カメレオン怪人にはブルー、グリーンが新たに表れた能面の怪人にはレッド、ピンク、イエローが戦い。勝利をもぎ取る。

 巨大化した能面怪人をロボットで倒したところでソバを食べ終えた。


「今日も修理が大変そうだな」


 二体の怪人を相手取り戦ったこともあり、ロボットの損傷は激しかった。

しかし、今の鈴木の気持ちは誇らしく。

 そして早く修理に取り掛かりたい気持ちになっていた。


「はい。ですが、やはりこの仕事はやりがいがあります」


 今回は耄と上野、改め道臣の友情によって結べた。

しかし、裏の事情は鈴木にはわからない。しかし、サラリーマンも悪くないもんだと鈴木は思えていた。


「今日は飲みたい気分だしね。さっさと終わらせてしまいましょう」

「そうですな」


 吉川の言葉に耄は賛同を示し、二人も早々にソバを平らげた。

三人はロボットが搬入されてくる地下へと急ぐため、足早に帰路についた。

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