第25話 核融合炉
核融合炉、重い原子であるウランやプルトニウムの原子核分裂反応を利用する核分裂炉に対して、軽い原子である水素やヘリウムによる核融合反応を利用してエネルギーを発生させる装置が核融合炉である。
鈴木は地下30階に備え付けられた休憩所で、営業として何ができるか考えていた。新型ロボットには何が必要なのか?現在のロボットにはエンジンエネルギーとして核融合炉が使われている。
原子力発電所なで、電気など作るものに比べればかなり小規模のモノだが、それでも町を一つ破壊するだけの威力を持っている。
それに対して、新型ロボットには新型エンジンが搭載されることになっているのだが、エンジンのエネルギーは水素と酸素であり、地球に優しく、もし破壊された場合でも爆発の危険が限りなく少なくなる。
しかし、問題が生まれた。
「それを取り扱っている会社が一つしかないのか……」
鈴木は新型ロボットに必要なエンジンを取り扱っている会社名を見て、溜息を吐きたくなる。
「こんな大手の会社が取り合ってくれるのだろうか?」
鈴木の持っているファイルには赤城自動車 AKAGIと書かれていた。
壺井が接待に失敗した企業だ。我が中小企業とは金輪際契約を結ばないと相手方に言われていたはずだ。
「何をしておるんじゃ?」
「いえ。新型ロボットのエンジンについて考えてました」
「ふむ。AKAGIか、あそこは厄介じゃぞ」
「耄さん知ってるんですか?」
「まぁあ、そうじゃな。なんせこことの契約を最初に取ってきたのはワシじゃからな」
「えっ!耄さんが?」
鈴木は驚きすぎてファイルを落としてしまう。
「そうじゃよ。あそことは20年来の付き合いじゃった。今の情勢になる前はうちとは良い関係だったんじゃよ。しかし、5年前にロボットをうちが開発したことで袂を分けたんじゃ」
「5年前……いったい何があったんですか?」
「簡単なことじゃよ。私が現場を引退して、相手の営業をしていた奴がいなくなったんじゃ」
「いなくなった?」
耄の言い方に違和感を感じて、鈴木は聞き返した。
「そうじゃな。五年前に何があったのか、話してもいいかもしれんな」
目を瞑り、しばし沈黙が流れた後。
「あれは宇宙人が襲来して、対抗手段に着手ようとしたときじゃった」
耄は熱いお茶を口に含み、ゆっくりと語り出した。
「どういうことじゃ。これはAKAGIとうちの共同開発じゃろう」
「耄さん、そんなことを言われても困る。私も上からの指示で伝えに来ただけに過ぎないんだ」
当時のワシはまだ60になったばかりで、今よりも元気じゃった。
仕事への熱意も持っておった。何より地球を救うことを誇りに思っていたんじゃ。しかし、AKAGIは違っていた。あそこは常に利益を求める。
20年来、ワシが取引をしてきた男の名前は、上野ウエノ 康正コウショウといった。
奴は20年来してきたワシとの契約を上から言われたの一言で覆そうとしたんじゃ。
「いくらAKAGI上層部が言おうと、権利は五分五分と約束したはずじゃ。我々にも上からの指示が来ているから引けんぞ」
「わかっています。お宅がどこをバックに抱えているかも知っています。それでもAKAGIはこのエンジンの権利を主張します」
ロボットのエンジン開発をうちが取り組むことになり、共同開発していたのがAKAGIなのじゃ。AKAGIの整備士や研究者は優秀じゃった。
まぁ、うちにも天才がおったがな。
互いの開発部は競うようにエンジンを作り、エンジンの性能を向上させていった。そうしてできたのが、今のロボットに搭載されているエンジンじゃな。
「80%は、うちの開発部が作り出したものです。ですからその権利はうちにある」
「何を言っておる。未完成だった物をうちの的場が仕上げたのではないか」
土台はAKAGIが、仕上げは中小企業の的場 元が作り出しものなのじゃ。
核融合炉は、別名熱核融合炉とも呼ばれている。
熱を利用した新技術なのだが、熱を逃がし続けなければ、その熱によって自爆する恐れがあった。
何度も実験が行われたが、小規模のモノであれ適切な分量、熱を逃がす処置が必要じゃった。
それを開発したのが、的場 元 あの男だった。
当時の彼はまだ28と若かったが天才じゃった。核の最適量を導き出し、熱を逃がすための装置を作り出した。
それによって失敗し続けていた実験が初めて成功を収めた。
完成したエンジンを見たAKAGIは、その権利を主張しだしたのじゃ。
「しかし、核を用意したのも、研究室やエンジンの構造を考えたのもうちです」
核に耐えるだけの研究室をAKAGIは作りだし、幾度もの失敗を繰り返すことができたのも事実じゃった。
他の企業からもエンジニアは来ておったが、的場 元をリーダーとした中小企業開発部と、AKAGI開発部の二チームは跳び抜けた才能を見せつけた。
そのことがAKAGIに要らぬ見栄を張らせたのかもしれんな。
「ここまで言っても引いていただけないのであれば、我が社にも考えがあります」
上野は契約を破棄し、ある事件を起こした。
その事件とは核実験室の爆破じゃった。
いくら実験は成功したといっても、微調整はまだまだ必要じゃった。
なのに、上野は実験室を爆破した。
もちろん核爆発ではないが、研究室が使いものにならなくなるぐらいに大がかりな火災が起きた。
そのすぐ後に、AKAGIは独自にのみ使える実験室を再建した。
爆破事件に関しては、事故ということになった。
AKAGIにしかない技術をAKAGIが独占するために行った行為だと誰もがすぐに理解したが言ったところで証拠がないんじゃ。
「お前は何を考えているんだ。こんなことをして日本が滅んでもいいのか?」
ワシはすぐにAKAGIに赴き、上野を捕まえて問いただした。
「あなた方が我々に従わないのがいけないんですよ。私は上の指示で動いているだけです。それに爆破は事故ですよ。私共がやったという証拠はない」
上野はワシに掴まれた腕を振り払い、襟を正して去って行った。
それ以来、AKAGIとの契約はなくなった。
第二研究室と名付けられた核実験場は、AKAGIの技術で第一研究室よりも優れたできだったそうじゃ。
しかし、それが仇となった。核実験は確かに失敗しても防ぐことができた。
核は防げても、人の技術と心を考えてはいなかったのじゃろうな。
当時のAKAGI研究室室長は、根っからの研究者じゃった。
プライドが高く。自身がトップに立っているとずっと考えてきた人物じゃ。
しかし、第二研究室に移り切磋琢磨していたものがいなくなり、失敗が重なり続けた。
唯一の成功例である的場 元の研究データを使っても失敗した。
彼には的場が出した答えがどうしてもわからなかったのじゃ。
そして彼は壊れていったんじゃろうな。
ある日の実験にAKAGIの上層部、当時の営業部長や各取締役が研究を見に来ていた。
なんとしても成功させようとしていたんじゃろうな。
室長は実験場に自ら入り、失敗しない証明をしようとした。
しかし、実験は失敗し、爆発が起こる寸前に研究室室長である彼は逃げようとして、通路へ繋がる扉を開けてしまった。
実験室は密閉され、特殊な空間だからこそ核の恐怖が防げていた。
しかし、猛威は抜け道をみつけてしまった。
核の炎は室長を一瞬にして灰に替え、研究室を火の海へと変えた。
「そのときに上層部と同じく見学に来ていた上野も火の海に消えたという。しかしワシは上野は生きているような気がしてならない」
耄が話を終えて冷めてしまったお茶を啜る。
どうしてAKAGIとの契約が切れたのか知ることができた。
そして厄介だと耄が言った言葉を理解した鈴木は更なる悩みを抱えることになった。
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