第23話 美男美女
美男美女、水みずの滴したたるよう。美男美女のみずみずしく魅力的であるさまの形容。
一週間という時間は何をしていても過ぎていく。
仕事をして、ペットを飼い、彼女とイチャイチャしたり習い事をする。
鈴木の日常は会社勤め七年目にして様々な変化を遂げていた。
目まぐるしく変わる日常に鈴木は、追われる日々を過ごしていた。
「なんだか懐かしいな。三日ぐらい前の話だったのに」
鈴木の花金は地下30階で過ごされている。今日は久しぶりの残業をしている。
総務課の頃にやっていた掃除ではない。それが鈴木にはなんだか寂しいような気がした。
今日の破損は酷かった。左右の肩接合部が完全に破壊され、青、緑の機体はかなりの損害だ。
赤、ピンク、イエローの連携によって辛勝を得たが、三体の機体も全身に斬られた破損があり、かなりの損傷を受けている。
「とにかくこの穴を塞がないとな」
鈴木の隣には元が立っていた。
「そろそろこの機体も限界かもな」
「それだけ熾烈な戦いなんですね」
「そうなんだろうぜ。実際に俺達じゃ戦いはわかんねぇからな」
元の言葉に鈴木はもう一度傷だらけの機体を見上げる。
傷付きボロボロになった機体は、5年間の戦いを物語るように様々な傷がついている。
修繕された傷もかなりの数になっている。変えられた備品やパーツも多数ある。
「新型機の話ってありましたよね」
「ああ、あの話な。どうやら上の方で許可が下りてないらしい」
「上の方?」
「ああ、なんでもお偉いさん同士が喧嘩しているらしくてな。上手いこと連携がとれてないらしい」
「色々あるんですね」
「おいおい。鈴木君も営業になったんだろ。そういう橋渡しは営業の仕事だぞ。まぁ何ができるかは知らんけど頑張ってくれよ」
「はぁ~」
元の言葉に鈴木は返事をするが、正直営業だからといって何をすればいいのかわからない。
「まぁ、俺自身何をすればいいかなんてわからないがな。ガハハハ」
元の言葉に営業ができることについて考えなければならないと思った。
「そんなに真面目に考えるなよ。君は君の思う当たり前のことをすればいいと俺は思うぞ」
破損が酷かったため、ほとんどのパーツを新品へと交換しなければならず。
掃除から修繕の作業員でいつも以上に地下には人が多くなっていた。
「この辺の材料はどこから来るんですか?」
「ああ。上から運ばれてくるやつだな。上って言うのも俺如き中小企業の部長じゃあ、わかんねぇけどな」
元の笑い声を聞きながら、鈴木は久しぶりの修繕作業の手伝いに明け暮れた。
週末を迎えた鈴木は、望と約束していたデートのために早起きしていた。
「一日デートは初めてだな」
鈴木に彼女がいたことはない。そのためこの間食事デートをしたのが初めてなのだ。
だからこそ、一日デートをするためにはどこに行けばいいのか鈴木なりに考えた。
「今日は港の公園で待ち合わせして、公園にあるコーヒー店でランチを食べる。その後は街に移動してショッピングをしながら予約したディナーを食べよう」
鈴木なりに考えたプランを口にして確認する。初デートなのだ、気合いが入っていても仕方ない。
「服はこれでいいのかな?」
ジーパンにTシャツで姿鏡を見た鈴木は愕然とする。
「ダメだ!ダサい。服のセンスなんて考えたことない俺でも分かるぐらいダサい!」
鈴木は両手を突いて項垂れた。
自身のセンスの無さに、そして自身の服のレパートリーの無さに嘆いているのだ。
「デートなんかしたことないから、オシャレな服とか持ってないよ」
鈴木はどうしていいかわからなくなり、無難な一着を選んだ。
「持っている服で一番マトモな物はこれだけだ……」
鈴木はスーツを手に取り、会社に行くのと変わらない格好になっていた。
「でもこれしかちゃんとしてる服がないし仕方ないな……」
鈴木はいつものスーツで待ち合わせ場所に向かった。
港の公園は見わたしもよく、特に待ち合わせ場所を決めなくてもどこに誰がいるのか一目でわかる。
何より望は輝いていた。雑誌などのモデルに負けない服の着こなしでスタイリッシュな出で立ちをしている。
スーツでいる自分が恥ずかしくて、声をかけるのが躊躇われた。
「あっ、太郎さん!」
「うっうん。お待たせ」
鈴木は戸惑いながら、望に近づいた。
明らかに場違いな感じを味わいながら返事をする。
「どうしたんですか?」
「えっ、あの。綺麗だなって」
「……ありがとうございます」
望は嬉しそうな顔をしてお礼を述べた。
「それじゃ行きましょうか。今日は太郎さんがエスコートしてくれるんでしょ」
「う、うん」
鈴木の腕に望が腕を絡ませて公園を歩き始める。港の公園は潮の香と穏やかな風が吹き抜ける。
「今日は穏やかですね。海の近くって風が強いと思ってました」
「そうだね。このままランチに行こうと思うけどいいかな?」
「はい。店までゆっくり歩きましょ」
望と腕を組んで歩くのは気恥ずかしいような。誇らしような不思議な感覚だった。
「望!!!」
不意に望を呼ぶ声がする。鈴木と望は声のする方に視線を向けると美男美女が立っていた。
女性の方は綺麗な黒髪の清楚な女性だった。男性は高身長で赤っぽい茶色い髪で白いジャケットが良く似合っている。
「あれ?香澄じゃない。こんなところで何をしてるの?」
望が相手の名前を呼んで近づいていく。
望に無理やり腕を引っ張られるかたちで鈴木も美男美女に近づいていく。
「香澄、久しぶり~」
「本当に久しぶりね」
「ねぇ、ねぇ。そちらの方は?」
望と腕を組んでいる鈴木に香澄と呼ばれた女性から質問を投げかけられる。
「こちらは上司の鈴木 太郎さんよ。お付き合いしてるの」
「へぇ~、昔から望ってモテてたけど、こういう人が好みだった?」
「うん。太郎さんは今までで一番素敵な人なの」
今までで一番という言葉に鈴木は驚いて言葉を失う。
「いいなぁ~そんなに素敵な人なんだ。よろしくお願いします、鈴木さん。私は桃鳥 香澄です。望とは学生時代からの友人なんです」
「こちらこそよろしくお願いします。鈴木 太郎です」
なんとか意識を覚醒させて自己紹介を返した。
続けて男性の方に握手を求めて手を出した。
「はぁ?俺はいい。赤城 龍牙だ」
男性の方には手を払いのけられてしまう。
一応自己紹介はしてくれたので、まぁ良しとしておこう。
「あっ、はい。鈴木です」
鈴木が頭を掻いていると女性同士で話が進んでいく。
「今日はデート?」
「そうなのよ。なかなか時間が取れなくてね。香澄たちもデート?」
「そうなの。久しぶりのデートなのよ」
「そう。お互い楽しみましょう」
女性同士の話が終わって、やっと美男美女の輪から抜け出すことができた。
場違い感が半端なく。鈴木の心は情けない自分のことを考えてしまい。どうしてもテンションがあがらなかった。
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