第17話 協力

 協力、力を合わせて事にあたること


 昼食から帰ってきた鈴木は、望の思惑通り驚いた。デスクの隣に先ほどまでなかった、デスクが置かれていたからだ。望はニヤニヤした顔でサプライズが成功したことを喜んだ。


「太郎さん。私から逃げれるとは思わないでくださいね」


 望の言葉に、鈴木は唖然とした後、笑いが込み上げてきた。


「望ちゃんは本当に凄いな。あははは」


 望が前川の下へ言ったのはこのためかと納得してしまう。まさか本当に営業部に異動してくるとは思って居なかったが、鈴木が笑っていると耄も笑い出した。


「ふぉふぉふぉ。どうやら上手くまとまったようじゃな」

「課長は知っておられたのですか?」


 鈴木の質問に対して、耄は笑うだけだった。その笑いで鈴木は耄が答えを言っていると理解した。


「さぁ、昼は営業のノウハウじゃ。座学で説明してゆくから聞くように」


 鈴木と望は耄が考える営業学を学んだ。それは耄が長年の経験から得てきた知識であり、誰も知り得ない耄だけの営業理論だった。


「まぁこんな感じじゃな。まだまだ話し足りんが、そろそろ残業の時間じゃ。黄島君は帰りなさい」

「私も残業手伝いますよ」


 望が鈴木といたいという思いを込めて、残業を申し出る。


「それはダメじゃ。ここからは正社員だけの仕事じゃからな。君がもしうちの会社で正社員として勤めるのならば教えてもいいのじゃがな」

「それは……」


 望が何かを言おうとしたとき、望のスマホが鳴りだした。スマホの画面を見た望は、残念そうな顔になり、ため息を吐いて顔を上げる。


「すみません。私も用事ができちゃいました」

「そうか、そうか、ならばそちらを優先しなさい」


 望を見送る耄の顔は優しそうに笑っていた。


「では我々も行こうか」


 営業課のロッカーに移動させた作業着を着こみ、耄の後に続いてエレベーターに乗り込む。今迄は30階まで下りたことがなかった鈴木だったが、耄は50階のボタンを押した。


「鈴木君は宇宙人が現れてからの世界をどれだけ知っている」


 耄はエレベーターが50階まで下りる時間で鈴木に質問を投げかけてきた。


「学校で習ったことぐらいですが」

「それでよい。話してみてくれんか」


 鈴木は学校で習ったこと以外に中小企業に勤めるようになり、ロボットとかかわったことで勉強し直したことを話し出した。


「10年前、宇宙から侵略者がやってきました。地球人は友好関係を結ぼうと交渉を持ちかけましたが、彼らは宇宙怪獣を地球に解き放ち侵略を開始しました。世界は地球防衛軍を作り、宇宙人との戦争に突入しました。幸い宇宙怪獣は七体だけだったので、各国で殲滅することに成功しました。


 各国とは、日本、中国、アメリカ、ロシア、オーストラリア、EU、UAE、のそれぞれが協力し合い怪獣に当たりました。


 その日から世界は宇宙侵略を企てる宇宙怪獣との戦いを繰り広げています」


 鈴木の説明に耄は頷く。


「うむ、まぁいいじゃろう。付け加えることがあるとすれば、我らがかかわっているロボットは、5年前に実践導入されることになった。それまでにもロボット開発はされておったが、実働されるためにあるキッカケがあったんじゃ」

「キッカケですか?」

「そうじゃ。今からそのキッカケに会いにいくぞ」


 鈴木は耄の言葉について考えて、ロボットを開発した人物に会えると気持ちが高揚してくる思いがした。鈴木も男子なのだ。ロボットにかかわる話しに興奮する。50階層について扉が開くと、薄暗い廊下が続いていた。

 てっきりロボットの最下部だと思っていたが、そこにはロボットの足は見えなかった。耄は薄暗い廊下を奥へと歩いていく。


「ここじゃ」


 50階層の最奥までやってきて扉を開く。鈴木は耄に促されるまま部屋の中に入っていく。部屋の中は明かりが全く存在しない暗闇だった。


「ようこそ。鈴木 太郎さん」


 暗い部屋の中で、子供のような声が聞こえてくる。


「だっ、誰ですか?」


 鈴木は何も見えない暗闇に恐怖を感じつつ、声に対して問いかける。


「これは失礼しました。人間は光がないと何も見えないのでしたね」


 声に反応するように、部屋の中に薄い青い光が灯される。段々と光に慣れてきた目が信じられないものを捉える。


「化け物」


 鈴木は目の前にいる存在に驚いて尻餅をついた。


「ふふふ。鈴木さんは面白いですね。やはりここに連れてきてもらうときは、内緒にしてもらうのが一番面白いですね」

「悪趣味なことじゃ」


 耄が鈴木の近くに立っていた。耄の存在を思い出し、鈴木は立ち上がろうとするが、腰が抜けて動くことができない。


「鈴木 太郎さん、初めまして」


 鈴木は我が目を疑いながら何度も耄と化け物を見比べて、耄が頷いたことである確信が芽生えた。


「宇宙人?」

「はい。私は地球の外から来た者です」


 流暢に日本語を話す化け物は、脳しかないのだ。いや、本当は体もあるのかもしれないが、鈴木の位置からは脳しか見えない。そしてその脳は話しをしている。


「自己紹介がまだでしたね。私はプレフェッサー・ブレインと申します。光が苦手ですので、薄暗い状態で話をさせていただくことお詫びいたします。あなたが仰る通り、私は宇宙人。そして現在地球防衛軍の協力者をしております」


 ブレインと名乗る宇宙人に、鈴木は言葉が出ないでいた。


「驚かれるのも当たり前でしょう。宇宙人と戦っているのに宇宙人がここにいる。順を追って、話をしていきますので、まずは落ち着かれることをお勧めしますよ。そうだ。緑茶などどうですか?落ち着くのに最適なんですよ」


 フランクに話し続けるブレインに鈴木も段々と慣れてきていた。抜けていた腰も力は入り難いが、立てないわけではない。耄の顔を見ると、鈴木を見て頷いた。


「おっお願いします」


 鈴木は何とか緑茶を貰うことにたいして返事をした。


「へぇー鈴木さんは凄いですね」


 しかし、そんな鈴木の態度にブレインは感心したようだった。


「何か変なことをいいましたか?」


 鈴木は気分を害してしまったのではないかと不安になり質問を投げかける。


「いえ。普通は驚いて逃げ去ったり、腰が抜けて気絶したりするんですよ。まぁ、中には気概を見せようと戦おうとする人もいましたが、大抵虚勢で心拍を確認すると極度の緊張状態だと確認できます。しかし、あなたは今の状況を受け入れようとしている。緊張状態からニュートラル状態に近い」


 ブレインの説明を聞いて、鈴木は特別凄いことでないと思った。耄が冷静であること、ブレインが冷静に話してくれていることから、怖がる必要はないと思っただけだ。


「別に特別なことはしていませんよ。普通の事だと思います」

「なるほど。どうして耄が私の下にあなたを連れて来たか、わかった気がします」


 ブレインは何かに納得したようで、脳が僅かに震えていた。もしかしたら頷いていたのかもしれない。


「あの、それでどうしてあなたはここにいるのですか?」


 鈴木の素朴な疑問にブレインは嬉しそうな声を出した。


「説明しましょう」


 ブレインの声は弾んでいた。

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