第14話 リーダー

 リーダー、グループ、集団を代表、指導、先導、統率する存在。


 俺の名前は赤城アカギ 龍牙リュウガ、22歳。赤城自動車、AKAGIの創始者を祖父に持つ大金持ちだ。顔良し、頭脳良し、スタイル良し。運動をやれば全て一番になってしまう。選ばれた存在とは俺のことだろう。そんな俺は現在宇宙人から地球を守る秘密任務についている。


「龍牙~」


 間延びした声で俺を呼ぶのは、最愛の恋人である桃鳥モモトリ香澄カスミだ。世界に進出しているアパレル会社MONMOを作り出した祖母を持ち、俺と並ぶ大金持ちの家系の血筋を引いた女性だ。

 また香澄自身も類稀なる天才で、次期MONMOの後継者であり、現在MONMOのモデル兼企画開発者として会社勤めをしている。

 見た目は黒髪を腰まで伸ばし、160cmある身長の中心には、揺れる二つの凶器が道行く人々を悩殺していく。清楚な雰囲気と相反する魅力である二つの凶器が、誰もを魅力してしまう美しさへと昇華している。

 スタイルは言うまでもなく抜群で腰のくびれに少し大きく見えるお尻のラインが、女性らしさをアップさせている。天然な性格が一言一言に滲み出ていて、傍にいるだけで俺を癒してくれる。完璧な彼女だ。


「香澄!ここにいるぞ。どうしたんだ?」

「はぁ~、やっと会えた」


 今日は二人でデートするために、香澄を迎えにいくつもりだった。しかし、たまには外で待ち合わせがしたいという香澄の要望に合わせて、郊外に作られた港の見える公園で待ち合わせをしていた。


「ちょっと道がわからなくなって」


 香澄は方向音痴だ。それを分かっていたからこそ待ち合わせ場所に、俺のことが一目で分かるように周りに何もない港の公園を選んだのだが、香澄にはハードルが高かったようだ。


「そうか、すまないな。俺がもっと分かりやすいところに居ればよかったんだが」

「ううん。私がワガママを言って、外で待ち合わせをしたいって言ったんだから気にしないで」


 上目使いで両手を合わせる香澄の姿を覗き込んでいる。香澄は胸が大きい、息苦しくなるらしく胸元が開いた服をよく着ている。俺の角度からは香澄の堪らん部分が丁度見えているのだ。目線を逸らすことができない。罪な女だ、香澄よ。


「それよりも本当に車じゃなくていいのか?今日は赤いフェラーリが使えたんだが」

「ううん。たまには街の風景を見ながら歩きたいの」

「そうか。俺は香澄がいいなら問題ないよ」


 何とか話題を変えることができた。歩きたいと言う香澄の姿はか弱く見える。しかし、見た目が儚い香澄だが、実際は弓道の有段者であり運動全般も得意なのだ。

 走ると揺れる胸が何とも他の男の視線を集めるのでやめてほしいのだが、彼女は歩いたり走るのが大好きなのだ。


「それよりも、最近は皆で集まることが減ったね」


 香澄が言う皆とは、幼馴染たちのことを言っているのだろう。俺達はいつも五人で行動をしていた。俺と香澄、あと男が二人と黄島キジマ 望ノゾミだ。

 黄島 望は、俺にとって特別な存在だった。一番古い幼馴染であり、家同士が決めた許嫁でもあった。しかし、俺が香澄と出会ったことで、二人の関係は終わりを迎え、最近俺から別れを告げたのだ。望は泣いていた。だが、俺は男らしく香澄を選んだ。だからこそ胸は痛んだが、泣いている望に何も声をかけずに立ち去ったのだ。

 でも、俺達は共有の秘密をもっている。だから会いたくないと言っていても、顔を合わせなければならない。せめてプライベートな時間ぐらいは会いたくないと思っても仕方ないだろう。


「まぁ、それぞれ大人になって仕事が忙しいからな」

「そうだよね。私も龍牙に会うの、久しぶりだもんね」


 香澄が久しぶりに会えて嬉しいと笑顔になる。可愛すぎる。流石は俺の天使だぜ。


「あっ、望!」


 香澄の笑顔に見惚れていると、香澄が望の名を出した。


「望?」


 香澄の言葉に視線を向けると、確かに望がそこにいた。男と二人で……


「望もデートなのかな?望!!!」


 香澄が悪気なく望の名を叫んだ。香澄の声に望が振り返る。望は美しい。香澄を白百合とするならば、向日葵のような力強さと牡丹のような美しさを併せ持つ完璧な美がそこにある。


「あれ?香澄じゃない。こんなところで何をしてるの?」


 望がこちらに気づいてやってくる。望に無理やり腕を引っ張られる形で、冴えないオッサンを連れてきた。


「香澄、久しぶり」

「本当に久しぶりね~」


 確かに顔を見るのは久しぶりだ。毎日でも顔を合わせてはいるが、それは仮面越しであり、生の顔を見ることは久しぶりだった。


「ねぇ、ねぇ。そちらの方は?」


 香澄が、望と腕を組んでいる男を見て質問を投げかける。ハッキリ言って冴えない男だ。休日だというのにスーツを着たままだし、顔もパッとしない。身長は170ぐらいか?180を超えている俺と並ぶと大分チビだな。

 特徴もなく、存在感もない。こんな男の何がいいんだ。


「こちらは上司の鈴木スズキ 太郎タロウさんよ。お付き合いしてるの」

「へぇ~昔から望ってモテてたけど、こういう人が好みだったっけ?」

「うん。太郎さんは、今までで一番素敵な人なの」


 今までで一番?こんな冴えないオッサンが?俺よりも上だって?冗談だろ。


「いいなぁ~そんなに素敵な人なんだ。よろしくお願いします、鈴木さん。私は桃鳥 香澄です。望とは学生時代からの友人なんです」

「こちらこそよろしくお願いします。鈴木 太郎です」


 冴えないオッサンが俺の香澄と握手をしている。香澄と手を離したオッサンが、こちらに手を出してくる。


「はぁ?」


 なぜ俺がこんなオッサンと握手をしなくてはならない。下等でミジンコのような平凡なオッサンに、握手する価値はない。


「俺はいい。赤城 龍牙だ」


 俺はオッサンの手を払いのけて、名乗る。だが握手はしない。


「あっ、はい。鈴木です」


 オッサンは俺の前で笑っている。どうしてそんなにヘラヘラしているんだ。


「今日はデート?」

「そうなのよ。なかなか時間が取れなくてね。香澄たちもデート?」

「そうなのよ。久しぶりのデートなの」


 香澄に悪気はない。俺と望が付き合っていたことを香澄は知らないのだ。


「そう、お互い楽しみましょう」


 望はそう言って俺達の前からいなくなった。望は俺のことがまだ好きなのだろう。だからあんな冴えないオッサンを弄んで、気を紛らわせているんだろうな。


「望って本当にいい男を見つけるのが上手いわね」

「えっ?あれが良い男か?」

「ええ。だって望の顔、凄く幸せそうだったもの」


 香澄は天然だからな。何もわかっていないのだろう……

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