第3話 秘密戦隊ゴーレンジャー
秘密戦隊ゴーレンジャー、地球侵略を企てる宇宙人から地球を守る五人のヒーロー。
お酒が弱い鈴木は記憶が残らない。昨日の出来事など忘れて、鈴木はいつも通り出社して、昼休みを迎えた。
昼は行き慣れた牛丼屋へと足を向ける。牛丼屋は昼ごろは賑わっていて、独身男の味方なのだ。早くて、美味くて、安いの三拍子は、一人暮らしの男にはありがたい場所である。
牛丼屋にはテレビが置かれており、ふとあることを思い出す。子供の頃にはよくテレビの中で、五人の正義のヒーローが戦う姿を見たものだ。
五色のタイツスーツを着たヒーローたちが敵を倒す姿に憧れ、追い詰められた敵は巨大化して、ヒーローたちは巨大ロボで立ち向かう。そんな特撮ヒーローに興奮したものだ。
「今回の宇宙人、半端ねぇよな」
大学生らしき男の子たちが興奮した様子で、テレビのニュースを食い入るように見ていた。いくつになっても戦いとは心躍るものなのだろう。昔はテレビの特撮ヒーローだが、今では現実に怪獣とヒーローが戦うのが日常になってしまった。
「あれはヤバいよな。緑色の液体出して服を溶かすとか、男のロマンじゃね」
「でもさ、服だけじゃ無くて、鉄とか地面も溶かすんだろ。マジで、ヤベーよ」
鈴木は牛丼を食べ終えて会社に戻るため立ち上がる。今日も残業が増えそうだと、溜息を吐きたくなる。
「あっ、係長。さっき課長が来て、係長に今日も残業だから伝えてくれって言ってましたよ」
「ああ、ありがとう。望ちゃんは今日は早めに上がっていいよ」
「マジですか?やったー。今日は彼と約束してるんですよ。彼と会う前に一度、家に帰りたかったんです。係長ありがとうございます」
彼氏がいるのだと知ってしまった。独り身である自分の侘しさが嫌になる。
「ははは。そんなに喜んでもらえたら何よりだよ。彼氏が羨ましいね。望ちゃんみたいな可愛い彼女がいるなんて」
「ヤダなー係長。褒めても何もでませんよ。まぁ、今度のバレンタインぐらいはあげますけど。でも、お返しは三倍ですよ」
バレンタインって、来年のことだろうか?先は長そうだと思いながら、恩返しなのに三倍のお返しの恐怖に身震いしてしまう。そんなことを鈴木が考えていると、望は鈴木にウィンクをしてデスクを後にしていった。今日も今日とて、作業着に着替えて地下に降りる。
「おっ、今日は早いじゃないか。鈴木君」
「はい。今日は黄島君に早く帰るように言いましたので」
「まぁ、そういう臨機応変さも大切だね」
「いえいえ。課長が事前に残業だと教えてにきてくれたおかげですよ」
鈴木は上司である前川をヨイショしながらご機嫌を取っておく。これこそ社会人としてのマナーだ。鈴木は大学まで卒業しているので、それなりの知識とマナーは普通に備えていると自負している。何より七年も勤めていれば、社会人としての作法を学ぶものだ。
「え~皆さん今日も残業ご苦労様です。今回は特殊な液体で破損が酷いため、一からの作り直しとなりました。それに伴い色の発注が間に合いませんでしたので、ピンク色だったものをなるべくピンクに見えるように工夫しなければなりません。どうか皆さんの力を貸してください」
「「「はい」」」
色の修正も修理部の担当なのだが、色が足りなくては仕方がないだろう。
社長の挨拶を終えて、鈴木は頭を捻る。修繕だけでは間に合わない。しかしトラブルを回避してこそサラリーマンというものだ。
「ねぇ、課長。いっそペンキを買ってきましょうか?」
「特殊合金に、ペンキで色づけできるかわからないけど……そうだね。頼めるかい、鈴木君」
「はい。とにかくモノは試しですね」
夕方でも、ホームセンターに行けば、ペンキは簡単に手に入る。便利な世の中になったものだ。二十四時間空いているホームセンターも当たり前になってしまったな。
「凄い大量に必要なんですね」
「はい。どうしても仕事で必要なので」
行きつけになりつつある、ホームセンターの定員さんに驚かれながら、大量のペンキを持って帰る。ペンキを持って帰れば、修繕はある程度終わっていた。修繕した部分は明らかな銀色だった。
「せめて白だったら誤魔化せたんだけどね」
「課長、とにかくやっちゃいましょう」
「仕方ないか……やろう」
買ってきたピンクのペンキを作業員に配って塗っていく。塗り終えて出来上がったロボットは、デコッたようにラメが入り、煌びやかだった。
「これって大丈夫でしょうか?」
「特殊塗料じゃないから色が付かないんだよ。ところどころ超合金部分が見えているけど、特殊塗料が入るまではこれでいこう」
鈴木が前川に問うと、前川が部長に、部長が社長に聞いてくれてOKが出た。
「鈴木君、お手柄だね。今日は仕事が終わりだから帰っていいよ」
前川に挨拶をして作業着を脱ぎ捨てる。時刻は23時を指していた。今日は大量のペンキを運んだので肩が痛い。
「マッサージでも行こうかな?」
腹も空いていたが、身体の痛みを優先することにして、食事はコンビニオニギリで済ませておく。
「すみません。一人で60分コースいけますか?」
「いらっしゃいませ」
鈴木には七年間で、行きつけになったマッサージ店がある。店は女性しかいないが、南国風に揃えられた家具と音楽が、リゾートマッサージを楽しませてくれる。その実、マッサージ自体も気持ちよく体の痛みが無くなるのだ。
「いつものコースですね。指名はありますか?」
「あっ、じゃあウララさんで」
なんだか如何わしい店のような受け答えだが、マッサージ屋さんにもルールがあるらしい。何人かのマッサージ師がいて、全員源氏名を持っている。ウララと言ってはいるが、本当の名前は知らない。
「ウララさんですね。ご用意しますので、どうぞ中にお進みください」
簡単に作られたゲートを通ると、椅子が置かれており、間仕切りされたベッドが置かれている。
「お待ちしていました。鈴木さんいらっしゃい」
ウララは髪が長く、グラマラスな女性である。ここまでの流れであれば、如何わしい想像をしてしまうが、全くそういう店ではない。
「今日もお願いします」
ベッドに案内されて背広を脱いで、店が用意してくれたラフな格好に着替える。
「では、うつぶせで寝てください」
顔を穴に埋めて、マッサージが開始される。いくつもの手によってマッサージにされているかのような心地よさと、満足感を覚えながら鈴木は眠りに落ちた。
「鈴木さん、鈴木さん。終わりましたよ」
「えっ!」
ウララに起こされて、顔を上げた鈴木は、ぼやけたままの視界でウララの顔を見る。
「あっ、ありがとうございます」
状況を理解して、鈴木が頭を下げる。
「どういたしまして、またいらしてくださいね」
ウララに見送られて店を出る。肩の痛みは完全になくなっていた。
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