第2話 ロボット

ロボット、機械として組み立てられ、人間に似た種々の動作機能を発揮するもの。


 鈴木は目の前に立っている巨大ロボットを見上げる。五つのロボットが合体した姿であり、身長五十七メートル 体重五百五十トンもある。鈴木の仕事は、人材管理以外に巨大ロボットの修理と雑用があるのだ。


「今日も破損が酷いですね」


 修繕担当している監督に声をかける。


「おう。鈴木君か。雑用ご苦労さん」

「いえ、僕にできるのはこれぐらいですから」

「そんなことねぇよ。お前らがいるから俺らは作業に集中できるんだ」


 地下では様々な人間が働いている。多くの通路が繋がれており、いくつかの中小企業が巨大ロボットに携わっている。その一つで、修繕の整備担当をロボット開発研究所、ロボット開発部部長の的場マトバ 元ゲンと鈴木は仲良がよかった。鈴木の仕事は基本的に掃除なので、色々なところに顔を出すのだ。


「相変わらず素晴らしい手際ですね」


 鈴木が感心するのも無理はない。開発者というと研究者を想像するが、的場は職人気質で、その部下も手先が器用な整備士が揃っている。また仕事が終わるまでは一切無駄口を叩かない徹底ぶりである。


「そんなことねぇよ。まだまだだ」


 どうして鈴木が他部署の部長と親しく話しているかというと、的場は大の酒好きで部長ということもあり、鈴木は勤めだしてからの七年間の間、ずっとお中元とお歳暮にお酒を送り続けていた。

 そのため、的場の方から鈴木に声をかけるようになり、今では気軽に話しができる関係にまでなることができたのだ。的場は部長ではあるが、歳は三十五とまだ若い。鈴木も歳が近いということで話しやすかった。


「それじゃ、作業の邪魔になりますので、片付け始めます」


 修理中は大量の鉄屑が作り出される。気合いを入れて清掃しないと熱い鉄は冷めてしまうと固くなって取りづらい。


「そっちの手際もたいしたもんだな」

「えっ、普通ですよ、普通。平凡なことしかできませんから」

「そんなことねぇと思うけどな」


 的場に褒められて嬉しくなる。だが、結局は落ちた鉄をいかに早く取るかということなので、特別凄いことは何もしていないと鈴木は思っていた。


「それじゃ。今日は作業終わりましたので、次に移動します」

「おう。ありがとうな」


 的場に礼を言われて何度か頭を下げて、その場を後にする。


「なぁ、これで普通の仕事だと思うか?」


 普通工場や鉄くず屋は火花が飛び散り鉄がまとめて落ちるので、床が黒ずむ。しかし、鈴木の掃除した後には黒ずみは多少あるものの、作業したとは思えない綺麗さだった。


「いやぁ相変わらずスゴイっすね」

「だな。アイツこれを普通っていうんだからおかしなやつだ」


 的場と部下は鈴木の言動を謙遜ではないことを知っている。だからこそいつも鈴木が来ると感心して背中を見送っている。


「負けてらねぇな。お前ら働け!」


 的場の怒声が飛び交う。修繕場を後にした鈴木は作業着を脱いで、帰り支度を済ませる。


「今日も寄って行くか」


 鈴木には行きつけの飲み屋がある。会社近くでやっている屋台なのだが、亭主の気紛れで閉まっていることがある。


「おっ、今日はやってるなラッキー」


 鈴木が提灯の明かりをみつけて近づいていくと、おでん屋の亭主が出迎えてくれる。


「おっ、鈴木さん久しぶりだね」

「久しぶりです。オヤジさんが店を開けてくれないから寂しかったですよ」

「がはははは、すまねぇなちょっとした事情があってよ。まぁしばらくはやってるからまた来てくれよ」


 鈴木はこの気紛れなオヤジが好きだった。何よりオヤジが作るおでんは美味い。会社近くの公園で食べられるというのもありがたい。仕事終わりで疲れた体におでんの暖かさと日本酒の相性は美味しさを体に染みわたらせる。


「美味い。やっぱりオヤジさんのおでんは最高ですよ」

「そう言ってもらえるとありがたいねぇ」


 オヤジさんは鼻の頭を掻いて照れている。


「そんなことより、最近の景気はどうなんだい?」

「ボチボチですね。僕自身は仕事をしてお給料を頂いているのでありがたい限りです」

「はははは、鈴木さんは欲がないねぇ」


 欲がないと、よく言われるがそんなことはないと思う。普通に彼女もほしい、結婚もしたい。だが、こんな平凡を画に書いたような僕に彼女などできるのだろうか。


「オヤジさんおあいそ」


 おでん七個と冷酒を二杯飲んで、鈴木はおでん屋を後にした。高級マンションを眺めながら、イケダハイツと書かれた二階建ての集合住宅に入って行く。階段を上がり二階の自宅扉に差し掛かったところで、眩い光が鈴木を襲う。


「うわっ!なんだ?」


 光が収まると鈴木の前にダチョウの卵ぐらいの大きさの卵が置かれていた。


「卵?」


 マダラ模様の卵を持ち上げると温かい。


「えっと、何の卵だこれ?」


 鈴木は酒に弱い。酒は好きだが弱い。だからこそ冷酒二杯で正常な判断ができない。


「まぁいいか。明日食べよう」


 そう言って卵を抱えて部屋に入った。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る