18 火の玉の正体
「夢守少女ユメミ、再び登場!」
わたしは、大地くんの夢の中――病院の屋上にもどった。
しかも、運がいいことに、
「な、なに⁉ さっき消えたと思ったのに、わずか数秒で……!」
わたしに背後をとられたヒガンは、冷静さを失い、
わたしは
「すきあり! いでよ、ピコピコハンマー・ビッグサイズ‼」
わたしは、両腕を目いっぱい広げたぐらい大きいピコピコハンマーを出現させ、大きくふりかぶってヒガンにたたきつけた。
ピコピコーーーン♪
ピコピコハンマーの楽しげな音ととともに、ヒガンは「う、うわーーーっ‼」とさけびながら吹っ飛ぶ。
そして、吹っ飛んだヒガンは、ヒカルさんと大地くんを閉じこめている
「げ、げふぅ~……」
バタリ、とたおれるヒガン。すると、檻がサーッと消えていった。たぶん、ヒガンの
「あに……あ……に……兄上ぇぇぇ! どこぉぉぉーーーっ⁉」
あっ、いけない!
檻がなくなったから、火の玉がヒカルさんにおそいかかろうとしている!
このままだと、ヒカルさんと大地くんが危ない!
「ヒカルさん、大地くん。いま助けるね!」
わたしはアクアマリンの輝きをはなつ
「ふたりとも、わたしの手をにぎって!」
「わ、わかった!」
「ありがとう、美人でかっこいい姉ちゃん!」(わたしの大地くんへの
ヒカルさんと大地くんの手をガシッとつかんだわたしは、再び舞い上がり、火の玉から逃れてバクくんの横に着地した。
「ユメミ、すごいばく! ひとりでヒガンとスイレンをやっつけたばく!」
バクくんがピョンピョンと飛びはね、わたしに抱きつく。
うおお⁉ バクくんのほうからわたしにスキンシップを……‼
にゃらろれほへほへろーーーん‼(言葉にならない喜びのおたけび)
「ユメミ……。すごいニヤニヤしてよだれをたらしているが、だいじょうぶか……?」
ヒカルさんが、
し、しまった! イケメンに恥ずかしいところを見られてしまった! 一生の不覚!
「な、なんでもないです。
わたしはあわてながらごまかそうとした。
でも、そんなとき、
「まだ終わってないわよ、夢守少女!」
怒りに満ちた怒鳴り声。
ずっとダウンしていたスイレンが回復して、わたしたちをにらんでいた。
「す、スイレン! あなた、いつの間に復活してたのよ⁉」
「ついさっきさ! 燃え
銀の
げっ、やばい! スイレンは火の玉を
わたしはとっさに両手を前に突き出し、「いでよ、
ぼん!
わたしが生み出したヒカルさん(
「あははは! ボクはこっちさ! つかまえてごら~ん☆」
と、言いながら走り出す。
火の玉は、「兄上ぇぇぇ……」とうめき声を上げてヒカルさん(幻)を追いかけ、わたしたちがいる場所とは別方向に飛んでいった。
「あ、アホ! そいつは幻よ!」
スイレンはぐいっと引っ張り、無理やり火の玉を
「おい、ヒガン! いつまでダウンしてるのよ! 手伝いなさいな!」
スイレンは、自分がずっとダウンしていたことは
そして、たおれているヒガンの鼻の穴に指をつっこみ、
「あたいの夢想力をちょっとわけてやるよ! えいっ!」
「ふ……ふんごごぉぉ!」
鼻から夢想力を
い、嫌なエネルギーのゆずりかただ……。
バクくんが「やっぱり、あいつ、めっちゃアホばく!」とあきれている。
「フ……フフフ……。さっきはよくもやってくれましたね、
復活したヒガンは鼻をおさえながら、よろよろと立ち上がり、「いでよ、
う、うげっ⁉ 注射器って、もしかして……。
「ま、前に見た悪夢……巨大注射器だぁぁぁぁぁ‼」
いやぁぁぁ! 注射器いやだぁ~!
目の前に出現した10本の巨大注射器におびえ、パニックになったわたしはドスンと
「いまだ! 火の玉よ、行けぇぇぇ‼」
スイレンが銀の鎖で火の玉を操り、燃え盛る火の玉がわたしたちに飛びこんできた!
し、しまった!
「オレにまかせろ! ……
戦闘できるだけの体力が回復していたヒカルさんが刀を振り下ろし、小さな
「あっ! ヒカルさん! あの火の玉は、もしかしたらヒカルさんの妹……」
「あの悪夢使いの夢幻鬼たちは、火の玉にオレの死んだ妹の声マネをさせてオレの
ヒカルさんはそういうふうに
ドガガーーーン‼
火の玉は雷の攻撃をまともにくらった! ……けれど、あんまりダメージはない様子だ。
「あはははは! アホめ! この火の玉にはそんな攻撃はきか……ぎゃびびびびぃぃ‼」
雷は鎖をつたい、スイレンをビリビリとしびれさせた。
コントロールしているスイレンがダメージを受けてずっこけたため、火の玉は近くを走っていたヒカルさん(幻)を再び追いかけはじめた。
「同じ手に二度も引っかかるおまえのほうが、アホだ!」
「な……なんだとぉ~! アホって言うほうがアホなんだぞ! アホー! アホー!」
「落ち着いてください、スイレン。今度はわたしが攻撃します。……行け、巨大注射器‼」
ぎ、ぎえぇぇぇぇ‼ 巨大注射器がこっちに来るぅぅぅぅ‼
もう、注射は嫌だぁ~~~‼
「ユメミ、しっかりするんだ! ……雷走り!」
ヒカルさんが「雷走り」を
ひ、ひいぃぃぃぃ‼ お、おたすけぇぇぇ‼
「ユメミ、パニックになっているばあいじゃないばく! いまのユメミなら、あんなのかんたんにふせげるばく!」
「そ、そうか! ……いでよ、バナナ!」
「バナナだして、どうするきばく⁉」
「…………アイ・ドント・ノー」
わたしはバナナを片手にぼうぜんとしてしまった。
眼前には、
あっ……もうダメだ。完全にオワッタ……。
「ユメミはバクがまもるばくぅぅぅ‼」
「ば、バクくん⁉」
バクくんが、わたしの前に立ち、巨大注射器たちと
ダメだよ、バクくん! に、逃げてーーーっ‼
「……ちっちゃくなったからって、なめるなばく。これぐらいのあくむ、たべきってやるばく!」
バクくんは、ぐわぁ~と口を大きくあけると、ピョンとジャンプした。そして、思いきりスゥーーー! と息を吸いこみはじめた。
あ……あれは、はじめてバクくん(オレさま系イケメン)と出会ったときに見た……。
「あれは……夢幻鬼・
ヒカルさんがおどろき、さけぶ。
「スゥーーーーーーー‼」
吸いこむ。吸いこむ。どんどん息を吸いこむ。巨大注射器たちは、バクくんに吸い寄せられるように、飛んで来る。そして、バクくんに近づくにつれて、注射器はどんどん小さくなっていき、ふつうの注射器のサイズになっていく。
前に見たときは、
「バクくーーーん‼」
「ひさしぶりのごちそう、おいしくいただいてやるばく! スゥーーーーーーーごっくーーーん‼」
の、飲みこんだ!
1本目の注射器を飲みこんだバクくんは、立て続けに、ごっくん、ごっくん、ごっくんと他の注射器たちも飲みこみ、6本全部を完食してしまった!
ひょ、ひょえぇぇぇ~~~! 注射器を食べるなんて、はたから見ていても痛そう!
でも、バクくんは苦しそうな顔をするどころか……。
「ふ……ふふふ……。これで、パワーアップできるかもな……」
わ……笑ってる? しかも、なんだか
ピカーーーッ‼
な、なんなの⁉ いきなりバクくんが黄金色に輝きだしたよ⁉
しかも、体が見る見るうちに成長していっている……!
「夢幻鬼・獏さま、復活だぁ! わははは!」
黄金の輝きがおさまると、そこにいたのはわたしと同じくらいの身長の赤髪の少年だった。も、もしかして……。
「ば……バクくん? バクくんなの?」
わたしが恐る恐る声をかけると、赤髪の少年はふりかえり、
「ユメミ、安心しろ。これからは、オレさまがおまえを守ってやる」
そう言いながら、イタズラっぽい表情でニヤリとほほ笑んだ。
その笑顔は、わたしが想像していたオレさま系イケメンの何倍もかっこよくて、頼もしくて――。
「ち、ちょっと、ちょっと、ヒガン! あんたの攻撃で夢幻鬼・獏が復活しちゃったじゃないのさぁ~! どうすんのよ!」
「これは
わたしがバクくん――いまは夢幻鬼・獏か――にドキドキしているあいだに、スイレンとヒガンがまたなにか悪いことをひそひそと話し合っているみたいだ。
い、いまはドキドキしている場合じゃない! あいつらがなにかをやらかす前にこっちが先に動かなきゃ!
「獏くん! お願いがあるの!」
「おう! なんでも言え! おまえはオレの
「火の玉を
「鎖を引きちぎってやればいいんだな。フン……その
獏くんはそう言い放つと、ダン! と地を
「スイレン! 獏は鎖を引きちぎるつもりです!」
「そうはさせるか!
スイレンは、バレーボールぐらいの大きさの火炎球を手のひらから出し、獏くんに投げつける。
ば、獏くん! 危ない!
「おっ、これはなかなかのごちそうじゃねえか」
獏くんは、なんと、強力な
ほ……炎のかたまりを食べてるぅ……。さすがは、悪夢喰らいの夢幻鬼……。
「こんな鎖を引きちぎるぐらい、夢想力で武器を出すまでもない。
獏くんはフンと笑うと、
「げ、げげっ! あたいの銀の鎖が、あんなにもあっさりと! ゾウを3頭ひっぱってもちぎれないぐらいがんじょうなのに!」
やった! これで、火の玉をヒガンたちから助け出すことができた!
「ユメミよ。火の玉をヒガンたちから
「ヒカルさん。あの火の玉は、たぶん、茜さんだと思うの」
「なぜ、君がオレの妹の名前を……」
「わたしが、あの火の玉を……彼女を元の
わたしはそう言うと、うららちゃんからもらった「うつつさらしの手鏡」をポン! と出現させた。
「『うつつさらしの手鏡』よ、あの火の玉の真実をあばけ‼」
そうさけび、鏡をこちらに飛んで来る火の玉に向けてかかげると、
ピカーーーッ‼
と、鏡からまばゆい光があふれだし、その光は火の玉を優しくつつみこんだ。
「な……なにが起きているんだ⁉」
「ふぎゃーーー! まぶしくて目がつぶれる~~~!」
ヒガンとスイレンがおどろき、ヒカルさんもあっけにとられている。
やがて、光につつまれた火の玉は炎の
「あ……茜⁉ ほ、本当に茜だったのか! 何百年も前に死んだはずなのに、なぜ……」
ヒカルさんは急いで
「わたしも茜さんがどうして火の玉になって夢の世界をさ迷っていたのかはわかりません。でも、彼女はずっとヒカルさんを探し求めていたんだと思います」
「……オレはそうとも気づかずに、妹から逃げ続けていたのか。茜、すまない。許してくれ……」
ヒカルさんは
でも、茜さんの目には光がなく、「兄上……どこぉ……?」と同じセリフばかりつぶやいている。お兄さんに抱きしめてもらっていることも、わかっていないみたい。
「夢幻鬼ヒガン、スイレン。よくも、妹を鎖でしばり、オレと戦わせようとしたな。許さん……!」
「いや、わたしたちは、その火の玉の正体までは知らなかったのですが……」
「
ヒカルさんは、茜さんを抱きしめながら、怒りの
「わたしも、絶対に許さないよ! ヒガン! 結衣ちゃんから奪った夢を返しなさい!」
わたしはピコピコハンマー……はさすがにかっこつかないので、
巫女服に薙刀ってけっこう合いそうと思って出したけど、よく考えたら薙刀のふりまわしかたなんて知らないや。どうしよう。
「これで、おまえたちはジ・エンドだな。ユメミにさんざん恐い思いをさせた
獏くんは
「ひ……ヒガン。これはちょっとやばいんじゃないの?」
「……みたいですね。ここは逃げましょう。逃げるのも作戦のひとつです」
スイレンとヒガンは戦意を失ったのか、背中に黒い
あっ! ちょっと! 結衣ちゃんの夢をまだ取り返していないのに、逃げないでよっ!
わたしたちがあわてて蝶の羽をはばたかせて追いかけようとしたとき――。
とんでもないことが起きたのだ。
空にぽっかりと穴があき、その穴から……。
なんと、たくさんのウサギたちが降ってきたのだった!
「ひ、ヒガン! 空からウサギが!」
「な、なぜにウサギ⁉ ……ぎゃぁぁぁぁぁぁ‼」
スイレンとヒガンは、空から舞い降りた100羽近いウサギたちの
「どうやら、あたしの活躍のチャンスはまだありそうね」
「ハクトちゃん⁉」
声がしてふりかえると、ニヒヒと笑っているハクトちゃんが、屋上のフェンスの上で
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