12 4人で勉強会! ……え、4人?

 わたしは、悲しい過去を背負っているらしいヒカルさんのことが気になって仕方がなかった。それに、なぞの火の玉にストーカーされているのも、すごく心配だった。


 でも、今日は愛花ちゃん、結衣ちゃんと約束した勉強会の日だ。


 テスト勉強を助けてもらうがわのわたしが、ヒカルさんのことばかり考えてボーっとしているわけにはいかない。


 しっかり、3人で勉強しなくちゃ!


 ……と、わたしはネガティブ思考しこうの性格なりに前向きになろうとがんばっていたの。


 このときは、夢の世界だけでなく、現実世界でも夢にまつわる不思議な事件が起きてしまうなんて想像もしていなかったのよね……。






「ユメミちゃん、こんにちは~。今日はテスト勉強がんばろうね」


「ユメミは文系が得意で、理系が苦手なのよね。わたしは理系が得意だから、なんでも聞いて?」


「ふわぁ~。眠たいのぉ~。学問がくもんは苦手じゃ~。お昼寝したい~」


 愛花ちゃんたちは、約束通り、午後1時ごろにお家にやって来た。


 わたしは愛花ちゃんたちを緊張きんちょうしながら自分の部屋に招き入れ、


「き……今日はお手やわらかにお願いたてまつります!」


 と、ペコペコお辞儀じぎした。


「ぷぷっ。ユメミちゃんったら、相変わらず固いんだからぁ。わたしたちはクラスメイトなんだよ? もっとくだけていこうよ」


「それに、ユメミはたまに日本語変よ? ねえ、うらら」


「うむ、ユメミさまの日本語はちとおかしいぞ。そう緊張なさるな。われらは学友がくゆうではないか」


「は、はぁ……。どうも……」


「じゃあ、早速、4人で力を合わせて勉強をしましょう」


 結衣ちゃんがそう仕切ると、わたしたちは「は、はい!」「うん、がんばろう!」「御意ぎょい!」とめいめいに返事をしてうなずいた。


 そうだ。いい点をとって、お父さんとお母さんを安心させなきゃ。


 がんばってテスト勉強をしよう、この4人で!


 …………ん?


 よ、4人?


 勉強会のメンバーは、わたしと愛花ちゃん、結衣ちゃんの3人だったはず。


 でも、いまここにいるのは4人だ。ひとり、余分よぶんなのは――。


 さっきから時代劇みたいなしゃべりかたをしていて、なぜか巫女みこさんのコスプレをしている、小柄こがらな女の子だ。


 こ……この子、だれっ⁉


 怪しさMAXなんですけど‼


「あ……あの~……あなたは、どちらさまですか?」


 わたしがおそるおそるたずねると、巫女コスプレの少女はニコリと笑い、


「ワシか? ワシは賀茂かもうららじゃ。うららちゃんと呼んでくれ、ユメミさま」


 と、名乗った。


 賀茂うらら? なんだか、アイドルみたいな名前。しゃべりかたは時代劇口調くちょうだけど。


「あはは。ユメミちゃん、なに言ってるの? うららちゃんはわたしたちのクラスメイトじゃない」


「わたしの名前も覚えてなかったけど、ユメミって人の顔や名前を覚えるの苦手?」


 愛花ちゃんと結衣ちゃんが笑いながら、わたしをからかう。


 い、いやいや! たしかに、わたしは人の顔や名前を覚えるのは苦手だけど、こんな時代劇口調で話す独特な子が教室にいたら、さすがに覚えてるよ!


「え? え? か、賀茂うららちゃんって……本当にうちのクラスの子でしゅか?」


 混乱のあまり、ちょっとんじゃった。


「ユメミさま。また日本語がおかしくなっておるぞ?」


「あ、あなたに言われたくないですぅ~!」


 ていうか、この子はなんでわたしのことを「さま」づけで呼んでるの?


「少しは落ち着くのじゃ、ユメミさま。病弱の身なのだから、あまり興奮こうふんしたら体にさわるぞ」


 不審人物あなたがクラスメイトのふりをして家に上がりこんでいるから、コーフンしてるんですぅ~! はぁ、はぁ、はぁ……。


 も、もう~! この子、いったい何者なの~⁉






 体力がないわたしは、ちょっと興奮しただけでどっとつかれてしまい、賀茂うららちゃんが何者か追及ついきゅうする気力も失ってしまった。


 え? 情けないにもほどがあるって?


 これ以上さわぐと、勉強する体力までなくなっちゃうから、やむをえないのだよ……。


 それに、もしかしたら、本当にわたしが賀茂うららちゃんの存在そんざいに気づいていなかっただけなのかも知れないし。


 ほら、学校では大人しくて目立たないけど、休日はノリノリで元気な子っているじゃない?


 休みの日に仲のいい友達と遊ぶときだけ、巫女さんのコスプレしたりぃ、時代劇口調でしゃべったりぃ、そういう子、あなたの友達にもい……ませんよね。すみません……。


 わたしは、なぞの少女うららちゃんのことが気になりつつも、愛花ちゃん、結衣ちゃんといっしょに3時間ぐらいまじめにテスト勉強をした。


 うららちゃんはというと……。


「ふわぁ~、眠たいのぅ。だれか、膝枕ひざまくらをしておくれ」


 勉強する気が完全にゼロで、教科書を読むふりをしながら(でも、本を逆さにしている)、「眠たい、眠たい」ばかり言っていた。


 膝枕なんてするわけないじゃん。いったい、なにしに来たの、この子……?


 わたしはあきれていたけれど、愛花ちゃんと結衣ちゃんは「うららちゃんは、ホントにしょうがいない子ねぇ」「テストで赤点取っても知らないわよ?」と笑っている。


 自分で言うのもアレだけど、わたしはごくごく平凡な病弱美少女ながら、ほんのちょっと変わったところがある女の子だ。(え? ほんのちょっとじゃない? なんでよ⁉)


 でも、うららちゃんは変わり者とかいうレベルじゃない。


 全身くまなく、どこをどう見ても、完璧かんぺきな変人さんである。パーフェクト変人だ。


 それなのに、常識人じょうしきじんの愛花ちゃんと結衣ちゃんが、うららちゃんになんの疑問ぎもんも持たないのは、なんでだろう。すっごく自然に受け入れていて、逆に不自然だ。


「……ちょっと疲れたわね。今日はこれぐらいにしておきましょうか」


 熱心にわたしに数学の公式を教えてくれていた結衣ちゃんが、自分の肩をもみながら、ふぅ~とため息をつく。


「結衣ちゃん、お疲れさまです。教えかたがとても丁寧ていねいで、すごく助かりました。ありがとうございます」


 わたしは、三つ指をついて深々とお辞儀をした。


「やだ、ユメミったら。旅館りょかん女将おかみじゃないんだから、そんなおおげさなお辞儀しないでってば。ホントに変わった子ねぇ~」


 結衣ちゃんが苦笑すると、愛花ちゃんとうららちゃんまで笑った。


 ……ううぅ~。うららちゃんにだけは笑われたくないよぉ~。


「ふぅ……。それにしても、ちょっとこんをつめすぎたわね。ユメミはだいじょうぶ? 疲れてない?」


「あっ、はい。ふだんから妄想で頭をトレーニングしているから、考え事するのはそんなに疲れないんです」


 わたしがそう答えると、結衣ちゃんは「妄想でトレーニング……?」と怪訝けげんそうな表情でつぶやく。


 ほへ? わたし、なにか変なことを言ったかなぁ?


「結衣ちゃん、なんだか調子悪そうだけど、だいじょうぶ?」


 大人びていて気配り上手の愛花ちゃんが、心配そうな表情で、結衣ちゃんの顔をのぞきこんだ。


 勉強の遅れを取りもどすために必死こいてプリントの問題を解いていたわたしは、愛花ちゃんに指摘してきされるまで気づかなかったけれど、よく見たら、結衣ちゃんの顔はわずかに青かった。


「ゆ、結衣ちゃん、風邪かぜですか⁉ お薬持って来ましょうか⁉ あっ、それとも、110番⁉」


 わたしはあわあわとあわてて、立ち上がる。


「110番は警察よ。救急車を呼ぶのは119番。そんなに心配しなくても、わたしはだいじょうぶだから落ち着いて、ユメミ。……ちょっと心配ごとがあるだけだから」


「え? 心配ごと?」


 わたしが首をかしげると、愛花ちゃんが「もしかして、弟くんの手術のこと?」と言った。


「……うん。わたしの3歳下の弟・大地だいちは、もともとは腕白わんぱくな子だったんだけれど、春先に病気になっちゃってね。いまは入院しているの。それで、来週の金曜日に手術することになって……」


 結衣ちゃんは顔をうつむかせ、ポツリ、ポツリと語る。


 そっか……。それは心配だよね。テスト勉強どころじゃないよ。でも、それでも、困っているクラスメイトのために勉強会を開いて、わたしを助けてくれたんだ……。


 もしかしたら、ずっと入院していたわたしと、病気の大地くんを重ね合わせていたから、親切にしてくれたのかもしれないけれど、そうだったとしても、わたしは結衣ちゃんの優しさにジーンとしてしまった。


「それほど難しい手術ではないってお医者さんが言っていたから、そんなに心配していたわけではなかったの。でもね、昨日の夜に気になる夢を見て……」


 え? 夢?


 夢守ゆめもりのお仕事をしているわたしは、結衣ちゃんが見た「気になる夢」というキーワードにピクンと反応した。


「どんな夢だったんですか?」


「それがね……病院のベッドで眠っている大地のそばに、白いヘビがにゅるにゅると近寄っていく……っていう夢だったのよ」


 へ、ヘビ? わたし、ヘビは苦手……。まあ、「ヘビ大好き!」という女の子は少ないと思うけど。


「それはたしかに、気になる夢だね……」


 愛花ちゃんがちょっと心配そうにまゆをひそめる。


 病気の弟くんにヘビが近づく夢なんて見たら、お姉ちゃんとしては「吉夢きちむなのかしら。それとも、凶夢きょうむ……?」って気になるよね……。


「わたし、家の近所の諏訪すわ神社に毎日お参りして『弟が早く元気になりますように』ってお祈りしていたのに、なんであんな不気味ぶきみな夢を見ちゃったんだろうと思って、不安で仕方なかったの」


「なるほど。それで、元気がなかったんですね」


「……それが、話にはまだ続きがあるのよ」


 え? 夢を見たあとにも、なにか不吉なことがあったのかなぁ?


「わたしはこう見えてかなり迷信めいしん深い性格でね。勉強会に参加するために家を出た後、ヘビの夢にどんな意味があったのか悩みながら、駅前の商店街を歩いていたのよ。そんなとき、ちょっとミステリアスな雰囲気ふんいきのお兄さんに声をかけられたの。『おじょうさん。昨晩さくばん奇妙きみょうな夢を見ましたね』って」


 結衣ちゃんの話によると、そのお兄さんは、


「わたしは、夢を専門に占う、つじ占い師です。あなたが見た夢の吉凶を占ってあげましょう」


 と、結衣ちゃんに言ってきたそうだ。


 おかしな夢を見たことを言い当てられて、そのお兄さんのことをすっかり信用してしまった結衣ちゃんは、白ヘビの夢をお兄さんにくわしく話した。


 すべてを聞き終えた夢占いのお兄さんは、「それは恐ろしい凶夢です。まちがいなく、弟さんに不吉なことが起きるでしょう」と断言だんげんした。


「お、弟は、来週の金曜日に手術を受けるんです。なんとか、わざわいからのがれる方法はないでしょうか」


「ひとつだけ、方法があります。それは、『夢買い』という儀式ぎしきを行なうことです」


「『夢買い』……? なんですか、それは?」


「他人の夢を買い取ることですよ。わたしが、あなたの夢を買いましょう。そうしたら、あなたが見た凶夢をわたしが引き受けることができます」


「え⁉ そんなことをしたら、あなたが大変なことになりませんか?」


「夢占いのプロであるわたしは、そういう災いから身を守るすべをちゃんと知っています。だから、安心してください」


 夢占いのお兄さんはそう言うと、結衣ちゃんに小さなお守りを手渡し、


「あなたの夢と、わたしのお守りを、交換こうかんしましょう。これで、『夢買い』の取引とりひきは成立しました。弟さんの身に災いがふりかかることはないでしょう。あとそれから、これは無病息災むびょうそくさいのお守りなので、弟さんに持たせてあげると手術がうまくいくはずです」


 と、言ってくれたそうだ。


 わたしはそこまで話を聞いて、なんだかそのお兄さん怪しいなぁ~と思った。


 小説やマンガとかだと、だいたいそういうパターンって、「実はそのお兄さんは悪い人で、わなにはめられたのでした!」ってなっちゃわない?


 うさんくささプンプンだよ。


 結衣ちゃんも、あとで冷静になってから同じようなことを考えたらしく、


「おかしな夢を見た不安に負けて、夢を他人に売るだなんて奇妙な儀式をやっちゃったけど……。もしも、あの夢が本当は吉夢だったら、逆効果になるんじゃないかって余計よけいに不安になってきたの」


 と、わたしたちに告白した。


 なるほど。それで、勉強をしているあいだも不安で仕方なく、顔色が悪かったのか。


「……結衣どの。その夢占いの男からもらったというお守りを見せておくれ」


 さっきからずっとうたた寝していたはずのうららちゃんが、急にそんなことを言いだす。


 うららちゃんの声は、ふざけてしゃべっていたときは甲高かんだかくてきゃぴきゃぴしていたけれど、いまは中学生の少女にしては声が低くて大人の女性みたいな落ち着きがあった。……急に雰囲気ふんいきが変わった?


 結衣ちゃんは「いいけど……」と言い、バックに入れていたお守りをうららちゃんに渡した。


 夢占いのお兄さんからもらった薄墨色うすずみいろのお守りは、なんの変哲へんてつもないお守りに見える。でも、神社やお寺の名前が記されていないのは、ちょっと気になるかも。ふつう、書いてあるよね?


「ワシの知り合いに霊験れいけんあらたかな神社の神主かんぬしがおる。その神主にこのお守りを見せてみよう。彼なら、このお守りが、ちゃんと効き目のあるお守りか、それとも、怪しげな呪いのアイテムかわかるはずじゃ。そして、結衣どのが見た夢の吉凶もその神主に聞いておいてやろう」


「え? いいの⁉」


「ああ。学友が困っているのだ。それぐらいのこと、お安いご用じゃ」


「ありがとう! それじゃあ、そのお守り、うららにあずけるからよろしくね!」


 結衣ちゃんはちょっとだけ安心した表情になり、みんなでしばらくティータイムを楽しんだ後、愛花ちゃんといっしょに帰って行った。


「……ええと~、うららちゃんは帰らないの?」


 解散後、うららちゃんは、なぜかいまだにわたしの部屋にいすわって、7杯目の紅茶こうちゃをゆったりと飲んでいる。……お腹、こわすよ?


「……ねえ、うららちゃん。本当に神社の神主さんに知り合いがいるの?」


「ワシは、たくさんの神主と知り合いじゃよ。しかし、わざわざ彼らの力を借りるまでもない。このお守りは、どう見ても、呪いのアイテムじゃ」


「え……?」


「これはきっと悪夢使いの夢幻鬼むげんきがしかけた罠じゃな」


 からになったティーカップをテーブルにゆっくり置くと、うららちゃんはニッコリと笑い、元のきゃぴきゃぴした声で、トートツにそんなことを言った。


 そして、薄墨色のお守りをかざし、わたしにつきつけたのだ。


「さあ、出番でございますよ。夢守少女ユメミさま」


「へ⁉ ゆ、夢守少女とか、夢幻鬼って、なんのこと? な……なにかのアニメかマンガの話?」


 夢の世界の住人しか知らない「夢守」「夢幻鬼」というキーワードをうららちゃんが口にしたものだから、わたしはビックリして、どもりながらなんとかごまかそうとする。


「ごまかさなくてもいいのじゃよ、夢守少女ユメミさま。ワシは、あなたの味方なのだから」


「味方って……あなた、本当に何者なの?」


「ワシか? ワシは……夢げの巫女。千年の時を生き、神々からのお告げを人々に伝える者じゃ」


 千年の時を生き……って。


 またわけのわからない新キャラ出てきたぁぁぁーーーっ‼

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