第5話 『HOPE』と『BLOOD』

ユキの父が残した録音機があるという廃墟があるらしい。ユキに引っ張られながら歩くのである。周りからは変な目で見られてないかな…って、居たとしても『ゾンビ』か…

「後どのくらい…?」

「後少し」

「了解っス…」

あまりの即答だった。先程から同じく「後少し」と言っている所に不安を感じるが、それでも前へ進む事を止めない2人だった。


街は壊れかけている─

壁はひび割れや窪(くぼ)みなどが目立つ。

人はもちろん、動物すら住まない。居たとしても環境に適した『新型』の生物だけだ。

腐った臭いが漂う─

『ゾンビ』共が襲った証拠だろう。地面はまともな形状をしてない。強靭(きょうじん)な力を持つ『ゾンビ』は歩くだけでこの有様である。街には赤い物体がある。グチャグチャしていて、臭いが強烈である。正体は人間の食い尽くされた肉である。街の店の定員や観光者などだったんだろう。今となっては原型が無く判断する事が出来ないが…


周りの光景に強烈な衝撃を受けている柊だが、ユキはそれをものとしない程に静かである。

「ユキはこの周りを見て怖くないの…?」

「ん…全然」

「そうなんだ…」

少しショックである。女の子があの様子なのに、僕はこのビビりようである。流石に引き篭もりすぎたな…

病院の光景を思い出すと共に、重大な事に気づく柊であった。

「あ…僕そういえば『BLOOD』で死ぬんじゃ…」

「それに関してはこの人に聞こ?…ね」

目の前には一つの古い録音機がポツンと悲しげに置いてあった。



―世界は直に終わる―

録音機から砂音混じりに声が聞こえる。

「我が娘に告げる。この世界は直終わる。

だからユキには死んで欲しくない。これから言うことを一人で実行するんだ。大丈夫…ユキなら出来る─

この録音機の横に唯一の希望、『HOPE』を置く。これを持ち、ユキの信頼出来る人間に刺すのだ。さすれば力になってくれる筈だ。

本人は辛いかもしれん…しかし世界は人の過程などは気にしなくなる。結果だけが優先される世界になる…。全くやな話だな…ユキ。

そして『HOPE』はこれから起こる未知なる

ウイルスに対抗出来るものだ─

この『HOPE』を授与された者は『吸血鬼』の亜種となる。能力は人の血…『意志』を使い、様々な系統を駆使(くし)して戦う。

そしてユキ、お前は『立ち向かう』意志の持ち主だ。必ず力になるだろう。無責任な事を言っていると分かっている。しかし父さんは多分生きて帰れない。これから研究者共と戦争だ。全く呆れるよな…。これだけの被害があるのに未だ「研究、研究が全て!」だそうだ。

じゃ…後は頼んだ」


「人の『意志』…」

「シュウ…貴方は選ばれたの」

「何で?!君の父さんは『信頼』出来る人間に使えって…」

「私が選んだ」

「うっ…」

真顔で柊に近づく迫力に負けた柊は黙ってしまう。

(めっちゃ近かった…ふぅ)

「シュウ…これから貴方と私は狂った研究者と戦うの」

「戦う…」

先程の事は覚えていない。ユキの『立ち向かう』意志の影響で、前も見ず戦ったのだろう。しかし問題はそこではない。これからユキの血をずっと使う訳にはいかない。そして他の人間の血を使うことになる。その時、自我がある状態で戦う事になる。その時に覚悟が出来るか…


「シュウ…?」

しかし震えている僕の手を無表情で握るこの女の子を一人に出来るだろうか…?

手放す方が出来ないだろう。それに比べたら戦う事も怖くない。


ユキを守りたい一心が、この場の恐怖を振り払った。



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