第4話 『吸血鬼』な「救世主」

身体が熱い。闘志が…力が…血が―

あちこちで燃えるような感覚がある。

脳は『戦え』と命ずる―


『逃げ』の一択は無い。あるのは全滅させるまでの『戦意』―


手は離さない。彼女と繋いだ手を強く握り、前へ…前へ…

大勢の大軍には赤く色づく。真っ赤に、血色に染まっている。全身の血管は赤く光っている。柊の精神、肉体は大軍に向かい走り出す。


「フッ…構わん!殺れ殺れ!」

「イエッサー!」

規律正しい兵隊達は一斉射撃を放つ。

しかし、弾はたった2人の人間に当たらなかった。高速移動をしながら前進をする。

柊の進む道は焼けた跡がある。スピードのあまりに、摩擦による発火が起こっているのだ。


「シュウ…貴方…熱い…」

しかし彼女の言葉は柊に届かない。

柊は何かの衝動に駆(か)られるかの様に、ただひたすら前に進み殴り倒すだけである。

「(父さんはこの『HOPE』を人類の希望だって言っていたけど…、あまりにも…異常)」

戸惑う彼女だが、そんな事を察すること無く柊は進む。


「この…化け物がッ!」

「うぅ…ウァア!」

嘆きに聞こえる叫びが柊から聞こえる。

しかし声とは裏腹(うらはら)に、柊の攻撃は加速していく。

先程までいた大勢の敵は次々と倒れていく。最初に感じた『突破不可能』を柊は異常な力でねじ伏せた。

遂には司令官の所にたどり着くまで近づいた。先程とは別人のような弱々しい言葉が柊の耳元に聞こえた。そんな言葉を聞く事の無い柊だが…

「や…やめろ!これ以上は―」

「ああああああああ!!!」

雄叫びと共に司令官が勢いをつけて吹っ飛んだ。

真っ赤に染まった柊の目が、優しく力無い瞳に変わる。

「は…はぁ…何だコレ―」

「シュウ!」

「え…?ハッ!君は―」

「逃げるよ」

柊は彼女について行く形で場を離れた。


ある市街地―

「シュウ…ごめん」

「ん?何が…?」

「その…暴走みたいな事になって」

「まぁ…ちょっと痛いけどね。運動してない僕が悪いし、君が無事で良かった…」

「……………」

彼女は申し訳なさそうな顔で俯いた。

何とも話しかけずらい雰囲気だ。ただでさえ入院生活を長い時間送ったのだ、コミュニケーション能力は皆無(かいむ)である。どう話せばいいか分からなかった。

「え…えーとさ、君の名前聞いていい…?」

「ユキ…」

「ユキ…か…」

何とも可愛らしい名前だろうと思う。響きが良くて何度も呼びたくなる名前だ。それにこの可愛らしさ。パッとしない顔で地味な柊にとっては羨ましい限りである。

(僕も美形に生まれたかったなぁ…)

「そういえば!ユキは何で僕の名前を知っていたの…?」

「調べたの…」

「何で…?僕なんかを―」

「『なんか』じゃ無いよ。貴方は『救世主』だから…私の―」

「きゅ…救世主?そんな大袈裟な。それに僕は君と初めて会った気がするんだけど…」

「そうね…そうかも、初めてだね。でも貴方は『HOPE』に選ばれた」

「『HOPE』…?」

先程から『HOPE』と言う言葉を聞く。あの司令官もユキも言っている。一体何なんだ…

「ねぇ…『HOPE』って何?」

「それは…私が今日、口移しした物」

「は?!」

衝撃的な言葉が聞こえたので驚いた。

忘れかけてたあのキスを再び思い出してしまった。意識してしまうな…

「あれは人類の『希望』。『BLOOD』による『ゾンビ』を唯一、排除出来る物…。詳しく言うなら『吸血鬼』の力なの。『HOPE』は『吸血鬼』の亜種の力を薬剤化した物…」

「『吸血鬼』…?!」

柊は大軍との戦いを振り返ると、少しうなずける事があった。ユキの『血』を舐めた瞬間からおかしくなった…。それが一つだろう。

「『吸血鬼』なら『BLOOD』によって半不死身化された『ゾンビ』共のウイルスを取れるのよ」

「なるほど…、でも何で僕に―その…『HOPE』を渡したの…」

キスの事を思い出すと余計意識してしまう。いかん、いかん。集中だ…

「それはね…父さんが言っていたの」

「父さん…?!」

「私も詳しい事は分かってない。だから聞きに行く…」

「父さんは何処にいるの?」

「死んだ…」

「へぇ~って―ええ?!」

話の流れに脱線するような言葉に、オーバーアクションをする。

「死んだって、どうやって聞く―」

「録音機」

「は…はぁ」

これから僕は、ユキの父さんの言葉を聞きに行くようだ。


これから…僕はどうなるんだ?

全く違う世界に踏み入れてしまった柊は、どこか恐怖と不安を感じていた。

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