第3話 『立ち向かう』って言う強い意志

あれから何時間歩いてるだろう…

途方に暮れる程歩いていた僕である。ココ最近は運動をしていない影響で、身体のあちこちが痛む。恐らく筋肉痛である…

「早く…安全な所に…」

後ろから大量の『ゾンビ』達がのそのそと歩いているのが分かる。僕が足を止めなければ襲われる事は無い速さである。

「少し…休憩しよ―」

静かな商店街の店前でガクリと肩を落としてしまった。

(少しだけ…少しだけ休憩して、また出発を―?!)

しかし感染者50%である。迫っている『ゾンビ』だけが脅威では無い。街に蔓延(はびこ)る『ゾンビ』がいてもおかしく無い。そしてその『ゾンビ』達に出くわしたのである。

「しまったッ―!」

掴もうとする腕を何とか振り解くが、多勢に無勢…1体だけでは無かった。

複数の『ゾンビ』が一斉に襲いかかる。

「ヤバい…終わった―」

脳裏には『挫折』の言葉が浮かび上がる。『逃げ』の選択すら成し遂げる事が出来なかった者の結末―

(あぁ…これで終わりか…。今度こそ僕の終わり―)

諦めるている筈の柊(しゅう)は、動かず死ぬはずだった。しかし彼は逆に猛スピードで『ゾンビ』達の群れから逃げ出した。

「終わって…はァ…たまるかァ!」

『逃げ』、『生きる』、『立ち向かう』。

赤髪の女の子の言葉が、柊の心に『希望をもたらしたのだ。

「今はとにかく生き残って…あの子に会うんだ…!」

何度も挫折しながらも、自分の『諦め』と戦いながら、彼は走り続ける。


とあるビルの広間より―

柊は走る事に夢中で、場所の把握が追いついていけてなかった。同時に、広間で起こっている事にも把握が追いついていない。

「き…君は?!」

「来ちゃ駄目…」

目の前では何百という兵隊が赤髪の女の子を囲んでいた。その中で司令官らしき男が女の子に迫る。

「一つだけ聞く。『HOPE』は何処にやった?」

「教えない。貴方には…」

「そうか…この糞ガキがッ!」

男は女の子の腹を目掛けて蹴ったのだ。

影で見ていた柊だったが、この光景に耐えられず飛だしてしまった。

「彼女に…何をした!」

「ん…?なんだね、君は?」

周りの兵隊は銃を一斉にこちらに向ける。部外者と判断した時に放つためだろう。

「君は?その服からして病人だね。何をそんなに怒っているのだ?」

「今…彼女の腹に―」

「しょうがない、国の為だ」

「なっ…なんだと…?!」

「この糞ガキは最大勢力となる『HOPE』を盗み出したのだよ…。それがあるだけで『BLOOD』が治療できるかもしれないだぞ?」

「ち…違う。あの液体はそんなのじゃ―」

「黙れ糞ガキッ!」

「うっ―」

足元にいた彼女は何度も蹴られていた。

いくつかの感情が爆発しそうな勢いだった。

もう『BLOOD』で死んだって構わないのだ。今はただ、彼女を救いたい一心だ。

「離せ…彼女を…」

「断らせて頂こう…」

「離せって…」

「ん…?」

「離せって言ってるだろう!このクソ野郎!」

「そんなに欲しいか…?ならやるよ…ホレっ!」

「キャッ―」

彼女は投げられた。しかし何とかキャッチする事に成功した。体力が限界というのに、なかなかの根性で押し切ったと感じる。

「大丈夫…?!」

「ありが…とう。それより、力を貸して…」

「力?僕にそんなのは無いけど―」

「ある」

「え…?」

「少し待ってて…うッ―」

「?!」

彼女は途端に自分の腕をナイフで少し切った。少量の血が流れている。彼女はその腕をこちらに差し出してくる。

「舐めて」

「は…ハイっ?!」

「私の『意志』は強いから…」

「『意志』?」

「おやおや…?何をしてるのですかねッ!」

背後から襲う司令官の攻撃を、彼女を抱えながら紙一重で避ける。

「シュウ…早く」

「え…?そんな事してどうにも―」

「シュウ!」

「ええい!どうにもなっちまえ!」

シュウは羞恥心と疑問を押さえ込み彼女の血を舐めた。

「んっ…∥あぁ―」

熱い吐息が少し感じる。しかし柊はそれ以上の事態に陥(おちい)っていた。

「あ…ウァァァァァァァァァ!!!」


柊の見ている世界は一変した。景色は赤に染まり、周りの人間の動きがスローに見える。

身体の調子が良い。血の流れがハッキリ分かる。足や手に異常に力が入る。今なら何でもできそうだ。

脳は『立ち向かえ』と命令する。身体もそれに応じ敵の方を向く。ただ前だけを見ている。

「どうなっているんだ…?」

「これが『希望』」

「『希望』?」

「人の血に伝わっている『意志』を力に戦う能力」

「血…ハッ!君の血を飲んだから…」

「さぁ…恐れないで…戦うの」

彼女は僕の手を強く握る。視線は強く、相手に向けている。

「ハハッ!友情ごっこですか?笑わせる…殺りなさい」

司令官は腕を僕達に向け、発砲の許可を出した。

「さぁ!撃ちな―」

「ウォォォォォォォ!!!」

片手は彼女の手を握り、正面を走り抜ける。

「き…気でも狂ったか、馬鹿が!」

今の柊には恐怖が無い。挫折も無い。覚悟という諦めも無い。覚悟は=で諦めだ。

そんな気持ちが、今は湧くことは無い。

あるのは『立ち向かう』…それだけ。


「覚悟しろよ…!この野郎!」

彼女の手を強く握り返し、柊は強く言い放った。


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