第30話 捨て子
さて。最終話となりました。
どの話で締めようかと悩んだりもしたのですが。
最後は。
怖い話ではありません。
私が体験した、不思議な話を、ひとつ。
◇◇◇◇
数年前のことだ。
私の幼馴染が実家に来た。
彼女は私の母に、「
母からの連絡を受けて帰ると、幼馴染は子どもを抱えて実家にやって来た。まだ首も座っていなさそうな子で、服や小物を見る限り「女の子」だろうな、とは分かったが。
いかんせん、ものすごく細いし小さい。
ひょっとして早産だったのかな、とは思ったが、幼馴染が言わないことを私が聞けるわけもなく、お祝いの言葉を幼馴染に伝えた。
「ほんで、なんの用?」
彼女とは家が隣同士で同い年、ということもあり、数年ぶりに会ったというのに、気付けばいつもと同じ調子だ。基本、乳幼児は大好きなので、彼女の赤ん坊を抱かせてもらいながら用件を尋ねると、「その子のことやねん」という。
「うん?」
乳幼児の発育相談でもしたくて、その機関を紹介してほしい、ということだろうか。そう思って首を傾げると、幼馴染は私に言った。
「この子を、
「拾う、ってなんやねん」
「青嵐の実家の前に捨てるから、この子を拾てうちの家に連れてきて」
そう言われ、納得する。
あれだ。体の弱い子が生れたら、一度捨てて拾い直すと丈夫に育つという言い伝えがうちの地区にもあるのだ。
「あんた、今の時代に何言うてんの」
呆れてそう言うと、幼馴染に睨まれた。
「青嵐のおっちゃんかて、昔捨てられて拾われたんやろ? めちゃくちゃ元気やん」
「いや、そりゃ、そうやけど。……関係ないって」
「とにかく、日を合わせて。青嵐の実家に捨てに行くから。ケータイの番号教えて」
目力強くそう言われ、なんとなく腕の中の赤ん坊を見る。
結構長い時間、幼馴染から預かって抱いているが、赤ん坊はその間泣きもしない。私が仕事で関わる子ども達よりも確かに軽く、儚げに思えたのは確かだ。
私は仕方なく幼馴染にケータイ番号を伝え、日を調整した。
決行日は快晴。
時期は1月だったので、『曇り』でも延期と、幼馴染にあらかじめ伝えていた。寒いからだ。風邪でもひいて、赤ん坊になにかあったら本末転倒だ。
私は実家の縁側に潜み、カーテンの影から門扉のあたりを伺う。ちなみに母も面白がって様子を眺めていた。
時間になると、幼馴染が門扉に現れ、きょろきょろ周囲を見回しながらそっと手に持ったベビークーハンを置く。少しでもこの寒空の下、放置される時間を短縮しよう、ということで、置くと同時に、即座に立ち去れ、と幼馴染に伝えていた。
幼馴染は打ち合わせ通り、ばたばたと去る。
同時に私は縁側のガラス戸を開き、門扉に走った。
クーハンに近寄り、覗き込むと、中には毛布でぐるぐる巻きになった赤ん坊が眠っていた。私はクーハンの取っ手を握り、持ち上げる。ずしり、と重いのは赤ん坊というより、赤ん坊を温める為のいろんなモノのせいに思えた。
私はそのまま早足で隣家に行き、玄関チャイムを鳴らす。
もう、鳴らすと同時に玄関扉が開き、さっき急いで姿を消した幼馴染が立っていた。
私はクーハンを持ち上げ、幼馴染に差し出す。
「子どもを拾いました。この子は丈夫な子です。育ててあげてください」
「そうですか、わかりました。丈夫に育てます」
幼馴染はそう答え、クーハンを私から受け取った。
二人とも、とんでもない大根役者ぶりだったが、とりあえず役目を果たしたし、無事赤ん坊を幼馴染のもとに返せて、私はほっとした。
笑いだしたくなる、なんだか妙なテンションだったが、必死で顔を引き締め「じゃあ」と声をかけた。「うん」。幼馴染も笑いを堪えるような顔をしていた。私は扉を閉める。やれやれ。これで終了。そう思った時、「ありがとう」。扉越しに、幼馴染に似た声が礼を言った。
ちなみに。
この子は今、元気に幼稚園に通っている。
一度、風邪をこじらせて入院したこともあったようだが、数日で退院したそうだ。
それ以外は、大きな病気やケガもなく、目立った成長の遅れもない。
まさに、丈夫な子、に育った。
なんでも、最近はお父さんの影響でフットサルに興味があるらしい。肌は日に焼けて真っ黒だ。女の子なのにどうなの、と思わなくもないが、彼女が元気ならそれでいいだろう。このまま無事に育ち、素敵な女性になりますように。そう、私も願っている。
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