第28話 倉庫の子ども
Cさんが勤め始めた介護施設には、「出る」と噂の倉庫があった。
集会所に隣接する倉庫で、主に余分なイスや机、レクリェーションで使用する遊具をしまっているところだ。
他にも、清掃会社がモップや洗剤溶液などを置いていて、常に換気していないと妙な黴臭さと湿気が籠る場所だった。
その、倉庫から、ひょっこり子どもが出てくるのだという。
リハビリ室で使用するため、レクリェーション用のバランスボールを取りに行った職員は、倉庫内でその子どもに鉢合わせたことがあるらしい。
驚いて立ち尽くす職員の目の前で、こどもはバツが悪そうな顔をして消えたのだという。
後には、遊んでいたらしいレクリェーション用具が散乱していたそうだ。
また、ある職員は、予備のイスを取りに行った後、倉庫を出てからエレベーターに向かう途中、倉庫内にペンを忘れたことに気づいた。
慌てて振り返ると。
そこに、子どもがいたのだという。
この時も、「あっ」と子どもは驚いたような顔をした後、すぅ、と姿を消した。
職員は、「多分だけど、こっそり私の後をつけてきて、驚かそうと思ったのね」とCさんに神妙に語ったのだそうだ。
Cさん自身はこの子どもに会ったことはなく、用事があって倉庫に長居してもなんの怪異や異変に出くわすこともなかった。
それもそのはずで。
Cさんが勤め始めたころには、ぴたりと子どもが倉庫から出なくなったからだ。
「なんだろうね」
職員たちは皆、首を傾げていたのだが。
ほどなく、原因が判明する。
この施設は、開所時より清掃会社と提携をしていた。
館内の清掃はもとより、入浴施設、トイレなども介護職員ではなく、清掃会社が掃除を請け負っていたのだという。
その清掃会社の職員で、開所当時より来てくれていた人が、先日定年を迎えて辞めたのだそうだ。
どうも。
その日を区切りに、子どもは、姿を現していない。
「先日、その清掃職員さんとばったりスーパーで会ったんだけどさ。あの子どもがいるのよね」
倉庫の子どもを見たことがある、という職員がCさんに言った。
あら、久しぶり、と声をかけてきた清掃会社職員の背後には、ぴったりとあの子どもが張り付いていたのだそうだ。
「あれはね、『倉庫にいた子ども』、じゃなくて。『あの人に憑いてた子ども』なのよ」
その職員は肩を竦める。
「多分、あの人の仕事が終わるまで、倉庫でじっと待ってたのね」
あの倉庫は、清掃会社の荷物置きであると同時に、休憩場所にもなっていた。
子どもは。
その清掃会社職員が仕事を終えるまで。
そこで、待っていたのだろう。
時々、介護職員を驚かしながら。
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