第23話 グループメンバー

 知り合いのボラコA(ボランティアコーディネーター)の話だ。


◇◇◇◇


「すいません。紹介していただいたボランティア、私に合わないみたいで……」

 そう言って、Yさんは申し訳なさそうにボランティアセンターにやって来たという。

 Aは「そうですか」と頷き、Yさんにイスを勧めた。


「Yさんの意見を僕がくみ取れなかったですかね。想像していたボランティア活動じゃなかったですか?」

 Aはカウンターの上で軽く指を組み合わせ、Yさんの表情に視線を配る。


 ボランティアセンターとは、「ボランティアをしたい」人と「ボランティアに来てほしい」人をつないだり、ボランティアにかかわる啓発やイベントを行っている部署だ。ボランティアコーディネーターと呼ばれる職員が専任でおり、その事務に携わっている。


 そのボランティアセンターに、「何かボランティアをしたいんですが……」と漠然とした思いを抱いてやって来る人は多い。逆に、「こんな活動をしたい!」と意気込んでやってくる人の方が稀だ。明確なボランティア活動を思い描ける人は、ボランティアセンターに来なくても、自分で活動をしている。


 たいていの場合は、相談者が「何に興味を持っているのか」、「どんな性格なのか」を、ボランティアコーディネーターが会話をしながら探っていく。そうやって、この人が希望しているボランティア活動を提案して、活動が開始される。


 だが、Yさんはそうじゃなかった。

『引っ越しして来たんですが、この町でも子育て関係のボランティアをしたくて』

 にこにこ笑顔でそう話し、以前自分が携わってきたボランティア活動の話を簡潔にAに語って聞かせた。


――― この人なら、どこのボランティアグループでも大丈夫だ


 Aはそう思い、とある子育て支援ボランティアグループを紹介した。本人も了承し、あとは、グループ側が受け入れをしてくれるかどうかだ。


 Aがそのボランティアグループの代表に打診すると、「是非手伝ってほしい」と歓迎ムードだった。メンバーの総意ではなかったが、このグループは気さくな人が多い。大丈夫だろう、とAは踏んだ。


 上手くなじめるにちがいない。

 Aはさして不安も覚えず、Yさんにそのボランティアグループの活動日と活動場所、代表者の名前を伝えた。そして、第一回目の活動を迎えることになる。


 そしてその結果が、『私に合わないみたい』という先の発言だった。


「もし、他の子育ボランティアグループがあれば、紹介してほしいのですが」

 Yさんはすまなそうな顔でAに言ったという。


 Aは頷き、他の団体を紹介がてら、Yさんと会話をつなぎ、いろいろ探りを入れるが、『私に合わない』と言った理由がさっぱり想像できない。


「差し支えなければ、どうして最初のボランティアグループが『あわない』と思われたのか教えて頂けますか?」


 とうとうAは率直にそう尋ねた。

 Aが紹介したボランティアグループは決して排他的なグループではない。これまで何人も新規受け入れをしてくれたし、代表も人当たりが良い。活動内容だって本人の希望通りだったはずだ。


 何故だろう。自分の知らない何かが、あのグループにはあるのだろうか。

 困惑するAに、Yさんは周囲を伺い、人目がないことを確認すると、カウンターに身を乗り出すようにして、ぼそりと言った。


「グループメンバー同士、仲が悪いみたいで……」

「……仲が?」

 きょとんとAは尋ね返す。


「そんなバカな……。あのグループ、とても仲良しですよ」

 Aが笑いながら言うが、Yさんは顔をしかめて首を横に振った。


「だって、仲間外れにするんですよ?」

「Yさんを?」

「いいえ。ボランティアスタッフを」

 Aは頭の中でめまぐるしくボランティアグループのスタッフをひとりずつ思い浮かべる。その間に、Yさんは口早に話し始めた。


「代表の人は、親切に私にいろいろ教えてくださいましたし、当日は役割もいただいて活動を行ったんですが。代表も、他のボランティアスタッフも、ずっとひとりのボランティアスタッフだけ無視をしてるんですよね」

「どんな人を無視してました?」

 Aは腕を組み、顎を撫でながらYさんに尋ねた。Aには全く思い当たる節が無い。Yさんは詳細にAに説明する。


「年は私とおなじぐらい」「少しぽっちゃりとしていて、みんなと揃いのエプロンをつけている」「白髪の目立つ長髪を一つに束ねている」「他の人に話かけるが、誰も返事をしない。見ていて、いたたまれなかった」。

 Yさんは一気にそうまくしたてると、ふう、とひとつ息を吐いた。


「同じグループメンバーを仲間外れするようなボランティアグループには、ちょっと……」

「Yさん……」

 Aは眉根を寄せる。「はい?」。Yさんは首を傾げた。


「いませんけど」


 AはYさんに断言した。「なにが?」。Yさんは不思議そうだったという。


「そんな外見の人、あのボランティアグループにいないはずです」

 Aの言葉に、Yさんは「そんなバカな」と笑った。


「いましたよ。Aさんが知らないだけで……。メンバーが増えたんじゃないですか? ひょっとして新規メンバーさんとか。だからいじめられて、無視されてるんでしょうか」

 Yさんはそんな憶測を口にするが、Aは納得できない。

 あのグループに限って、そんな幼稚ないじめのようなことをするはずがない。

 

 Aはすぐに代表に連絡をし、Yさんの目の前でYさんが語った容姿のボランティアがいるかどうかを尋ねる。


 返事は。

「いない」だった。


「結局、Yさんが視たのは一体誰なのか、全くわかんないんっすけどねぇ」

 Aはしきりに首を傾げていた。


 その後、Yさんはやはり最初に参加したそのボランティアグループに入り、活動を続けているが。

 最初に見た、『みんなに無視されていたボランティアスタッフ』は、その後現れることはなかったという。


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